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かみてん  作者: チムチム・マイン
土運びの舟
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ジャンクション”泥舟”

天国へと続く階段を上る運命にあると諭される主人公のキリス。その階段は、大きく弧を描く螺旋階段であり、どこまでもどこまでも上へと続く。道中、絶望に打ちひしがれた薄幸の女性を目にし、彼女を救いたいと思ったキリスは、神たる創造主に出会えたその時には、彼女の罪に対して許しを請おうと心に決める。気性の荒い獰猛な“土運び”の二人組み、ずる賢い“魔女”がそれぞれ目指す“ジャンクション”なる場所に、キリスは興味を抱き始める。

 キリスは魔女を背負いながら、階段を上る。ジャンクションは、徐々にその全体像を現した。その巨大な物体は、おおむね土で出来ていた。強度を保つために、ところどころ大きなレンガが組まれている。舟の底を思わせるような曲線だと思ったが、実際その考えは正しかった。下から見上げるだけのキリスには把握するすべは無かったが、ジャンクションの形は舟そのものであった。上下二層の数百段を活用しているために数十人が居住できる。ジャンクションの両端の一部は上層の数段と接し、そこを支点として吊るされるハンモックのような概観でもあった。底面の一部は下層の数十の段を飲み込んでおり、螺旋の上下の層は直接行き来ができる。


 キリス達はジャンクションの底面にさしかかった。塗装や外壁が剥げ、あちらこちらで骨組みが露になっている。まだ完成していないのか、あるいは、少しずつ形を失って消滅の一途を辿っているかのどちらかだ。階段は、舟底にスウッと吸い込まれて暗いトンネルとなっており、通路が湾曲しているせいだからか、入り口からは出口が見えない。


「出られますよね?」


 その暗さに不安を感じたキリスは魔女に聞いた。


「通り抜けるだけじゃから大丈夫じゃよ。四方から視線を感じるじゃろうが、わしらは中毒者ドランカンではないんじゃからいきなり襲われたりはせん。それに、わしらが中毒者ドランカンだったとしても、わしらを追い出すほどの使命感を持った気概ある輩はおらんよ。せいぜい逃げるついでに周囲に伝える程度じゃろうて。自分達の居場所を守るために戦おう、なんて思いつきもせん。というのも、ここが奴ら自身が作ったわけではないからじゃ。ここに群がっておるのは揃いも揃って腑抜けばかり、受難者だけじゃない。粉を集め、粉を吸うためだけに存在している異形もようけおるて……ほれ、見ろ。あんなになってしもうて」


 大きな体の毛むくじゃらな獣が、臆病そうな小さな目でキリス達の様子を観察している。獣は、キリスと目が合うと固まってしまった。逃げ出したいのに、体が動かないといった具合だ。害意は全くなさそうだ。


「快楽のみを求める獣に成り下がったら終わりじゃよ」


 歩を進めるとジャンクションの下層は意外と明るい事に気がついた。青い石段がうっすらと輝いていたのだ。天井こそ高くないものの、中はとても広く、まるで鍾乳洞のように、ぼこぼことした石柱や石筍がそこかしこに見受けられた。密になった石柱からはくしゃみが聞こえてくる。異形が身を隠しているのだろう。先を見やると、外から光が差し込んでいる。出口だ。キリス達はジャンクションの下層を無事に通り抜けた。


 下層を通り抜けて階段を半周ほどしたところで、横方向からジャンクションの全貌を捉えた。それはまさに舟であり、下から見上げた時とは別種の感動があった。水晶の階段は平然と続いている。


「ここも直に雨で沈む。この泥舟どろふねで満足してはいかん。溺れて沈まないようにするために、大舟おおぶねを目指すべきじゃな。できれば方舟はこぶねで甚住以上の権利が得られるといいんじゃが。受難があると辛いじゃろうな。うんと働かなくてはなるまいて」


 ジャンクションの上層に到達した。ジャンクションの入り口である。石段の連なりと合流しているのはジャンクションの先端の一部であり、石段はすぐにジャンクションとは独立して分岐していた。


「ここで十分ぞよ。世話になった」魔女は背から飛び降りた。「短い付き合いじゃったが、これはほんの礼じゃ」


 なにやらゴソゴソとローブの中を掻き回したかと思うと、目当ての何かを探り当てて突き出した。それは小さな布袋だった。


「老婆心からじゃが、面倒ごとに巻き込まれたくなければ、キリスという名を口にしないほうが良いな。目をつけられたくなければ、名を変えたほうが良い。恐れ多くもミミズク様の一字を名乗るなど……そうじゃ。方舟はこぶねへ向かってミミズク様に頼み、通り名を与えてもらうのが良かろう。望めばマナすらも与えてくれる。なんにせよ、今の通り名のままではよくない」


「どうして僕が、マナを持っていないと思うんです?」


 キリスは、自分が何も知らないという事が魔女にバレている事態に対抗しようとした。これ以上騙されるわけにはいかないと思った。


「ごまかしたって無駄じゃ。お主が風の受難者だとは分かっておる。稚児でも知っとるノーの伝承を覚えておらず、関心を示したのがその証拠じゃ」


 そういうが早いか、ただ者ならざる俊敏な足さばきでジャンクションの中へと去っていった。「なんだ、十分元気じゃないか……」つい独り言がこぼれた。押し付けられた布袋の中身は、手触りからして粉のようであった。粉は赤い光をうっすらと放っている。


「それは預からせてね。あなたには必要の無い物だから」


 天使がキリスの手から粉袋を掴み取ろうとしたその時だ。猛烈な勢いでキリス達に近付く者がいた。棒を振りかざして、いきなり殴りかかってきた!

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