表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/74

財団法人

 ジイちゃんが東大生を応援してきた制度は「黒鎌奨学基金」と名前を付けられて今では独立した財団で運営されている。で、ジイちゃんが理事長だったそうなんだけど、ジイちゃんは理事を辞めてその代わりにジンちゃんが理事長に就任。そして、オレが理事会に入るって事になるんだそうだ。将来的には時機を見てオレが理事長になる流れらしい。


 こういう人事は、もう慣れているけどね。ほとんど動いていない地元の任意団体から黒鎌造園まで、おきまりの人事ってのがあるんだよ。姉ちゃん夫婦の企業グループにも幾つかオレの席があった筈。名ばかり役員で報酬も貰ってないんだけどね!


「で、ジンちゃん。このビルで良いのかな?」

「そう。それでタッちゃん。何度も言うけど、今日会う理事達は魔法の事は知らないから余計な情報を流さないようにね」

「はいはい。分かってますよ」

「はいは一回!」


 ここは東京の虎ノ門にある雑居ビルの一階。雑居ビルと言っても門番さんがいて訪問先と名前を書かされた。ビル自体は古いけど、中は改装されていてセキュリティはしっかりしているみたい。ICカードを身につけないと玄関から先に入れない。今回はジンちゃんのカードで入ったけどね。


「理事会の承認を得て、理事にならないとカードの発行は出来ないから暫くは僕が付き添いでくる事になるね」

「へー、外から見るとボロいビルだけど中は綺麗だね!」

「一応、昭和を代表するモダン建築なんだが……」


 ジンちゃんは苦笑いしている。

 入ってすぐのロビーには立派な階段があったけど、ジンちゃんはそのまま奥に行くのでついて行ったよ。廊下を曲がって奥のドアを開けると古いエレベーターがあった。


「財団事務所はコッチからしか行けないんだ」

「おお!秘密基地みたいだね!」

「古いビルだから、建てた当時はエレベーターが無かったんだって。仕方無くここの部屋を潰してのエレベーターを通したって」

「へーそんな事があるのか」

「エレベーターも古いし、事務所は三階にあるから、歩いて登った方が早いんだけどね」


 そんな事を話しながらエレベーターを待つ。エレベーターは本当に遅かった。


「次回からは歩いて登ろうね」

「そう思うだろう?」


 エレベーターの部屋を出ると財団の部屋はすぐだった。


「お、来たな。いらっしゃいタッちゃん」

「あれ?水野さん?何でここに?」

「ハハハ。僕はここの事務員でもあるのさ。貧乏財団だから週に一回ぐらいしか事務局員を動かせないんでね」


 水野さんというのは黒鎌造園の総務部長さんで、オレも小さい時から知っている。最近は植樹式とかそう言う式典の手配なんかでよくお世話になっている。


「そこの奥が会議室。他の理事はもう揃っているから」

「あれ?待たせちゃっている?」

「いやいや、みんな新しい理事を楽しみにしているからね。いつもより早めに来ているのさ」


 水野さんが、ドアを開けてくれる。


「山室さんと新理事の向井さんが到着しましたよ」

「お邪魔しまーす」


 財団なんて言うからどんな人達がいるのかと思ったけど、みんな顔見知りのおじさん達だった。よく考えたらジイちゃんが始めた財団なんだからウチに顔を出している人がいてもおかしく無いんだよね。


「ハハハ。黒鎌基金は貧乏財団だからね。何かというと理事長に頼らないといけなかったのさ」

「そうそう。特にバブルが弾けた後は結構な財政難でね。それでよく相談しに行ったなあ」


 なるほど、それで見た事のある人が多いのか。


「初めは苦学生の助成だったから、芋や米だった時もあったそうだけど。その名残で野菜とかの差し入れがあるんだよ」

「あ、ジイちゃんの畑の野菜か。出荷を手伝った憶えがありますよ」

「タッちゃんも手伝っていたのか。そうか、それはありがとう」


 理事は全員、奨学金を受けた人なんだって。学生時代の思い出をイロイロ教えてくれたよ。


「それで、鍋をやったりしたなぁ」

「向井家の野菜は味が濃くて美味いからな。アレで舌が肥えちゃうんだよ」

「年に一人二人は舌が肥えて、農学部に行く奴が出るんだよな」


 食事の補助が現物なのがウチの奨学制度の特徴なんだそうで。やっぱり、青春時代に同じ釜のメシを食べると絆が深まる。


 卒業した後もみんなで食事会を定期的に開いていたんだって。


「この財団は貧乏だった奴らばっかりだからね。倹約グセが身に付いているんだよ」

「メシ代が浮いてって本代に消えるってヤツばかりだったからな!」


 一番年上の理事で70代、一番年下がジンちゃんだったけど、そこに30歳のオレが加わる事になる。


「あー、そろそろ理事の就任をしましょうか」


 なんだか雑談が途切れそうに無かったんだけど、ジンちゃんが機を見て促したよ。


「では、向井達夫氏を理事として承認する者は挙手を!」

「異議なく全員承認致しました」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いしますよ。この財団、半分は向井家の寄付でやっているんでね」

「忙しいのは助成する学生を選抜する時ぐらいだからね」


 オレの理事就任はなんだかグダグダな感じで決まったようです。すでに根回しが済んでいたので、ジイちゃんの引退とジンちゃんの理事長就任もすんなり決まった。ジイちゃんの引退はジイちゃんの手紙を読み上げて終了。ジンちゃん理事長就任も議長役の理事が発議してそのまま了承された。


 向井家からの支援も以前と変わらない事を確認。基金は以前と変わらずに存続する事が決まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ