ジイちゃん昔からチートだった様子
ジンちゃんがオレを探していたのは日本の方の用事だった。なので、転移して日本に帰る。ゲートを潜ると日本では深夜だ。土蔵スタジオも閉まっていて誰もいない。
ジンちゃんと家に上がって居間で話を聞くことにした。どうやら百川くんや山瀬さんがジンちゃんの事務所で働き始めたのがウワサとなってるらしい。
「もう少し時間がかかると思っていたんだが、けっこう早くウワサが流れているんだよ。しがない地方議員が、中央官庁のエリートを四人も引き抜いんたんだ。目端の効くヤツならば見逃さないし、目端の効かないヤツは出世など出来ないのが中央官庁なんだが」
なんか、ジンちゃんがカッコつけてますよ?
「あー、オホン。それに、そろそろタッちゃんも親方の人脈についてキチンと知っておいた方が良いと思ってね」
ジイちゃんの人脈とジンちゃんの引き抜きの話とつながっているの?
「長い話なんだけど、長くするとタッちゃんは寝ちゃうんで、端折って話すよ……」
それでも長い話だったので、ざっくりまとめて見たけど、まだ長かった。長いけど、今の向井家の基礎の話らしいんで、付き合ってほしい。
話は第二次世界大戦の終わりに遡る。ジイちゃんが二十歳の頃だね。
今の米軍横田基地は当時、多摩飛行場と言って陸軍の飛行場だったんだって。
ジイちゃんの父ちゃん、オレからするとひいジイちゃんがその基地のお偉いさんと仲が良かったそうで、度々家に遊びに来ていたんだ。その縁で終戦を迎えた時、ジイちゃん達がごっそり基地から物資を持って来ちゃった。どうせ米軍に持って行かれるなら焼いてしまおうって事になったのを勿体無いって貰って来ちゃったって。あの「くろがね」もその時に貰って来た一部らしい。で、その物資を活用して終戦直後のドタバタを乗り切った。
そして、その基地のお偉いさんから頼まれて、食糧難の時期に知り合いを助けたりしてたんだって。
その後、アメリカの占領軍(GHQ)の農地改革ってのがあって、小作人に田畑をタダ同然で分け与えないといかなくなったんだけど、それも株式会社を作る事によって回避した。向井家の土地じゃなくて、会社の土地として登記し、三割がひいジイちゃん、二割がジイちゃん、一割がひいバアちゃんが持ち、残りを小作人達に持たせたんだ。それは終戦直後にお世話した官僚のアドバイスがあったからなんだって。その会社が今の黒鎌造園土木になるんだけどね。
その官僚との付き合いの中で東大生の支援が始まった。一時期は家にも何人か下宿しに来ていたんだって。これは今も変わらず、毎年二十人ぐらいの支援をしているけどね。配給制で餓死者も出た時代。食糧の支援だけでも充分に有り難られたらしい。
その後、高度経済成長期が来ると鉄道会社に土地を売った。その時に、ベットタウンの街路樹などの手入れを黒鎌造園にするって契約をしたんだそうで、それは今でも黒鎌造園の重要な収入源となっている。そんな契約ができたのもそれまでに面倒を見た東大生の人脈が生きたのだそうだ。
戦後七十年、ずっと続けて来たから支援を受けた卒業生は三百人を超える。
「今では、その人脈だけでも大変な価値なんだよ」
ジンちゃんも支援を受けた一人だもんね。
「山井達の出向もその人脈を利用したんだ。お陰で優秀な人員を抑えられた」
「ああ、山井くん達もその支援を受けたんだ」
「え!もしかして気が付いて無かった?」
「だって、今までの支援の人なんて挨拶もしてなかったし……」
ジンちゃんが机に突っ伏していつもの呪文を唱えているよ。
「……まあいい。それはそれ。そういう訳で、会ってもらう人達がいるからね!」
日程の調整が必要だから明日明後日ではないけど、会う準備をしておかないといけない様だ。
「んー。その人達に会うのはいいけど、何を話すの?」
「表向きは、今まで通り奨学制度を継続する確認って事になっている」
「表向きはって裏があるの?」
「だ・か・ら!裏は山井達の件で向井が注目されている対策を話に行くんだよ!」
「あ!そっか!ジンちゃんの話が長いんで、スッカリ忘れていたよ」
「ハァ、まあいい。向井家が何かを始めたと周りにバレているって事なんで、どう誤魔化すかを相談しに行くんだよ」
「なるほどね!姉ちゃん達がなんか新しい事でも始める事にすればイイんじゃない?海外の市場調査って事で」
「む?それもアリかもしれないな。それにしては豪華な人材ではあるけどね」
ジンちゃんが何やら考え込んでいる。こうなったらジンちゃんに任せておくといい。勝手に問題を片ずけてくれるサインなんだよ。
「ところで、ジンちゃん。それは何をやっているの?」
さっきからずっと、本をめくっては指でなぞり、見もしないで次のページをめくっている。最近、ジンちゃんがよくやる仕草なんだよね。
「多分、能力が進化したんだろうな。しばらく前からこうやって指で文字をなぞるだけで読める様になってね。最近は他の事を考えながらでも読めるんだよ。これのお陰で資料読みが楽になったね」
いつの間にか、ジンちゃんも進化していたみたいだ。




