表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

3

 全くもって非道い話だ。イブはそう苦笑しながら久々にシガーを取り出した。ここ30年ほど吸っていなかった時代錯誤の嗜好品。需要が減った関係で、30年前の5倍以上の値段がしたそれを突然吸ってみたくなったのは、もう長生きする必要が無くなったからだろう、と自己分析する。

 シガーに火をつけて煙を肺いっぱいに吸い込むと、懐かしい香りが広がり、煙が己の気管をチクチクと刺激する。

「非道い話だ」

 今度は口に出して言う。それは、イブがこれから実行しようとしている娘への仕打ちに対する感想だった。30年前、イブ自身が同じ仕打ちをされたのを思い出す。思い出す度に古傷が疼く。当時は激しく憤ったものだった。しかし。当時、その憤りのやり場は無かった。そういう風に仕組まれていたのだ。彼女にできたことは、目の前に山積みとなって立ちはだかった課題を必死にこなすことだけだった。彼女がそうせざるを得なかったのは、人の繋がりの糸に絡め取られ、組織という化け物に取り込まれた結果だった。それも全て仕組まれたことだった。

 そして、今。イブは、自身が仕掛けられた罠と同じ様な罠を娘に仕掛けようとしていた。そこに、彼女個人の意思は無いに等しかった。彼女の周囲の人間、あるいはアルヴェアーレという組織の思惑が、彼女を通して仕事をしているにすぎなかった。と、そこまで考えてイブは苦笑した。自己欺瞞だ。彼女は自分を嘲笑う。己が娘を罠にかけることに対する罪悪感から逃れたいが故の自己欺瞞。あるいは、昔の自分自身を裏切ることに対する罪の意識からの逃亡。後者の方がより真実に近いだろう。

 結局、私は私が一番大事で、他人のことなど二の次、そういう人間なのだと、彼女は自嘲する。しかし同時に、彼女はそんな自分自身を嫌っているわけでもなかった。いや、むしろ好ましく思っていた。他人は二の次一番は自分という事実を受け止めること。それは強者の条件だと彼女は考えていた。そして同時に、彼女は自らが強くあることを望んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ