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「やぁ朋友よ、久しぶりだな」

「あぁ久しぶりだな、戴」

ヤマトは携帯電話を耳に当てつつ小さなオフロード車を走らせていた。

「そんな他人行儀な呼び方はやめろ。俺達は朋友だろう?蛇王と呼べ」

「蛇王、あんたが流したトラをニホンで受け取る際に邪魔が入った」

「何?一体誰が?」

「あんた何か隠してないか?」

ヤマトは、スネークヘッドのトップの言葉に耳を貸さずに問いを放った。

「隠す?何をだ?」

タヌキめ、と心の中で毒吐きながらヤマトは口を開く。

「今回の話、つまり、大量のトラとあんたのとこの組員借りる代わりにこっちのピッチをいくらか譲るって話に関して、隠してることは無いかと聞いているんだよ」

「待て待て。お前達の言葉は俺には難し過ぎる。トラって何だ、ピッチって?」

 しらばくれやがって、とヤマトは心の中で呟く。

「トラは銃、ピッチは縄張りだ。さて私の質問に答えて貰おうか」

「今言った通り、何も隠してなんかいやしないさ」

「では聞き方を変えよう。この取引に関して、私の知らない所で新しい仕事をしているか否か答えろ」

「ヤマトよ、いかに俺達が朋友であっても、お互いに全てを晒け出す必要もあるまい。いちいち仕事を受ける度にこうしましたああしましたと言うのは非効率的だし無意味だとは思わないか?」

「質問に質問で返すのは阿呆のすることだぞ、蛇王」

 受話器越しに溜息を吐く音が聞こえた。

「さっきも言った通り、俺たちは互いに全てを晒け出す必要は無いし、そのつもりも無い。だが、噂ならいくつか知っている。例えば昨日のことだ。俺達スネークヘッドが雇った5人の中国人がニホンのトーキョー地下街で何者かに身体中を蜂の巣にされて殺された」

「ほう、それで?」

今度はヤマトの方がしらばくれる番だった。

「近年の治安の悪いトーキョーでよくある強盗事件、あるいはチンピラ同士の争いとして処理されたが、不審な点がいくつかある。遺体にはそれぞれ10発以上の9mmパラベラム弾が命中していた。弾数からも拳銃では考えにくく、おそらくサブマシンガン、MAC10かMAC11が使われたと考えられる」

携帯電話を持つヤマトの手が汗ばんだ。

「そして、そんな銃を持っているのは民間人では中々珍しい。いくらニホンで銃規制が無くなって久しいとはいえ、護身用にしては威力が高過ぎ、反動も大きくて扱いにくいこの銃を好き好んで持ち歩く奴は少ないからな。さらに、現場付近を縄張りに、あるいはピッチにしていた組織はアルヴェアーレの中の一組織だった。こういう噂だ」

 ヤマトは溜息を吐いた。

「なるほど。わかった。それをやったのは私だ。奴らは私に手を出そうとした。組織と私の名前を出しても態度を変えなかった。だからやった。あんたの所の組員でも無さそうだったからな」

「あれは我々が、安くは無い金を出して雇った人間だった。それに朋友よ、お前の言っていることが真実かどうか残念ながら私には判断できない」

「こっちには監視カメラの映像がある。何ならそっちに送っても良い」

「朋友よ、俺と取引を続ける意志はあるのか?」

 受話器越しに喋る蛇王の声のトーンが変わった。

「取引には信用が必要不可欠だ。そして残念ながら朋友よ、俺はお前への信用が揺らぎ始めている。このままでは朋友と呼ぶことすら覚束ない」

 そっちがその気なら、とヤマトも声のトーンを意識して変え、話し出す。

「その台詞そっくりそのまま返させて貰う。あんたから情報が漏れたとしか考えられない。もし情報があんたから漏れたとしたら、それは取引そのものに関わってくる重要な問題、契約違反だ。私の課した、極秘という条件を破っているのだからな。私があんたの雇い人にしたことは確かに軽率だった。だがあんたの過失と比べたら可愛いものだ。過失かどうかも疑わしいがな。」

「何故俺を疑うのだ。俺はやってないとしか言えん。俺を疑う根拠でもあるのか?」

「昨日やっと犯人を見つけた」

ヤマトはそう言うと、一呼吸置いて再び話し始めた。

「そいつが全部吐いたよ。あんたが情報をウチのトップに流したってね」

一瞬間があいた。

「トップ、というと君らがイブと呼んでる女性のことだな。私がどうやって彼女と接触する?彼女の居場所を知るのは非常に難しい。居場所だけじゃない。彼女の素性何もかもが謎に包まれている。彼女の顔写真も、声も、本名も、そして居場所も、何も表には出てこない。俺たちの間じゃ宇宙にでも住んでんじゃないかって噂だ。つい最近まで争っていた俺がどうやって彼女と接触できる?」

「そんなものどうにだってなる。実際、奴は表に出ずにアルヴェアーレを維持し、運営しているからな。アルヴェアーレという組織が優秀なシステムを持っているからだろうな。末端の情報が驚異的な早さでトップまで届く。まぁだから、あんたは我々のフィーリア誰か一人に接触すればいいわけだ」

「俺はやってないとしか言えない。考えてみろ。俺がお前を騙しても何の得も無い。もう銃も組員もそっちに渡した後だ。ここで裏切っても何の得も無い」

「いや、あるね。馬鹿馬鹿しい話だが。アルヴェアーレの中でゴタゴタを起こして、その隙につけこもうって腹だろう?何が朋友だ、この薄汚ねえプロドートが。いいか、1日やる。1日でチャイナに帰れ。明後日以降、私と私の部下の前に姿を見せれば、問答無用で殺す。私らに舐めた態度を取るとどうなるか身を以て知れ」

 そう言ってヤマトは電話を切った。続いてスドウの電話番号をプッシュする。

「スドウ、我々のセクトのフィーリア全員に指令を飛ばせ。プロドートは蛇王、犯人のマジカンはおそらくイブだ。たった今から、奴らスネークヘッドのワーカーを見かけたら問答無用で殺せ、と」

「蛇王がプロドートであるという証拠を掴んだんですか?」

「奴と話した。電話越しにな。それでわかった」

「まだ犯人を捕まえてない今の状況で蛇王が漏らしたということですか?」

「直接奴が漏らしたわけじゃ無い。勘だ。犯人を捕まえた、とカマをかけて奴の反応を見た。沈黙の長さ、声のトーン、話す速さ全てを勘案した結果、奴がプロドートだと判断した」

「……」

「私が今までこういう判断を誤ったことがあるか?」

「ありませんね。もう一つ聞かせてください。イブが取引を邪魔した犯人を雇ったという証拠はやはり」

「そうだ、証拠はない。私の勘だ」

 微笑しつつそう言って、ヤマトは電話を切り、車の速度を落とす。今なお東京大震災時の津波の爪痕が痛々しく残るオマエザキ市の街並みが、ヤマトの眼前に広がっていた。


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