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かみてん  作者: チムチム・マイン
調停者の園
31/37

"竜"

 塔は瓦解しているが、外周の階段の続きには、その先を引き受けるといったように、見覚えのある青い水晶の階段が螺旋を描くように連なっている。一段一段は棺大の大きさであり、幅も奥行きも塔のものの半分以下。もちろん片側に壁なんて無い。塔に慣れすぎてしまったからか、踏み出そうにも足がすくむ。以前は何も考えずに登れていたのに。


 倒壊するのも時間の問題だと思える、形骸を留めるだけの塔。その塔を後にして、僕は再び頂上を目指して階段を登り始めた。カナリアが後ろをついてくる。


「カナリア。機を伺ってか、僕に言っていない事があるよね? 秘密にされているとは思っていないけれど、いいかげん教えてくれないか?」


「……ええ。実はあなた、神様なの。だから、世界を救わないとなりません」


 雨がやんだ。突然の告白。世界を救うなどと、えらく簡単に言ってくれるものだ……ただ、うすうす勘付いてはいた。


「……そうか。なんだかそんな気がしていたんだ。途方もなく大きな何かを背負わされている、そんな予感が。階段を登る事と、関係があるんだね?」


「ええ」


 淡く光るお腹を大事に抱えながら、カナリアはゆっくりとついてくる。


 カナリアをいたわりながらも着実に階段を登っていると、様々な動植物の特徴的な一部分を併せ持った奇妙な生物が、群れながら空を飛び交っている事に気が付いた。大群だ。ぱっと見る限り、6つの集団が天を目指して飛んでいる。その内の一体が、羽ばたきながら僕達に近づいてきた。女性の顔面・草食動物の胴体・鳥の翼・蛇の尻尾を有した姿をしている。異形だ。


「醜さの中にこそ本当の美しさがある」


 塔と関わりのある住民かと思ったが、どうやら違うようだ。


「馬鹿ね。醜いものは醜いの」


 カナリアの言葉を無視し、異形は僕に向かって囁いた。


「そう思ってくださるなら、どうかわたくしにマナを与えて下さいまし。わたくし達をひとくくりに、異形キメラドランカンだなどと呼ばず、個別にマナを与えて下さいまし」


「名を与えてはなりません」


 毅然きぜんと厳しい言葉を言い放つカナリアに、異形は醜悪な顔つきを隠しもせずに見せつけて、そのまま飛び去って行った。


 また別の異形が近づいてきた。青年の顔面・ライオンの胴体・鷲の翼・蛇の尻尾を有している。


「過ちの中にも一筋の真理がある」


「間違う事が正しいだなんて、間違っても正しくないわ。それが分からない間は、上には行けません」


「我にどうかマナを!」


 青年の異形は、悲哀ひあいを感じさせる声で嘆いた。さっきの女性の異形がひるがえってきて加勢した。


「負けるが勝ちよ」


「分からないのね、負けは認めないといけないの」


 カナリアは譲らない。


「分かっていないのは貴方方あなたがたの方だ! 弱さの中にこそ、真実の強さがある!」


「弱いなら弱いと認めなさい」


「マナを。マナを!」「どうかマナを注いでくださいまし!」


 応酬おうしゅうを繰り返しながら迫る二体の異形の激しい熱意に、僕は身の危険を感じた。カナリアを守るためには、雷の力を借りるのもやむをえないと考え、襲い掛かって来ないで欲しいと願った。二体の異形は、襲い掛かってこそ来なかったが、代わりに、聞いていられないような汚い言葉で散々罵倒ばとうして去って行った。


 カナリアは苦しそうに顔を手で覆っている。


「……彼らに名を与えてはなりません。うぅ……」


「大丈夫だよ、彼らはもうどこかへ行ったから。異形の群れも、もう見えない」


「それは喜ばしい事です……」


 疲弊したカナリアは、お腹の重さに危なっかしくよろめく。塔を後にした時と比べ、明らかにお腹が膨らんでいる! 僕はカナリアの腰に手を添えて体を支え、肩を貸した。お腹の中の赤ん坊が動いているのが分かる。


「少し休もう。君の体がもたない」


「ありがとうございます、けれど大丈夫です。もうすぐケテルの園だから」


 カナリアが頭上を指差した。天からは光る樹の枝が無数に伸びて綿を芽吹いている。僕達を迎え入れてくれているかのような枝の造形を見て、僕ははっきりと認識した。あれは天国だ。


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