向井の庄の新住人
向井の庄は四日ぶりなんだけど、なんだか長い間、来てない感じがするな。
さて、向井の庄に来たら、柳谷の九兵衛さんから伝言が来てた。どうやら合わせたい人がいるらしい。
五十川君たちと非番のコボルド五人を連れて柳谷に向かう。五十川くん達にとっては通い慣れた道だ。木に傷が有ったりして目印になっている。
「そう言えば、多摩川沿いの道ってどうなっているの?」
五十川君たちが少しずつ調査を初めている筈。
「まずは向井の庄と柳谷の間に道を通そうかと。出来れば柳谷が正式に黒鎌党に従ってくれるとやりやすくなるんですがね」
「うーん。たしかに庄の入り口に近い柳谷は領地にしておきたいところだけどね」
「いや、若。柳谷の九兵衛さんに帰順してもらえれば、関所を柳谷に持っていけるんじゃありませんか?」
そう言えば、関所を作った時はまだ五十川くん達はいなかったね。あの時には絵図で線を引くだけで道ができたな。
「あ、関所が作れるなら、道もあの絵図で引けばいいのか」
簡単に関所を作った時の話をしてあげる。
「もしそれが出来るなら、街道も楽に作れるんじゃないっスか?」
「ううん、ちょっとジンちゃんと相談してみよう。柳谷も、傘下になって貰いました。道は引けません。じゃ、申し訳ないで済まないからね」
「魔法でチョイとやれなくても、俺たちが道を引きますけどね」
五十川君たちは、やる気満々みたいだ。すでに踏み跡は付いているので、岩や倒木をどかせば何とかなりそうだし。
「どちらにせよ、向井の庄の人口がもう少し増えてからだね。」
今のままでは領地を広げても経営できない。警備しないといけない国境が長くなるだけだよ。五十川くん達と犬川一党で十三名しか戦闘出来る人員が居ないんだ。もう少し、村人が増えるか、せめて増やす方策が見つからないとね。
「そう言えば、そろそろサエさんの出産なんじゃないの?」
サエさんて言うのはコボルドね。向井の庄に来る前から妊娠していたんだ。
「ええ、フミエさんによるとあと一週間ぐらいだそうで。お産する部屋とかの用意で大変みたいです」
「そうそう、女ども気が立っちゃてピリピリしてますよ」
コボルドじゃあ、日本に行って産院で出産する訳にも行かないからなぁ。
ん?コボルドって日本に行った場合、お医者さんに行くんだろうか?それとも、獣医さんになるんだろうか?
「あのー。若様、それでお願いがあるんですが」
お産の話をしていると、コボルドの一人が話しかけて来た。どうやら、コボルドの産婆が近くの山にいるらしい。しかし、コボルドだとしても二、三日はかかる距離だという。行って帰って来たらギリギリじゃないか!
「なんで早く言ってくれなかったの?四人は今すぐその産婆さんを迎えに行って!で、君は五平さんに産婆さんを呼んだ報告!」
慌ててコボルドたちを走らせる。コボルド達も飛び上がって駆けて行ったよ。五十川君たちもピンときていない様だけど、出産なんて一週間ぐらい早まることも結構あるんだからね。
「ええ?じゃあ、もしかしたら、もう産まれるかもしれないんですか?」
「うん。おまけにお産で母子ともに生き残れるか。ここじゃ、まともな医療機関もないんだからね。例えば、輸血が必要になったらどうする?」
そう脅かすと、五十川君たちも不安になったらしい。柳谷の訪問を延期しようとか言い出した。
「いや、お産の時は男が手伝えることは殆どないからね。お産が始まったらダンナだけ休みにしてあげればいいよ」
「はー、そんなモンすかねえ」
「たしかに俺たちがいても何したらいいのかわからないモンな」
ケンくんとリョウくんが首を振っている。手伝いを言い渡されなかったので、安心したらしい。ホッとした顔をしている。お産が始まったら、フミエさんにこき使われると思うけどね。
そうだ。後で、フミエさんに日本から持って行って手助けになるものはないか、確認しよう。
フミエさんの事だから抜かりは無いと思うけど。
少しずつだけど、向井の庄も住民が増えてきてる。まだまだ人が足りないけどね。
日本とこの世界と上手く橋渡しができるといいんだけどなぁ。
この世界の手付かずの自然は素晴らしいけど、地下資源とかエネルギーの問題もあるし、コボルドみたいな存在もいる。早々公開出来る事ではないんだけどね。




