赤ちゃんが生まれるよ!
巫女様が顔を見せた事で、一気に場は落ち着いた。
「全く、二カポは慌て者じゃのう!」
「「「アハハハ!」」」
すでにゴロツキ達はこの場から逃げ出している。山井くんとケンじーちゃんが後を付けているけどね。
オレは柳谷の入り口まで九兵衛さんを連れて来た。柳谷のみんなは既に小屋を抜け出して、ここまで避難して来ている。
実は、九兵衛さん以外の村人を小屋に連れ込んだ後、そのまま裏口から出て来てたんだ。小屋の手前には権兵衛さんの所のオーク達が並んで目隠ししてくれていたんだよ。
「父つぁん!」
三吉くんと妹の千代ちゃんが九兵衛さんにすがりついている。ずいぶん怖い思いをしたんだろうな。
「九兵衛さん、この度は誠に申し訳ない。こちらの不手際に巻き込んでしまった」
「顔をお上げ下さいませ、城代様、怖い思いも致しましたが、以前よりのご恩は忘れておりません」
ジンちゃんが九兵衛さんに謝罪している。オレはというと柳谷の方からゴロツキが来ないか見張っているんだよ。
「九兵衛さん、ごめんねえ!」
オレが盾を構えて道を見張りなら叫んだのが可笑しかったのか、みんなが笑っている。
「若様、そんなへっぴり腰じゃダメだよ!もっと腰を入れて!胸を張って!」
三吉くんの言う通りにしたつもりなのに、みんなは笑い転げている。
「アッハハ、タッちゃん、もっと頭を高くしないと。それじゃあ腰が前後に動いているだけだよ」
ジンちゃんが指摘してくれたけど、そんなに変な動きだった?場が和んだ所でオレは九兵衛さんに一つの提案をした。
「九兵衛さん、今回はすっかり迷惑をかけたね。そこで提案なんだが、正式に向井の与党にならない?」
「へ?与党と申しますと?」
九兵衛さんが首を傾げている。
「うん。柳谷のみんなに向井の治世に参加して貰いたんだよ。九兵衛さんには苗字帯刀を許す。五平さんと同じだね。さらに、柳谷にも詰所を作ってウチの者がいつもここに居るようにする。どうだろう?」
「いや、そりゃあ願ってもねえ事ですが……」
突然の話に、九兵衛さんも戸惑っている。でも、ここは勢いで行けそうだな。
「もう!受けるのか、受けないのか!」
「ひゃ!お受け致しますとも!お受けさせて下さいませ!」
九兵衛さんが平伏した途端、魔力が動いたのが分かった。柳谷のみんなが向井の魔力に覆われ、地に魔力が染み込んでいくのが分かる。
ジンちゃんを見ると、ジンちゃんも感じているようだ。オレと目を合わせると、魔法の絵図を取り出した。
「うん、柳谷。確かに向井の領となりました。これからよろしく頼む」
「では、九兵衛さんの家はこれから柳谷となるからね。柳谷九兵衛。いい名前じゃないか!」
そうやって九兵衛さんを囲んで慰労と祝福をしていると、フミエさんが駆けて来た。
「巫女様はいるかい!」
「あ、フミエさん。巫女様なら広場の方に……」
「広場だね!」
あっと言う間に走り去ってしまった。どうしたんだろう?フミエさんがあんなに慌てているの見た事がないぞ。
………………………………
オレ達が慌ててフミエさんを追い掛けて行くと、フミエさんと二カポさんが揉みあっている。
すごい剣幕で駆け寄って来たフミエさんを二カポさんが防いだみたいだ。
「逆子なんだよ!さらに奥にもう一人いるみたいなんだ!」
フミエさんは巫女様に訴えているが二カポさんが邪魔をする。
「親子三人、お産が上手くいかなったらどうすんのさ!」
ガッシリと二カポさんの頭を掴み、持ち上げ、
「それとも、あんたが………」
ギロリと目を光らせながら顔を覗き込んだ。
「責任とってくれんのかぃぃい?」
「ヒィィィィィ!」
可哀そうに二カポさん、フミエさんに睨み付けられて、腰を抜かしてしまったようだ。
…………………………
結局のところ、赤ちゃんは三つ子でした。巫女様が何とか間に合い、何と逆子を押し込んで位置を直して産み直させちゃったんだって。
「あれは、わたしもビックリしたよ」
後で顚末を教えてくれた時、フミエさんがしみじみと懐述していた。
………………………………
巫女様と二カポさんがフミエさんに背負われるように向井の庄へ連れ去られた後、柳谷の広場は何となく取り残された感じになっていた。
「ええと、向井のご隠居、この場、どうしましょう?」
さすがの権兵衛さんもどうしていいか分からなかったらしい。ジイちゃんに話しかけていた。
「ふむ、折角これだけの衆が集まったんじゃ。向井の庄の事を話しておきたいのう」
権兵衛さんと九兵衛さんの呼びかけで周辺の村の主だった人達が集められ、向井の庄を紹介する事になった。
それと、権兵衛さんも向井の与党として、猪畑を名乗る事になったよ。




