水野奉行と庄屋衆
さて、水野さんに面倒を見てもらうことになった奉行所。奉行所って名乗っていると時代劇のお裁きの場を想像しちゃうけど、実態は民政部門。メインの仕事は村役場みたいなものだね。水野さんの下に治安部隊として五十川くん達が入る。ここで五十川くん達が反発するかもと心配したんだ。でも水野さんは一晩五十川くん達を引き連れて出掛けただけで、難なく五十川くん達の尊敬を獲得してた。
杉原くんがこっそり教えてくれたけどね。
「政府の調査機関には、自分の様に自衛隊出身者もいるんですよ。水野さんはそう言う訓練も受けているんです」
「生ヘビを食べて見せただけだよ。処で杉原くん。個人的な情報を漏らすのは感心しないなぁ」
「ヒ!ヒイイイ!」
いつの間にか背後にいた水野さんに捕まってから、杉原くんは三日ほど姿が見えなかったよ。どうもジイちゃんの関係者はチートが酷い気がするよね。
閑話休題。それから庄屋衆の集会所も奉行所の建物の中に作ったよ。庄屋衆は、犬川の五平さん、柳谷の九兵衛さん、猪畑の権兵衛さんだ。彼らは、奉行所と自分の集落へ転移出来る。「通勤が楽で羨ましいなぁ」と水野さんがボヤいていたよ。水野さんは黒鎌城と奉行所の間は転移できるけど、都内に家があるんで、終電前に帰ります。将来的に、日本政府からの出向先もこの奉行所になる予定。
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奉行所が出来てしばらくしてから、水野さんと庄屋衆の仕事も落ち着いて来たと言うので様子を見に来たよ。権兵衛さんからも話があるって事だったし。
奉行所には水野さんと庄屋衆の他、犬川の子達が三人いた。
「向井の皆さんに読み書きを教えてもらっていますからね。中でも読み書きが得意な子を選抜して来たんですよ」
五平さんがニコニコしながら紹介してくれた。奉行所の使い走りとして働かせるんだって。確かにフミエさんとかが絵本で読み聞かせとかしていたな。でも、半年も経っていないのに読み書きできる様になったの?優秀だなぁ!
「書く方はまだまだですが、読む方なら何とか出来ます」
「我々もそんなに難しい事は書けませんからね」
庄屋衆の中では五平さんが一番読み書きが出来るんだって。パソコンをバリバリ使っていたものね。権兵衛さんはいくつか漢字を使える程度で、九兵衛さんと子供達は平仮名で書類を作っている。
水野さんは、見かねて漢字ドリルを差し入れしたらしい。が、犬川のウメちゃん達からはタブレットが欲しいと言われているんだって。犬川家の情報化が早過ぎる件!
「書類と言っても、今の所は戸籍ぐらいしか無いんでね」
「一番多い猪畑でも五十人程ですから、初日に自分の村の衆を書き出してお終いでした」
水野さんが苦笑いしている。今の所は、ほとんどやる事が無いそうで。趣味でサンプル収集ばかりやっていた訳じゃ無かったのね。
「紙に手書きしていた時代ならもう少し手間がかかるんだろうが、今じゃパソコンで処理しちゃうからね」
「絵図があるから測量は必要無いし、行政と言える程の事をやる規模じゃない」
「仕事を作るのもなかなか楽ではありませんね」
山井くん達は近隣の探索もしているんだけど、彼らも優秀なので片手間でも書類仕事が終わってしまう。
「何しろ人口が少なすぎてね」
「職人長屋の人を入れても全部で百人ちょっとか……」
「農業研修生は研修終わったら自分達の村に戻っちゃうしね」
「猪畑の農作業をもう少し効率化できれば、若い衆から何世帯か向井の庄に移住してもらう事も考えているんだが」
まだ、農業研修は始まったばかりだしね。行商人の弥助さんからはまだ返事が来ていない。甲斐の親方へ伝言をしたと文が来たばかりだから商業が動くのはまだまだ先になる。早くて今年の冬頃かな?
「我らの親戚などに呼びかけて招いているのですが、まだまだ腰が重く……」
五平さんが申し訳なさそうにしている。親戚から誘われたとしても、向井家なんてよくわからない家の配下にそうそうなれないだろう。
「我らに降るくらいなら、巫女様を頼るでしょう。コボルド同士の気安さもあるでしょうしね」
九兵衛さんが分析してみせる。
「二カポ様を通して、巫女様の処を頼った者はこちらに廻してくれる手筈にはなっていますから、その内こちらを訪ねて来るものもあるでしょう」
庄屋衆としても、打てる手は打っているんだよね。
そこで、権兵衛さんからの相談が。
「実は、知り合いのゴブリンの村が御座いまして、村丸ごとで鍛冶の修行をさせて頂けないかと」
こちらの世界でのゴブリンは、見た目こそ小鬼の様だけど、鍛冶や細工が得意なドワーフやノームと同じよう様な存在でもある。
「受け入れはいいと思うけど、鍛冶の修行はどうだろう?斎藤さんとも相談して考えてみないとね」
向井の庄の人口が増えるから受け入れは良いとして、どんな働きをしてもらうのかも考えないと。




