お前はいつから自分が最強だと勘違いしていた?(その後)
本来ならば第三話構成で終わらせるつもりでしたが、追加で第四話投稿です!
出来れば、『お前はいつから自分が最強だと勘違いしていた?(上)』
『お前はいつから自分が最強だと勘違いしていた?(中)』
『お前はいつから自分が最強だと勘違いしていた?(下)』
が上にシリーズとしてまとめられているので、そっちから読むことをお勧めします。
あるところに一人の少年がいた。
英雄に、歌でしか語られることのない超越者に憧れた純粋な夢を持った子供。
有体に言えばどこにでもいるような、河原の中の一つの小石のような注目を浴び事のない少年だった。
『努力すれば、強くさえなれば憧れの英雄になることが出来る』
そう信じ、ただ強くなることを求め続けた。
そんなただの6歳の子供……のはずだった。
そんな少年の人生を変えたのは一つの事件。
当時、セプトン王国中で騒がれた盗賊襲撃事件だ。
その中で少年は夢を打ち砕かれ、絶望した。
強くなろうと、英雄になろうと努力したこの身をもってしても一人の少女を逃がす事しかできなかった事に。
それも逃がすことが出来たのは自分の力ではない、守ろうとして死んでいった大人なたちがいたからだ。
少年は力不足な自分を、夢にあこがれていた自分を責め続けた。
本来なら少年に責任はない、むしろよくやったと褒められるところだろう。
しかしそれすらも叶わない、少年は一人真っ暗な檻の中に閉じ込められていたのだから。
ただただ時間だけが過ぎていく檻の中、少年は一人考え続けた。
オレがあの時とった行動は本当に正しかったのか。
オレが英雄などといった夢を持つことは間違いだったのか。
そもそもオレは英雄になって何がしたかったのか。
永遠にも思えるほど長い、暗闇の檻の中。
ついに少年は答えを導き出した。
『英雄に成ろうと、強くなろうとしたオレは間違いじゃなかった。
だけどそれでは大切な人を守れない。
また目の前で人が死に、後悔することになるんだろう。
それならオレは英雄に成れなくっていい。
オレは……大切な人を守ることが出来る、そんな一人の男に成ろう』
そして一本の剣を片手に少年は歩み始める。
足についた鉄の鎖を引きずりながら、血の臭いと歓声が混じり合う殺意まみれの決闘場へと。
その少年こそ後に【決闘王】と称えられることになる男。
……【奴隷闘士】ゼオン・アルケインだった。
◆◆◆◆◆◆
地鳴りのような喝采が、雷鳴のような歓声が決闘場に響き渡る。
それらのすべては闘技場にたたずむ一人の男、【決闘神】に向けられた人々の狂喜の表れだった。
セプトン王国において【剣聖】は特別な意味を持つ英雄だ。
しかし同時に、人々において【決闘神】ほど特別な英雄はいなかった。
【死の王】の様に他国から恐れられ、圧力として存在してくれるわけでは無い。
【剣聖】の様に迫りくる災害を退けてくれるわけでは無い。
【鍛冶神】の様に気まぐれに武器を作り、国に貢献してくれるわけでは無い。
むしろ、【決闘神】に対する他国からの苦情が多くて迷惑するときもあるほどだ。
だがそれ以上に、セプトン王国の人々は【決闘神】の生き様に憧れた。
英雄レベルに達しながら正体を明かさず、権力に驕らない気高さに。
盗賊団に苦しめられていた人々の為に、【盗賊王】へと決闘を挑む勇敢さと優しさに。
一人の愛する女性の為に立ち上がるその男らしさに。
それらを力を持った人間の義務だという人がいるかもしれない、しかしそれでも彼らは憧れたのだ【決闘神】という男に。
故に彼らは言うだろう、【決闘神】は紛れもない英雄であると。
「この感覚も久しぶりだな……」
オレは体を打ち付ける歓声の強さに思わず笑みを漏らす。
今までも何百、何千と戦ってきたがこれほど大きな歓声は初めてだ。
(それに……)
オレの後ろにアリシアがいる。
今までのようにただ決闘を行うのでは無い、ただ一人の愛する人の為に戦えるのだ。
その事実がオレの心を高ぶらせ、体を激しく高揚させていた。
それこそ誰にも負ける気がしないほどに。
「さて、覚悟はいいか【剣聖】。
何か言いたいことがあれば今だけ聞いてやる」
決闘が始まれば話すことはもう無い、まともに話すのもこれが最後になるだろう。
何より奴に対して手加減できる気がしない。
オレは静かに奴の言葉を待つ、そして……
オレの横を炎の光線が走り、背後で爆ぜた。
正面には真っ直ぐに手を伸ばした状態で嫌らしく嗤う【剣聖】の姿。
だからこそオレは大きく息を吐く、瞬間的に殺してしまおうかと思った自分の心を落ち着かせるために。
オレは心を落ち着かせながら口を開く。
「今日、アリシアに本気で頑張っていたオレは恰好よかったと言われた」
そんなオレの一言に、【剣聖】は何が言いたいのか分からないといった様子を見せる。
実際に決闘場にいる誰も、言葉の意味を理解できないでいた。
だからオレは忠告する。
「今日、オレは……【決闘神】は本気でやる。
だから……
気張れよ? 【剣聖】」
◆◆◆◆◆◆
そんな様子を見計らったかのように学園の鐘が鳴り響く。
決闘場から音が消え去り、沈黙と緊張が張り詰める。
そして鐘の音が響き渡り完全に消えた瞬間。
轟音と共に一筋の真紅の閃光が走り抜けた。
まさに一瞬、視認できたのもおそらくセプトン王国で数人だろう。
電光石火による超光速の一撃である。
竜をも葬る一撃、だがそれは【剣聖】の体には届かない。
「フッ、フハハハハァ‼ 残念だったなぁ落ちこぼれ!」
決闘場にいた観客がワンテンポ遅れるようにして声のする方に首を向ける。
そこで見たのは、【決闘神】の剣を受け止めた【剣聖】の姿だった。
【剣聖】であるマルスは運がよかった、そして紛れもなく【剣聖】だった。
マルスは【決闘神】の一撃が見えていたわけでは無い、他の観客と同じく真紅の閃光しか捉えられなかった。
だが腐っていてもマルスは英雄レベルだ。
無意識のうちに防御の姿勢をとり、運よく一撃を防ぐことが出来たのである。
そして接近さえすれば【剣聖】の間合いである。
【剣聖】は剣の扱いに特化した戦闘系統のジョブだ。
例え【決闘神】がすべての武器に適性を持つジョブだとしても、剣を使った戦闘で負けることは無いに等しい。
それに加え、【決闘神】が操る真紅の雷も魔剣グラムで吸収すれば優位に立てる。
そのことを理解し、勝てるとふんでいたマルスはここぞとばかりに高笑いする。
「俺の勝ちだ! 泣きながらアリシ、グヴェェ‼」
次の瞬間その姿がかき消えた。
【剣聖】がいた場所には、回し蹴りの要領で蹴りぬいた形で静止している【決闘神】の姿。
「汚ねぇ口でその名を呼ぶな」
そんな言葉と同時に【剣聖】の絶叫が聞こえてくる。
痛みに耐性が無かったのだろう、声を押し殺そうともせず叫び続ける。
ゼオンはそんな【剣聖】に向かってゆっくりと歩きだす。
一歩足を進めることに真紅の雷が迸る、その光景を見たマルスは心の底から恐怖していた。
かつてマルスが討ち取った【戦略級】モンスター アルテイオス。
マルスにはゼオンがそれ以上の化け物に見えていた。
「な、何でアダマンタイトの鎧が砕けるんだ! ドラゴンの竜燐並みの硬さを誇るはずだろ!」
(オレは【決闘王】だった頃に雷竜をこの手で葬った)
返事はしない。心の中で呟きながら一歩、足を進める。
「俺は【剣聖】として努力してきた、それなのになんでこんなに差があるんだ!」
(努力不足だ)
一歩。
「何で、俺はこの決闘で全てを手に入れるはずだったのに……。 それなのに何で‼」
ゼオンは一歩進み立ち止まる、すでにお互いの距離は1メートルもない。
戦闘をするにはあまりにも致命的な距離。
だがマルスはもう戦えない、心を支えていた【剣聖】としての自信は【決闘神】の一撃で砕けていからだ。
(それはな……【剣聖】)
「オレのアリシアに手を出したからだ」
その一言はマルスに対する止めとして十分すぎる力を持っていた。
マルスは知らないことが多すぎたのだ。
魔剣グラムはユニークに分類する魔法は吸収できない事、そしてゼオンが身に着けている武具がかつてユニークに分類される魔法を操った雷竜であった事を。
【剣聖】に満足したマルスと決闘をし続けているゼオンとの間に、圧倒的な経験の差がある事を。
そして【決闘神】であるゼオンの逆鱗がアリシアにある事を。
それ故にマルスは失うのだ、【剣聖】としての名誉も侯爵家としての権力も。
すべては一人の男の逆鱗に触れたことを原因に。
◆◆◆◆◆◆
アダマンタイトの鎧を蹴り壊され、心の支えが砕け散った【剣聖】。
その前方に無傷でたたずむ【決闘神】。
観客の目から見ても勝負が付いたのは明らかだった。
決闘終了の合図が鳴り響き、観客の拍手と喝采が王都中に響き渡る。
そんな中、俺の視線はすでにマルスから離れ闘技場の入り口に立つ一人の女性に向けられていた。
嬉しそうに、それでいて決闘場に入っていいのか分からず困った顔をしながら笑っている。
オレはそんなアリシアの様子に逸る心を抑えながら歩み寄る。
「えっと、おめでとうでいいのかしら……【決闘神】?」
「いつも通りゼオンでいいよ、アリシア」
呼び方で考え込むアリシアに苦笑しながら言葉を返す。
しかし何処となくいつものアリシアとは違う。
(もしかして【決闘王】の正体がオレだったからガッカリしているのか?)
確かにありえる。
正体不明だった【決闘王】が貴族の落ちこぼれだったのだ、そこのショックを受けていつもとは違う態度になっているのかもしれない。
そう考えると、思わず死にたくなってきた。
「……もしかしてだけどオレが【決闘王】だったのは嫌だった?」
不安で声が小さくなりながらも尋ねる。
「違いますわよ? いきなりどうしたんですの?」
「あ、ああ。いやもしかしたら嫌われたのか不安になっただけだよ」
オレは嫌われていないことに大きく安堵のため息を吐く。
そんな様子を見て彼女はクスクスと笑い出した。
「ゼオンってば決闘ではあんなに勇ましかったですのに。
それなのに……フフ、そんな不安そうにするなんて意外ですわ」
どうやら決闘の時との態度の差に笑われたようだ、俺は少し恥ずかしくなり頬をかく。
しかし尚更どうしてオレに対する態度が変わってしまったのか不安になる。
「なら何でそんなにオレに対してソワソワしてるんだ?」
「そっ、それは」
とたんに顔を真っ赤に染め俯くアリシア。
その様子に嬉しくなりながら微笑んで聞き返す。
「それは……何?」
「それは……ゼオンが決闘中にあんな事を言うからですわ」
尻すぼみに小さくなる声に思わず頬が上がるのを感じる。
オレはにやけそうになるのを我慢しながら、先ほどの仕返しを思いついた。
真っ赤になりながら俯くアリシアの耳元に口を近づける。
「……オレのアリシア」
ボンッ! とでも音がしそうなほど、より赤くなるアリシアをみて思わず笑う。
その様子に涙目で怒った顔で顔を上げるアリシア。
(これ以上は本当に怒りそうだな)
そう考えながらご機嫌を取る方法を考え……怒った顔のアリシアを【決闘神】の全力のスピードをもってお姫様抱っこと呼ばれる形で抱き上げた。
(たしか学園で女子がこれが憧れって言ってた気がするけど……間違っていないよな?)
そして確かこれには続きがあったはずだ。
オレは記憶を探りながら、呆けた顔で固まるアリシアに微笑む。
そして……
ゆっくりとその唇にキスを落とすのだった。
◆◆◆◆◆◆
余談ではあるがその後、アリシアは気絶した。
どうやら大勢の前でのキスが恥ずかしすぎて、気を失ったらしい。
そして決闘に勝ったことによって、ハーヴィル殿下とレイラ嬢の婚約は無事に守られた。
【剣聖】であるマルスは、セプトン王国の根底を揺るがす騒ぎを起こした罰として爵位の取り上げ、そして死ぬまで国の一兵士としての強制労働が課せられた。
アドラグル卿によれば、極刑でもおかしくはないのでかなりの譲歩だという。
加えてグラム派である貴族全員には、当主の入れ替えと一定期間の王族に対する税金の前納が課せられた。
オレも一代限りではあるがアルケイン侯爵として名乗ることが許された。
あと変わった事は……ハーヴィル殿下が軽い人間不信に陥ったこと。
そして学園でのオレの評価が上がって、少しだけモテるようになった、そのおかげでアリシアが傍にいてくれる時間が増えたことぐらいである。
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ゼオン・アルケイン
第8冠位 【決闘神】
筋力 S++
堅牢 B
敏捷 S+
器用 A
精神 C++
魔力 D
天性スキル
【不滅の暁星】
スキル
【上級:剣術】【超級:体術】【下級:状態異常耐性】【オーバーロード】【試練の超克】
初号
【竜殺し】【無敗を誇る者】【ダンジョン踏破者】
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最後までお読みいただきありがとうございます!
そして、第三話で完結できずに困惑させてすいません。
もっとスキルなどを利用した戦闘シーンにしようかとも迷いましたが、短編で変なスキルなどをいきなり出しても困惑しそうなので簡潔なかんじにさせていただきました。
一部、視点がコロコロ変わるので読みにくいかもしれません。
楽しんでいただけたら幸いです!