時間制限ありの魔法
「これは魔法のキャンディー。
ただし、効力は1時間だけだ。
1時間だけ何でも願いを叶えてくれるよ」
そう言って知らない男に手渡されたキャンディーを呆然と見つめる。
私は男が落としたものを拾ってやっただけだ。
それだけで感謝され、怪しいものを渡された。
こんな怪しいもの食べれるか!と思うのだが、
何でも願いが叶うとなると気になってしまう。
たかがキャンディー、されどキャンディー。
食べたから、どうにかなってしまうこともあるまい。
そう思って食べようとした。
どすん、と後ろから誰かがぶつかった。
「ごめんよ~」と大きな荷物を抱えたオバサンが通り過ぎる。
持っていたキャンディーはコロコロと転がっていく。
ああああああああああああ。
慌ててキャンディーを追いかけた。
転がったキャンディーは男の足元で止まる。
助かった!と思ったら、男がそのキャンディーを拾ってしまった。
「待って!それ私の!!」
必死の形相でキャンディーの主導権を訴える。
あまりにも必死だったのだろう、男は苦笑しながら私にキャンディーを渡してくれた。
「そんなに大事なものだったら落とさないようにね」
ありがとうございます、とお礼を言って両手で受け取る。
思わずホッとした。
ホッとしてから男の顔をよく見たらイケメンだったので驚いた。
その瞬間にまたキャンディーを落としてしまった。
「大丈夫?」
くすくすと笑いながら男がまたキャンディーを拾ってくれる。
「このキャンディー美味しいよね。俺も好きだよ」
その言葉に思わず「じゃあ、差し上げます」と言ってしまった。
「え?でも大事なものでしょ?」
「いいんです(怪しいものだし)。好きなら食べてください!」
ありがとう、と男はキャンディーの包みを開けると口へ入れた。
「うん、美味しい」と男の顔が微笑む。
イケメンは頬にキャンディーが入っていてもイケメンだった。
「ああ、君の名前を聞いていなかった。教えてくれないかな?」
ぐいっと手を引かれて、腰をつかまれる。
意外な展開に戸惑いつつ名前を告げる。
「君に似合った可愛い名前だね」
チュッと頬に口づけまでされた。
ちょっと待て!
何か可笑しくないか!?
魔法(媚薬入り)なんじゃないのか、これは!!
あの男、嘘ついたな!
後悔してももう遅い。
媚薬入りキャンディーを食べたイケメンを止めることは出来ない。
きっかり1時間、拷問のような好意に私は耐えるしかなかった。
もうイケメンはいらない。