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かみてん  作者: チムチム・マイン
土運びの舟
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狼男と赤い粉

天国へと続く階段を登る運命にあると諭される主人公のキリス。その階段は、大きく弧を描く螺旋階段であり、どこまでもどこまでも上へと続く。道中、絶望に打ちひしがれた薄幸の女性を目にし、彼女を救いたいと思ったキリスは、神なる創造主に出会えたその時には、彼女の罪に対して許しを請おうと心に決める。地上の土を“方舟”へと運搬する“土運び”が、休憩地点として利用しているジャンクション“泥舟”にキリス達は到達し、赤い頭巾の魔女を助けた謝礼として赤い粉を受け取った。その直後、見ず知らずの少年に襲われる。

 不意を付かれて避けられず、ガツンと鈍い音が鳴った。頬を力いっぱいぶたれた。キリスは頭をかばい、腕の隙間から相手の姿を見た。背の低い釣り目の少年が、棒を手にして立っている。彼の昂ぶった気持ちが落ち着くまで、ぶたせてやるべきか考えた。打ち負かされる事を承知で、もう片方の頬をも差し出すべきなのだろうか。


「お前、受難者だろ? それなのに灰蛍グレーテールとつるむなんて、お前に誇りは無いのかよ! 俺はそういう奴がいちっばん許せないんだ! さあ、魔女から受け取ったものを渡せ」


-やり返してはならない-


 打算的な善の判断に身を委ねた時、天使の一言が救いをもたらした。


「あなた、暴力は良くないわ」


 釣り目の少年は初めて天使の存在に気が付いたようだ。天使の美しさに息を飲み、「天使ちゃんがそう言うのなら」と、ぶつのを止めてくれたので、事情を聞く事ができた。


「洞窟で、小さな土嚢を背負った子どもが登ってくる。土の受難を持つ仲間、友達になれると思ったんだ。だけど、びっくりしたさ。土嚢じゃなくて灰蛍(グレーテール)だったんだから。自分の子どもすら食っちまう魔女と、どうして子どものお前が仲良くしてるんだよ? それに灰蛍グレーテールから粉袋を受け取っているのをはっきり見た! お前は魔女の仲間、つまり悪魔だ。どうして悪魔が天使と一緒にいるんだ?」


 キリスはどう答えていいか分からなかった。


「安心してください。私達と魔女とは、あなたの言う仲間ではありません」


 天使が助け舟を出してくれた。少年はしばらく黙った。


「……そうなのか、安心したよ。じゃあ、一つ聞くけど、こいつが悪い奴ではなかったとしたら、分け隔て無く灰蛍グレーテールとつるむこいつは一体何者なんだ? 見境なく困っている人を助ける善人だって言うのなら、灰蛍グレーテールよりも困っている俺を先に助けてくれよ」


 少年はひざまずいて頭を垂らし、わんわんと泣き始めた。


「やめてください、そんな格好をするのは」


 思わず大きな声が出た。ジャンクションにいる者達がキリス達に関心を示し始めた。


「どうか取り返してくれよ! 灰蛍グレーテールが巨人の指輪を奪ったんだ。俺がそれを大切にしているのを知ったから。言う事を聞かなければ壊すって脅したんだ。俺は言う事を聞き続けた、そうすれば返してくれるって約束したから。けれどあいつは約束を破った。……あいつから巨人の指輪を取り返してくれ!」


「取り返せるかどうか分からないから約束はできないけれど、出来る事なら協力するよ」


 少年は泣いたまま突っ伏していた。


「その巨人の指輪はどこにあるの?」


「おい受難者、気をつけろよ! そいつは、風の受難者に狙いを定めて面倒事に巻き込む奴なんだぜ」


 好奇心に顔を輝かせながら、どこからともなく人が集まっていた。少年は、冷やかしに集まった者達を無視した。


灰蛍グレーテールは、財産を大舟おおぶねのやぐらに集めているから、きっとそこにあると思う。でも、ずっと監視がいるんだ。俺なんて、いつも目をつけられているから、嫌でも注意を引いてしまう。でも逆にそれを利用して、俺が奴らの気を引いている間に、お前が奪い返して欲しいんだ」


 何か悪事に加担させられている気もしたが、これも人助けなのだろう。


「分かったよ」


 少年の顔がパッと笑顔になった。分かりやすい。


「なんだ、お前良い奴じゃないか。俺はバッタ! お前はキリスだろ? さっき聞こえたよ。大胆な奴だよな、ミミズクの一字を名乗るなんてさ。俺達は友達だ! よろしく!」


 バッタはキリスの手を握り、ぶんぶん振った。


 階段から逸れてジャンクション上層を通り抜ける道ではなく、今まで通り階段を登り続ける事になった。


「おお、バッタ。行っちまうのか、お前は土の受難者なのに。ここから出ていけば、誰もお前を守ってはくれないぜ。愛しのキアゲハも、ついに愛想を尽かすだろうな」


 冷やかしの一人が言った。


「雨が降ればここも危なくなるから、どうせいつかは上らないといけないしな」


「お前まさかノーの伝承を鵜呑みにしているのか?」


 ハハハと笑いがあがる。


泥舟どろふねなんだから雨が降ったら溶けて沈むに決まってるじゃないか! それが分からないんだ、こいつらには!」


 嘲笑されて頬に赤みが差したバッタが、キリスと肩を組んだ。


「めったな事を言うなよ。沈む沈むって言うから、沈むんだろうが」


「沈むと声に出してさえいなければ、ここが沈む事はないと信じている愚かでおめでたい連中なんだ、こいつらは。何回でも言ってやるよ。雨が降ればここは沈む!」


「そう思うんだったらさっさと出て行けよ。けどいつでも帰ってきていいからな。どうせいつもと同じさ」


「二度と帰って来るかよ」


 バッタは後ろを振り返らずに階段を登り始めた。


「風の受難者! バッタごときに利用されんなよー」


 冷やかしの一人が声を上げたため、バッタが品のない動きで応戦した。


「仲が良いんですね」


「まさか。あいつらは俺が失敗してどうせ泥舟どろふねに戻ってくると思って馬鹿にしているんだ。俺はやる。俺は必ずやり遂げる! 巨人の指輪を取り返してここを出て行く! マナに誓って。どんな困難が待ち受けていようとも、今度こそは絶対にな!」


 バッタは自分の拳を見ながら決意を新たにした。


「到着と同時に出発か。ジャンクションがどんな場所なのか知りたかったんだけどな」


 キリスは心残りだった。


「ジャンクションをじっくり見たかったと言うのなら大丈夫よ。あなたには、その機会が用意されているから」


 天使が言った。


「そうか、風の受難者なんだな。ジャンクションなんか珍しくもないぜ。次にもあるし、さらにその次にもな。それに、泥舟どろふねなんて、下衆げすがたむろしているだけだし、見所なんてなんにも無いぜ」


 とはいえ、上から見たジャンクションの眺めは気を引くものであった。休息所や居住区への出入り口に通ずる大小さまざまな穴には、布で仕切りがなされ、その内部はそれぞれ、ジャンクションの下層と交通している。甲板に出ている人々は、キリス達の姿を見つけると、珍しそうに指をさし、驚き、そして笑っていた。背中に大きな土嚢を背負っている人も少なからずいる。気のよさそうな服を着た大きな動物もいる。キリスは、ふと気になった事を天使に聞いた。


「彼らの多くはここに住んでいるんだよね?」


「そうね」


「どうして上を目指さないの?」


「目指せないのよ。間違った命令に支配されているから」


 天使が言った。


「一度ここで良いやと諦めてしまうと、もっと良い場所があるのに劣った環境に甘んじてしまう。最初の競争に敗れたが最後、上を目指す事は二度とせず、ここに居ついてしまうんだ。マナが取られているから云々の問題じゃないのさ」


 バッタが言った。


 階段を登りながらもジャンクション上層を眺めていると、金色の甲冑に身を包んだ騎士を中心にして、甲板中から人々が集まってきている事に気が付いた。騎士は、金色の兜を脱ぎ、金髪を風になびかせながら演説をしている。


「すでに聞き及んでいると思うが、このたび、泥舟どろふねから大舟おおぶねまでの間、行進を行う運びとなった。ミミズク様の特別のご配慮である。もちろん、近頃、急増する中毒者ドランカンによる被害を考慮してのことである。ミミズク様が最も重要視するのは忠誠心だ。方舟はこぶねの一部となる土を運ぶ貴君らの努力により、方舟はこぶねは存続し、今この瞬間にもその規模は拡大している。ご苦労に思う。私もまた、ミミズク様に永遠の忠誠を誓った。通り名には、恐れ多くも貴重な一字をいただいたスコーピオン、三人衆の一人でありながら護衛隊随一の実力を持つこのスコーピオンが、じきじきに討伐の任務に参った。紹介しよう。この、強くて頼りになるのが土蜘蛛、今回の任務に当たって、私の相棒を勤めてくれる。多少いかつい顔つきをしているが、貴君らに危害を加えることは無いので恐れなくて大丈夫だ。安心して土を運ぶように」


 土蜘蛛と呼ばれた巨大な生き物は、不自然なほど上半身が大きかった。半壊した冑からは鬼のような形相の骨格が露出し、つぎはぎの布と甲冑によって体の大部分が覆われてはいるが、肉質はほぼ見当たらなく、肋骨などは完全に剥き出しになっている。


「スコーピオンか、あいつは無駄にまぶしいから嫌いだ。にしても珍しいな。大舟おおぶねから方舟はこぶねの間なら頻繁に行進しているけど、泥舟大舟間はこれが始めてだぜ」


 キリスは引き続きジャンクションを観察した。ジャンクションは船尾に向かうほど傾斜が強くなり、斜面が急になるにつれて横穴の縁取りや、モニュメントに華美な装飾が施されている。地位が高い人が住んでいるのだろう。増築が予定されている箇所には、見たことのない道具や資材が積み上げられていた。


「へえ~、面白いね」


「面白がっているところ悪いけれど、前を見てくれよ。中毒者ドランカンだ」


 そう言うとバッタは回れ右をし、元来た道を下り始めた。


「何をしているんだよ。今はタイミングが悪い。行進に加わるしかないぜ?」


 前を行く天使に聞こえなかったのか、天使は足を止めない。天使のすぐ先には、大男がドッカリと腰掛けていた。けむくじゃらの大男は、大きな耳・大きな手・大きな口を持っていた。大男は狼だった。


「おい女、ケラの居場所を知っているか?」


 狼男がしゃがれた声で言った。天使は左右に首を振った。


「知らないならいい」


「通っても良いですか?」


 キリスが聞くと、狼男はガハハと豪快に笑い、すぐに不機嫌そうに説明をした。


「いいか? 俺様は今、お前達よりも高い所にいる。つまり、俺様の方が偉いわけだ。その俺様を越えて行こうって言うんだから、タダで、というわけにはいかないだろう?」


 キリスは天使と顔を見合わせた。


「重心は取らないでいてやるから、ありったけの粉を出しな」


 バッタがやっぱりこうなるのか、と、無念そうに首を振りながら自分の粉袋を手渡した。


「チッ。少ねえな。いつもなら絶対通さねえが、珍しい物を見つけた俺様は今気分がいいんだ。特別に通してやるよ。その代わり気持ちを込めて言え、『突き落とさないでくれてありがとう』ってな。粉の足りない分はマナで補わないとな」


 バッタは顔を真っ赤にしつつも要求されたセリフを言うと、狼男の脇を通してもらった。


「次はお前だ。ここを通りたければ、さっき、灰蛍グレーテールのばばあから受け取った粉袋を渡してもらおうか。俺様は視力がいいんだ」


「それはいいけれどあなた……これ以上は危ないわ。あなた自身は粉を吸わないと約束できるかしら?」


 天使がそう言った後、少し間を空けて、「いいぜ」と言い、にやにやしながらキリスから粉を受け取った。キリスは道を譲ってもらえた。しかし、天使が横切ろうとした時、狼男は天使の腕を掴んだ。


「おいおい、粉は一人分だ。チビはどこへでも行け。だが、女! お前は俺様と過ごすんだ。お前は今から俺の物だ」


 狼男は天使の腕を離さない。


「女は貴重だ。ミミズクが根こそぎ連れて行ったからだ。下に残っている女と言えば、灰蛍グレーテールのようなばばあか、生意気なクソガキばかりだ。確かに、お前も幼さが残っているが、いい女には違いねえ。俺様もいつかはミミズクのように女だけの花園を作るのさ」


 バッタは遠く上方で、オロオロしながらこちらの成り行きを見ている。勝算があるんじゃなかったのかよ、とでも言いたそうな顔だ。その時、立派な口ひげを蓄えた小太りのおじさんが息を切らしながら階段を駆け上がってきた。


「ヤスデ、天使ちゃんから手を離しなさい」


 おじさんがそう言うと、狼男はカーッと喉を鳴らして、ペッと痰を吐いた。


「その名前で俺様を呼ぶのはやめてくれ。こんなざまになったのも、あいつの一字を名乗って、決闘オーバードーズをしたからだ」


「では、お前の事はなんと呼べばいいんだ? お前はヤスデ。ヤスデなんだ。さあ、乱暴をやめて、天使ちゃんを放しなさい」


「だったら、粉を持って来い」


 狼男はなおも天使を捕らえたまま、キリスが渡した粉袋を食いちぎった。天使は「ダメよ!」と叫んだが遅かった。サラサラした赤い粉が狼男の口に流れ込み、狼男は愉悦に満ちた表情になった。


「たまんねえ……おお、神よ。この安らぎと解放感を求められずにいられる奴の気が知れないぜ。カッカッカ!」


「だがお前は、粉を手に入れるために、大事な物を犠牲にし続けているじゃないか」


 再び空気が張り詰めた。


「はあ。やっぱり量が少ないな。なあ、教えろよ。俺様はどうして粉が無ければ到底やってられない、こんな体になっちまったんだ? 教えてくれ!」


 狼男の呼吸は乱れ、拍動を止めようとでもするかのように胸を押さえている。


「まずい、禁断症状が出始めている」


「気付いて! あなたならきっと止められます。全ては、あなた次第なの!」


 天使はこぼれる涙に目をしばたたかせながら訴えた。


「それ、本当に言っているのか? こんな体になった今でも、後戻りができると?」


「ええ、ええ」


 狼男は毒気を抜かれたように見えた。


「これまでに何人もの女を喰ったんだ。許されるわけがない」


「いいえ。あなたに、悔いる心があれば、改めるのに遅いなんて事は決してないわ。救いは必ず」


 天使は目をつむって祈りを捧げている。


「かは、かははは……マジで言っているのか?」


 もはやすがるような声色になった狼男、天使の説得が効果を上げているかに思われた。狼男は天使から目を離し、考え深げに目をつむった。しかし、再び天使を見つめたその目には、獣の色が宿っていた。


「なあ、純白の天使様……でも、これだけは、これだけは、」狼男の鼻息が荒くなり、毛が逆立った。男はむくむくと巨大化し、これでもかと言わんばかりに口を大きく開いた。頬に涙を伝わらせながら、一点の曇りなく男の身を案じる無垢な天使を、丸呑みにすべく喰らいついた。「やめられないんだよな~!!」


「“マクベス”! 天使ちゃんを放し、すぐに階段を降りるんだ!」


 おじさんが言った。突然放たれた狼男のマナ、状況は劇的に変わった。狼男はたちまち萎縮し、「ちくしょう! 覚えていやがったか! 嫌な奴! マナをいつまでも忘れずにいるなんてな!」と吐き捨てるように言い残し、天使を離して階段を下って行った。


「マナを拡散させる気は無かった……今しがたひどい目に合わされた君達への申し出としてはなんだが、彼のマナは忘れてあげておくれ……昔は彼もいい奴だったが、灰蛍グレーテールが心の弱みに付け込んでな……それから変わってしまった。彼もまた被害者なんだよ」


 おじさんは悲しそうに言った。


「久しぶりだなテントウ! 助かったよ。俺達の天使ちゃんが危ないところだったんだ」


 バッタが揚々と戻ってきた。しかし、その元気も長くは続かなかった。バッタの表情が再び恐怖で歪んだ。


「まずい、今度はキアゲハだ」


 バッタの視点を追って階段の先に目を向けると、大きな土嚢を背負った女の子がドスドスとやってきた。体の小ささゆえに強調され、土嚢がことさら大きく見えた。


「バッタ! 今の中毒者ドランカンよね? 粉はもう無いって言ってなかった? 大丈夫だったの?」


 女の子はテントウに軽く会釈をすませ、バッタに迫った。髪は三つ編みで、頬にそばかすがある。


「ちょうど最後の粉を渡してしまって手元にはないよ。テントウが取り返すのを忘れたからね」


「バッタは、私がいなければどんどんダメになっていくんだから。全くしょうがないわね」


 女の子はバッタに粉袋を渡した。バッタは乱暴に粉袋を受け取りながら、余計なお世話だ、とつぶやいた。


「いい? あなたは遠くない将来、方舟はこぶねで私と暮らしていけるのだから感謝なさいよ。それなのにケラなんかとつるんで。ケラとはもう手を切ってってお願いしているじゃない。ケラは狂っているのだから。灰蛍グレーテールがついに中毒者ドランカンにも捜すのを手伝わせているのは知っているでしょう?」


「ケラは何もしていない。ただのこじつけだ」


 キアゲハは聞いていない。


「ケラもケラよ。受難者を集めて何をしようってんだか。あなた達、もう有名よ。でも感謝するのね、私はバッタを見放さないから」


「うっせえって言ってるだろ、かまうなっつの……確かに始めは、皆が言うようにケラはただの変人で、突拍子も無い無意味な事を言っていると思ったよ。でもケラは、中毒者ドランカンの犠牲者を次々と言い当てたんだ。次の標的が自分だと知って助かった奴も実際にいるんだ!」


 キアゲハはムスッとした顔をしている。


「それは何回も聞いたわ。ケラがどうのこうのの問題じゃないの。ミミズク様に目をつけられている事が問題なのよ」


「ミミズク様ミミズク様って、そんなにミミズクが好きならさっさと方舟でリッチになっちまえよ」


 キアゲハがバッタの頬を張った。


「やったな‼」


 二人が殴り合いの喧嘩を始めたので、キリスとテントウは間に入って止めに入った。キリスは両方から散々ぶたれた。


「土の受難があって土を運べないバッタのコンプレックスも凄くてな。二人とも根は正直でとてもいい子なんだよ。誤解しないで下され」


 キアゲハにぶたれながらもテントウがキリスに言った。


「俺は何もかも奪うって言っているんだ。もっと俺の事を怖がれよ」


「そんな事言ったって。優しいの知ってるもん」


 キアゲハも譲らない。


「結局、俺はお前のマナを知らない。そして、お前も俺のマナを知らない」


 キアゲハは頬を赤くして言った。


「当たり前でしょ? な、何が言いたいの?」


「俺はケラ達と共有しているんだ!」


 キアゲハの息を飲む音が聞こえた。キアゲハの顔がみるみる青ざめていく。


「あんた達がそこまでの関係だったなんて! 知らなかったわ!」


 戦いは終結した。キアゲハはメソメソと泣き始めた。


「なんと! これは驚いた。ケラ達は共有者だったのか……キアゲハちゃん、バッタに何を言っても無駄だ。バッタは本気だよ」


 テントウも驚きを隠せないようだ。バッタは静かに、しかしハッキリと言った。


「俺はお前を大事に思っているし、一緒に住みたいと思ってる。でも、それとこれとは話が別なんだ」


 キアゲハは黙った。放心状態となり、独り言を言っている。


「私は賛成しない。あの狂った男と手を切らないなんて、あり得ないわ……」


 しかし、バッタのいつもの覚悟とは違う何かを感じ取って観念したのだろうか。


「でも、私はバッタを見捨てない……バッタは私がいないと何も出来ないもの!」


 そして涙を流しながら言った。


「バッタは間違った事をしようとしている。私がやめさせないと!」

※2/22 誤字を修正。”便り” → ”頼り”

※2/22 一部修正。

     「うっせえって言ってるだろ」かまうなっつの、とつぶやいた。「確かに

    →

     「うっせえって言ってるだろ、かまうなっつの……確かに

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