巫女様騒動
コボルド達が産婆さんを担いで来た。
産婆さんの村に駆け込んで、代わる代わるオンブして来たそうだ。
夜も休まず走ったおかげで、本来なら三日はかかるところを1日と半で向井の庄に着いたって!
「ば!馬鹿太者!」
産婆さんは強行軍でグッタリしている。そりゃあそうだ。オンブって言ったって、一昼夜、ろくに休みも取れずに来たんだから。ジイちゃんはコボルド達を叱りつけ、フミエさんは薄く塩を入れた温めの白湯を用意して産婆さんに飲んでもらう。
「ふう、これは癒されるのう。医術を弁えた御仁がおるようじゃな」
一口飲んだ白湯が効いたのか、少し顔色が良くなったコボルドの産婆さん。とりあえず、黒鎌城に転移し、プレハブ小屋で一休みしてもらう。小一時間程すると、産婆さんが目を覚ましたと知らせがあり、オレとジイちゃんが小屋を訪ねた。
「いやぁ、これ程慌てて呼ばれたのは久しぶりじゃのう」
産婆さんは苦笑いしている。
「申し訳ありません!」
オレはジイちゃん達と平謝りした。
「まあ、産婆なんてやっていれば、粗忽者の旦那に攫われる事もあるからの。ワシはええんじゃよ」
そう言って、笑ってくれたんだが、実はこの方、産婆というよりも地域の巫女といった方だったらしい。
「まあ、地方の土地神を祀るしがない巫女じゃ、ご城主に頭を下げていただくものでもないさ」
「配下の者がしでかした不始末。責任はオレにあります。迎えに行かせたのもオレですしね」
「いやいや、手下の尻拭いを進んでするとは出来たお人じゃ。ここで産まれる赤児は幸せじゃな」
「ここで産まれる赤ん坊は全て俺の子供と同じですよ。配下もオレの子供みたいなモノです。子供の不始末は親が面倒を見るのが当たりまえでしょう?」
そうオレが言うと、産婆さん改め巫女様はニッコリ笑った。
「その心構え、しっかりと崩さないようにせんとの。これからが大変じゃぞ」
オレは子育ての大変さを指しての言葉だと思ったのだが、違っていたらしい。この地域の巫女さんはお産だけじゃなく、地域の医療も担っていた。それが攫われるようにいなくなってしまったんだ。この時、オレ達は気が付いていなかったんだけど、向井の庄の外側では、巫女様誘拐事件としてこの地域全体を巻き込んだ大騒ぎになっていたんだ。
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オレが巫女様と話していた頃、向井の庄の入り口、篠目谷にある関所に一人の少女が駆け込んで来ていた。
「向井の皆様!お助け下さい!」
「どうした?お前は柳谷の子じゃないか」
「五十川様!柳谷に大勢が詰め掛けて来て!おとっつぁんや九兵衛さんが!」
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犬川一党は足跡を隠しもせずに巫女様を連れてきた。足跡を辿るのが得意な猟師だっているし、どこまで行ったのか直ぐに分かる。足跡を辿っていけば次々と集落に出くわす。
「何だ?大勢でどうしたんだい?」
「巫女様が連れ去られたんだ!連れ去った連中の足跡を追い掛けているのさ」
「何だって!巫女様が攫われた?そりゃ一大事じゃないか!」
途中にある集落の人々を巻き込んで、徐々に追跡隊の数は増えていったんだ。
ここで、向井の庄の結界が裏目に出た。足跡はそのまま続いていたのだが、追跡してきた人々には認識出来なかったのだ。
彼らにして見れば、向井の庄の入り口でぱったりと足跡が消えている訳だから、その手前にある深谷の九兵衛さんが関連を疑われ、吊るし上げられそうになっていた。
取り囲こまれた村から猟師の娘さんがこっそりと抜け出し、向井の庄にしらせてくれたんだ。
五十川くんは、ケンくんとリョウくんを連れて柳谷へと飛び出した。幸いだったのは、ちょうどこの時にケンじーちゃんと山井くんが修行から帰って来たんだ。
「おっと!五十川くん。そんなに慌ててどうしたんだい?」
「あ!ケンジ師匠!大変です!柳谷が賊に襲われているそうなんで!」
「なんだって?城には知らせたのか?」
「あ!やっべ!してねえ!飛び出して来ちまった!」
「今からでも遅くない、知らせた方がいい。ここからだと関所から城まで転移できる君たちの方が早い。五十川くんは城に報告。残りの二人は俺について来なさい」
「わっかりました!」
五十川くんは急いで関所に戻り、城へと転移した。
「若!九兵衛さんトコがヤベエ事になってるそうで!」
俺たちは、五十川くんの報告で大騒ぎを知らされたんだけど、巫女様が横で話を聞いていたんだ。
「そりゃあ、きっと私を探しているんじゃろ」
「ん?誰ですか?このバアさん?」
「い?五十川くん!」
「バカモン!目上の人には敬意を払えと言っとるじゃろうが!」
「いっつー!」
ジイちゃんにゲンコもらった五十川くん。涙目になっている。ジイちゃんのゲンコ、痛いんだよね。




