設計ミスの隠蔽…ではない
二話です。まだ事件は起こりません。挿絵ありです。
説明過多で怠いかもです。いろいろ模索します。
Q作成研究部門FLOG。Qの作成、研究を行い人類に有益をもたらすための部門。俺たちチームナインはここ第八研究所の九つ中九つ目のFLOG。現在は未成年四人で構成されてる。
奇人変人だらけの研究団の中でも問題行動が多く厄介なチーム…ってのが周りの意見らしい。
八割方俺のせいらしいけど、納得できないことが多い。始末書は書き飽きた。班員の目が冷たいこともしばしば。
この前なんかは超強炭酸を水中で生成し続ける金魚を作成して、そのQでできた炭酸飲料(イチゴ味にした)を他のFLOGの班長のおっさんに飲ませたら気絶して偉い人にすげー怒られた。
あれ、うまかったのにな。おっさんもノリノリだったよなあ。泡の弾ける音が発砲音じみてたけど。
と、夏休み、八月一日の炎天下のもと、なんとなく憤りを感じてみた。
「うん…やっぱり成長してる、クノ、チェックして」
「へいへい」
クリップボードの上の紙に目をやり、いくつかあるチェック項目の内一つに鉛筆で丸をつける。
真っ赤な球状の実をつけた植物を俺に背を向け屈んで注意深く観察しながら、班長に指示をするのは俺の左前にいる副班長の御美足 巫衣子。
俺たちは研究所の中にある植物型Qの生育施設のど真ん中で緑に囲まれている。動物を主食にする食獣植物や、濃密なシロップを蓄える花、その他諸々が生育されている。植物園で間違ってないと思う。
中、といっても中庭的な話で、強化ガラスの天井を通って日光がガンガン照りつけている。
ドーム型の施設の四方は強化ガラスで囲まれ、ふと右を見るとその中から呑気に椅子に腰掛る若い男の研究員が、飲み物をすすりながらこちらを見ている。俺の右側のガラスの中はカフェになっており、白い椅子と机が並んでいる。食事している研究員もちらほら。
生育施設はかなり広く、見ていて面白いQが多いため、暇な研究員がよく眺めにくる。
「つかあちいよ」
ここに来てからもう一時間は経つ。今日は猛暑日で、時間は十二時と暑さのピークなのだ。
最初は滲むだけだった汗も、滝のように流れ始めている。
空が青い、ついでに白衣の白が眩しい。
「我慢してー、あと少しで終わるから」
「ぬう…」
なにをしているかというと、業務。
今回の業務内容はFLOGチームナインが共同で作ったQ、ワクワク草の生育調査。
ワクワク草の外見は小さな木の先端に、ドッヂボールぐらいの果実が成っている。全十株で五色の果実がある。
違うのは色だけでなく、ワクワク草の果実の特性として色によって起爆条件と効果が変わるのだ。
起爆条件の起爆は、効果が発揮されるときの果実の見た目、現象そのものからつけられている。どうなるかっていうと、分かると思うけど果実が破裂する。そのまんま。
で起爆条件はその起爆が起きる条件で…そのまんま。
十株の内、赤が一株、黄色が二株、青が三株、緑が二株、紫が二株となっている。
作成段階で起爆条件と効果にランダム制を設けることは決まっていて(いずれも果実の色で判別できる、はずだった)、種の作成もうまくいったんだけど、問題発生。
なんと黄色以外の果実の起爆条件、効果が不明に。さらに設計ミスのあるQの多くは正常に成長しないはずなのだが、それが成長してしまっている。昨日の生育調査でそれに気づいた俺たちは、問題の解明に乗り出したわけだ。
そしてなぜこんなものを作ったか、そもそもこれはなんなのか。
定期的に出される課題研究として、要求された条件を満たすために作られたのがこのワクワク草。実用性皆無の無作為特性植物。
作成研究部門FLOGなんて大層な呼び名だが、作られるQのほとんどは実用性皆無で、チームナインも例に漏れない。というか一番変なもの作ってる。
実用性皆無の品を課題研究に提出ってどういうことだよって話だけど、偉い人はなぜかそこらへんは緩い。炭酸で人を気絶させたら怒るのに。
まあそんなところで、実は俺たちはヤバイ。
無作為特性植物といっても、色がランダムなだけで、色に固定された効果、起爆条件は把握できるものとして偉い人に設計図を提出したのだ。
だが、実際は黄色以外の果実は効果はおろか、起爆条件さえ分からないとなっている。
設計図と違う特性のQを作ってしまうと、能力不足と判断されて降格をくらったりする。
地位なんてどうでもいいんだけど、班長クラスの特権、Qの自由作成権を失ってしまうのは困る。
世界一うまい炭酸を飲むという俺の目的のためには、様々なQが必要なのだ。
一般研究員クラスに降格されて、いちいち班長に許可を貰わなきゃQを作れない…というのはあまりも面倒だ。
それを回避するためにも俺たちはワクワク草の果実を分析し、手を加え、本来の効果と起爆条件に戻すというのがプラン。
別に設計ミスを誤魔化そうとしているわけではない、後から手を加えて設計どおりの特性を得るならなんでもいいのだ。確か。
とにかく問題解明のため意気揚々と生育施設に来たのだが、あまりの暑さでやる気がなくなってしまって、五十分前からミーコに観察、分析を任せている。
話がやや、かなり脱線した気がするが、業務内容はそんなところ。
一人思考にふけっていると、観察を続けていたミーコが怪しむような声で言う。
「粒子欠乏反応がでてる。A粒子が微妙に足りてなかったのかな…黄色は必要量が少なかったから、特性が変わらなかった…とか」
「A粒子? あれ過剰なぐらい入れただろ、足りないなんてあるか?」
「他の計算もミスってて、A粒子の必要量が大幅に間違ってたのかも。成長に関してもそれが影響してるっ感じかな」
「計算したの誰だっけ? 田中か?」
「あー…確か、そうだね、あいつ片手間に計算してたね」
「うーむ、ロリー(幼女写真集)見ながら計算するなっていつも言ってんのになあ」
「A粒子とC補強剤の注入で解決するし、もういいんじゃない」
「ん、そーだな」
さすが十歳にして研究団に加入した天才少女、頼れるぜ。あー、でも、研究員になったのはもっと後だっけ。
「生育調査開始十分で副班長に観察丸投げの班長はダメだけど」
「うっ、わりーって、後で炭酸おごるから」
「いつもなら他の頼むとこだけど、今日は暑いし、それでいいよ」
「お、やったね。特製超強炭酸イチゴ味を楽しみにしておけ」
「まだ懲りないのか…普通のでいーよ、普通ので」
ミーコは背を伸ばし、背後の強化ガラスに埋め込まれた銀色の扉へ向かう。俺もクリップボードを手に持ち直し、鉛筆をズボンのポケットに入れ後を追う。
A粒子とC補強剤を持ってきて、注入すれば終わりか。案外楽だったな。調査は怠かったけど。
たわいない会話をミーコと交わしながら、ささやかな満足感を胸に俺は研究室へ足を動かす。
リノリウムの床はいつもと変わらず、硬い。
読んでいただきありがとうございます。次回あたりから物語が動きます。