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あメイジんぐ☆ちるどれん(旧タイトル:魔法少女になりたい)  作者: @ハナミ
5話 夢魔をやっつけろ!
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悪魔 ユマ・アンドロマリウス

 ……気が付くと、私はピンク色が広がる世界に居た。そこに、壁は無く、天井も無い。ピンクの床と景色が何処までも続いている。


「ここは何処だろう?」


 ここが、白兎君の夢の中なのかな? だとしたら、早く探さないと。


「うわぁん! やめてよぉ!」

「あぁん! はくとぉー、お待ちになってぇ♡」


 後ろから声が聞こえる。振り向くと上半身裸の白兎君が、メイドさんに追いかけられていた。紫色のおかっぱ髪……ユマちゃん? どうしてユマちゃんがここにいるの?


「捕まえた♡ うふふ、可愛い顔して……じゃあズボンも脱ぎましょうね」


 四つん這いになった白兎君のズボンを無理矢理脱がせるメイド姿のユマちゃん。な、何やってんの!?


「ユマちゃん、服返してよぉ。こんな格好恥ずかしい」


 赤らめた白兎君は、白のスラックスを脱がされてトランクス一丁だった。トランクス派なんだね白兎君。


「駄目よ♡ 白兎の全ては私の物。私と気持ちのイイコトしましょ? ね? …………でも、その前に」


 ユマちゃんは、私に気付いた様だった。


「貴方は確か桜桃さん?」

「白兎君が、嫌がっているじゃない。服を返してあげて」

「ふーん……。お子様は家でミルクでも飲んでなさい」

「貴方だって、子供じゃない!」

「一緒にしないでくれる? 人間如きが悪魔に敵うと思って?」


 メイドの背中から、蝙蝠の様な羽が広がり、そして宙を羽ばたいた。


「安藤ユマ……又の名をユマ・アンドロマリウスと申します。以後お見知りおきを」

「人型の悪魔!?」


 悪魔って色々な姿をしているんだ。


「目的は何? グニグニじゃないの?」

「グニグニ? ああ、そういえば捕まえろとか言われてましたっけ? でもいいんですの。そんなことはどーでも……」


 メイドの目の前に、突如として現れる槍。それを手にして、切っ先をこちらに向けて来る。


「今は、白兎にしか興味が無いんですの。」


 トランクス姿の白兎君が、ユマちゃんから逃げる様に私の背中に隠れた。ピンク色の床に魔法陣を書き始める。


「はい、桜桃ちゃん」


 白兎君から、剣を受け取る。そして、切っ先をメイドに向けた。


「あら、まだ地面にしか魔法陣が書けないのね。じゃあこれならどうかしら」 


 メイドは、親指と人差し指を重ねて弾くと大きな音が響く。辺り一面ピンクの世界から、蒼の世界へと変わって行った。雲一つない青空に強い太陽の日差しが照り付ける。辺りを見渡すと、どこまでも続く水平線。足元には、足首が浸かる程の海水が広がっている。


「夢魔は、夢の中ならば世界を変えられるの……お気に召しまして?」


 世界を変えられた? これでは白兎君が魔法陣を書けない?


「まずは邪魔な貴方から、相手をしてあげる」


 蝙蝠みたいな羽を大きく羽ばたかせるとユマちゃんの身体が宙を浮く。同時に物凄い速さで間合いを詰めて来た。


 大丈夫だ。目で動きは捉えられる。向かってくる槍の先端を、剣の刀身の根元と突起した柄で受ける。

 ユマちゃんは、そのまま羽を羽ばたかせて、空へと上昇した。今度は、私の背中目掛けて急降下してきた。


 両足の踵を軸に、後ろへと向き直る。向かい合って体勢を整える事はできるけど、海水のせいで、避けるのは難しい。——だったら、真っ向から受けて槍を折ってしまおう。

 向かってくる槍のど真ん中目掛けて、渾身の力で振るった。硬い。槍は折れなかったけど、攻撃は防げた。


「子供だと思ってナメてかからない方がよさそうね」

「私だって、お父さんと稽古しているんだからね!」

「ふーん……魔力回路も無い癖に」


 ユマちゃんは、大きく羽を羽ばたかせるとまた上昇した。


「知ってまして? 槍ってね、投げられるんですのよ?」


 手に持った槍を投げて来た。狙いは正確に、真正面。慌てて切っ先を叩きつけて、槍を海水に叩き落とす。


「遅い」声は、私の背中から聞こえた。

 しまった!? 後ろ! メイドの回し蹴りが腰の位置に入り、息が詰まりそうになる。振り返った瞬間、メイドの手が私の首を掴んだ。この子……強い!


「さあ? 捉えましてよ? どうしてくれようかしら?」


 掴まれた首が、強く締め上げられる。海水に浸かっていた足が浮き、身体ごと持ち上げられた。掴んでいた剣を手放して、首を掴む手を引き離そうとするけど、凄い力でビクともしない。足でユマちゃんの身体に目掛けて、蹴ってみるけど、空いている手で防がれる。何度も何度も、抵抗は空しく終わった。


「ぐぐぐ……ケホッ……ケホッ!」

「心配せずとも、夢の世界で命を落とす事はありませんわ。気を失えば夢から覚めるだけ……貴方が出て行ってさえくれれば、私と白兎は夢の世界で、毎日幸せに過ごす事ができるんですのよ」

「い…いやだ!」

「強情なお方。落ちれば楽になりましてよ?」


 首を絞めつけて来る手は、更に強くなる。手も足も出ない、この状況に悔しくて涙が出て来る。……私、負けたくないのに!


「なぁに? 貴方泣いてますの? だっさーい!」


 ……もう、息が途絶えそう。朦朧もうろうとした意識の中、ユマちゃんの笑い声が聞こえて来る。


バインドライン


 光の鞭が、私の首を掴んでいる手を締め付けていた。同時に、私の首は解放され、海水に着地。急激に息が戻って来て、思わずむせてしまう。


「ユマちゃん。桜桃ちゃんを離してもらうよ!」

「魔法陣? どうして? ここは水の上……どうやって魔法陣を書いたっていうの?」

「ユマちゃん言ったよね? 僕の事、まだ地面にしか描けないって。それって、地面じゃなくても魔法陣が描けるって事だよね?」

「……。」

「だから思ったんだ。指を5本使えば、宙に書いた光の跡が消えてしまう前に魔法陣が書けるって!」

「……。」

「僕、怒っているんだからね! 桜桃ちゃんに酷い事するユマちゃんは嫌いだよ!」


 珍しく白兎君は怒っている様だった。でもトランクス一丁だと、こう威厳が無い。


「……つまんない」


 ユマちゃんは、呟く様に言った。その言葉には静かな怒りを感じた。


「つまんないつまんないつまんない……つまんない!」


 激しい怒りが、この空間中に響き渡る。


「人間は、黙って悪魔に従っていればいいのよ?」


 ユマちゃんは、また羽を羽ばたかせて上昇した。


「人間如きが、悪魔に立てつくだなんて……烏滸おこがましい!」


 そして、急降下してきた。水中ギリギリの所で低空飛行し、水中にあった槍を拾って、私に切っ先を向けて来た。


「桜桃ちゃん! しゃがんで」


 言われた通り、膝を曲げてしゃがむ。宙に魔法陣を書いた光の鞭がユマちゃんに向かう。けど、また上昇して光の鞭を避けた。


「今のを避けられるだなんて」

「ユマちゃんは、世界を変えられる以外に何か魔法を使っているっぽい」

「魔法?」

「うん。見た所、呪文タイプの魔法じゃないし、何処かに魔法陣を隠していると思う」

「だったら……真正面から受けて立つ!」


 海水に落とした剣を拾い上げて、両手で強く掴み、刀身を前へと向ける。


「じゃあ、僕がユマちゃんの魔法を見つけるね」


 急降下してくるユマちゃんは、物凄い速さで近付いてくる。


「貴方を追い出して、白兎はワタクシの専属の奴隷として差し上げますわ!」

「そんな事させない!」


 加速に合わせて、槍を貫くかの様に突き出して来た。


「花見流……掻鍔花かきつばた!」


 槍を絡める様に、上から抑え込む様に受け止める。鍔迫り合いに持ち込んだ。その両手に持つ槍の片手を手放すと同時に、またもや回し蹴りが飛んでくる。同じ手は食わない。肘で防ぐ。


バインドライン!」


 光の鞭がメイドに向かう。またもや見切られているかの様に避けた。その垣間、ユマちゃんの目に違和感を感じた。光の鞭は、宙を大きく描く様にしてメイドを追いかけて行くが、逃げ切られてしまう。


「白兎君……私、魔法陣が何処にあるのか分かったかもしれない」

「本当?」

「うん、多分だけど……左目。白兎君の魔法を避ける時、一瞬だけど、左目が光ったの。もしかしたら目に関係のある魔法なのかも」

「目か、難しいね」

「私に考えがある」


 私は、白兎君に耳打ちをする。


「うん、わかった! やってみるよ」


 再び構える。ユマちゃんは羽ばたいては、また急降下してくる。ワンパターンね。近付いて来るメイドに対して、刀身を横に向ける。


「受けに徹するつもり? 甘いですわよ?」


 違う。横に向けたのは……狙いを大きくする為。ユマちゃんの目に向けて、太陽の光を刀身に当て反射させる。そして、その左目を狙う!


「む! 小細工な真似を!」


 近付くユマちゃんは、一瞬だけど怯んでスピードを落とした。


「ユマちゃん!」


 白兎君の声に、ユマちゃんは声がした方向へ振り向く。すると、水飛沫が顔面に被った。白兎君が、海水を両手で汲み上げてユマちゃんの目を狙ってくれた。


「きゃあ! 目に潮が!」


 チャンスだ! 海水の中を水の抵抗を受けながら走り、水飛沫を上げながら間合いを詰める。狙いを捉えると、刀を大きく振り上げた。


「く……見えてんのよ!」


 ユマちゃんの槍が、心臓目掛けて来る。


「――!?」


 金属が重なる音と共に、槍の進行を止めた。メイドの涙が溜まった眼で私を凝視している。


「受け止めた!?」


 柄から、切っ先に瞬時に持ち替えて、柄で槍の切っ先を間一髪受け止める。


「私は、負けたくない! 負けない!」


 思いっきり槍を押し退けて、間合いを作る。


「しま――」


 両手で剣の先端を握りしめて、踵を返し、横一閃を思いっきり振った。突起した柄を悪魔の腰目掛けて、渾身の一撃を叩き込む。


「――放閃花」


「――……っがは!」悪魔は、苦しそうな息を洩らした後、そのまま海水に這いつくばらせた。


「うぅぅ……人間如きに……人間如きに!!」


 ユマちゃんは、立ち上がろうとするけど、また倒れると顔に海水が浸かる。


「……今日の所は、引き下がりますわ。覚えておきなさい」


 そう言って、倒れたまま姿を消した。


「大丈夫? 桜桃ちゃん。ごめんね、手痛くない?」


 切っ先を掴んでいた両手からは血が出ていた。そりゃそうよね。思いっきりふったもん。夢の中だけど、傷残らないかな?


「白兎君、勝てたよ! でも服、返してもらえなかったね」

「うん、恥ずかしいからこっち見ないでね?」


 白兎君は、モジモジとトランクスを隠す様に、手で覆う。なんか女の子みたい。余計にエッチだよ。


 海の世界は、やがてヒビが入って行く。おそらく夢魔が居なくなったからかな? ヒビは剥がれてピンク色の世界に変わって行く。


「僕、意識が遠くなってきた。きっと目が覚めるんだね」

「私も……それじゃ、また後でね」


 その言葉の後、私の意識は途切れた。


◇◇


 目を覚ますと保健室の天井が見えた。次に気になっていた、手の平をおそるおそる見て見ると、不思議な事に傷一つ無かった。


「起きたかい桜桃。無事に白兎君を助けられた様だね」


 目の前に、グニグニが顔を出した。隣を向くと、白兎君も居る。顔色も戻って元気みたい。


「ありがとう桜桃ちゃん。また助けられちゃったね」

「白兎君、良かった」


「一時はどうなるかと思ったよ。眠りの杖様様だね」とグニグニは羽ばたきながら笑っていた。


 あ、思い出した。


「グニグニ?」

「なんだい?」


 私は、眠りの杖(木製のバット)を手に持ち、グニグニ目掛けて思いっきり振り下ろした。


「マジカル☆スリープ」

「辞めて! ごめんて! ぎゃあああああ!!!」


◇◇


 翌日。


「今日は、転校生を紹介する。入ってきていいぞ」


 転校生はメイドの服を着て、教壇に立ち、スカートをたくし上げて丁寧にお辞儀をした。


「メイド喫茶でお手伝いをしているので、こんな格好で失礼させて頂きます。私、安藤ユマと申します。以後お見知りおきを」

「なんでいんのよ!?」


 思わず席を立ち、私は叫んでいた。


「私、子供ですし? 子供には義務教育というものがあり、教養が必要だと主様のいいつけですの。そんなわけで、どうぞよろしくお願い致しますわ 桜桃さん」

「ユマちゃんだ! 同じクラスなんだね! やったね!」

「まぁ白兎! あんな酷い事をした私に、その様な言葉を掛けて下さるだなんて! なんて慈悲深いお方なのでしょう!」


 んーなんだかなぁ。いいのかなぁー。だって悪魔だよ?


「お前等、静かにしろ。転校生はもう一人いるんだ。おい、早く入って来い」


 え? 転校生が二人? そう思っていると、教室に入って来た。緑色のシンプルな無地のTシャツに、赤のスカート。緑色の長い髪を揺らしながら、ユマちゃんの隣に立ち、オレンジ色の細い瞳をした、物凄く綺麗な女の子だった。あれ? 確かこの子……


「初めまして、墓山 静樹です。どうぞよろしくお願い致します」


 え? 嘘? HKMR5の静樹ちゃん?


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