日本の夏はお出かけの季節です。
「夏は暑いのー!」
裏の大豆畑で、ジイちゃんが叫んでいる。
「ナツはあついのー!」
篤弘が縁側でスイカを食べながら、叫んでいる。
「二人とも、元気だねぇ」
オレは、居間でマジックの練習。コインを指の上でクルクル回してる。
もう慣れたもので、手癖みたいなものだ。ほら、ヒマになるとペンを回すヤツいたでしょ?あんな感じ。
「ジイちゃん、そろそろ出かける準備してー!」
畑の中のジイちゃんに大声で呼びかける。
「おー。準備はもう済んどるよー」
ジイちゃん、野良着のままでホテルに行くつもりかな?
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結局、いつも通りに出がけに大騒ぎになった。今日は、軽井沢にある姉ちゃん夫婦がオーナーのホテルに泊まりに行くんだ。ニュージーランドのヤツも含めていくつかのホテルでグループを作っているんだ。沖縄と北海道にも一つづつあるよ。
オーナー一族の視察扱いなので、経費は姉ちゃん持ち。ただし、リポートはしっかり提出しております。
今日は、ケンじーちゃんが駅までクルマで送ってくれたよ。
「向井の庄については、俺たちに任せて達夫ちゃん達はゆっくりしてきな」
「大丈夫ですよ。なんかあったら電話してくれれば、飛んで帰ってきますから」
「そいつはいい。さすが、魔法使いだ」
「「アッハッハ!」」
2泊3日の旅なんだけど、ジイちゃんとオレが揃っていないのは今回が初の事。
ま、向井の庄もそろそろ落ち着いてきたし、なんとかなるでしょう。
ゲートの開け閉めはフミエさんとジンちゃんが出来るし、ケンじーちゃんやカッちゃん以外にも五十川くんとその子分の二人が向こうに常駐しているし。
犬川一党も五十川くん達のプラスチック製の甲冑を着ている。今の所、一班分しかないので関所に詰めている時に交代で着ているよ。
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昔は青梅から八高線を使っていたそうだけど、今は新幹線で行った方が早い。
「昔は横川で食う釜飯が楽しみだったんじゃがのう」
「ジイちゃん、毎年それ言っているねぇ」
「まあ、郷愁というヤツかのう」
「おれ、はらへった」
「あ、篤弘はおむすび食べな。こぼすな……って、言う前にこぼすな!」
軽井沢、日本を代表する避暑地だ。もともと明治時代に日本にやって来た欧米人が、東京や横浜の暑さに音を上げてやって来たのが始まり。各国の大使などのセレブ達が滞在した。現在でも結構な大物がリゾートに訪れている。
姉ちゃん夫婦がニュージーランドに和風ホテルを作る事になったのも、軽井沢で知り合った人がきっかけなんだよ。
軽井沢駅を降りると、いつも通り出迎えが待っていた。夏なのにスーツをビシっと決めたロマンスグレーの紳士が、黒塗りのベントレーの脇に立っている。
「お待ちしておりました、向井様」
「やぁ、大賀さん。今年もお願いしますね」
荷物を積むと、オレと篤弘は車に乗り込んだ。ここからジイちゃんは別行動なのだ。
「おー!師匠!コッチ、コッチ!」
「なんじゃ、そこにいたのか。今年の具合はどうじゃ?」
「ん?なんか師匠、元気になってない?」
「うむ。去年の屈辱を晴らすために鍛え直したのじゃ」
「鍛え直しって……。師匠、90越えてたんじゃなかったっけ?」
「わしのことより、くろがねはどうなっているんじゃ!」
くろがねっていうのは、第二次世界の時に陸軍で使われたオートバイで、サイドカーの取り外しが出来る。サイドカーを付けた時のためにバックギアが付いているのが特徴なんだよ。
ジイちゃん、戦後のドサクサで手に入れたらしい。オート三輪を購入するまでは、このバイクで走り回って、今の黒鎌造園の基礎を築いたんだそうだ。
「どうよ師匠。いくつか部品を取り替えたけどな。旋盤で削り出したから結構大変だったんだぜ」
さっきからジイちゃんのことを師匠って呼んでいるのは、ホテルのガレージ担当の津崎くん。
このホテル、大きなガレージがあるのが特徴で、クルマ好きの人に人気があるんだよ。
「乗ってみん事には、なんとも言えんのう。ほりゃ、お前はサイドに乗らんかい」
ジイちゃんと津崎くんは大騒ぎしながらバイクに乗って行った。碓氷峠で運転の練習をしてくるんだって。事故らないように気をつけてね。
「やっと、静かになったか。それじゃあ、大賀さん。ホテルまでお願いしますね」
「はい。かしこまりました」
大賀さんは、すうっとクルマを出すと、ホテルへ向かって走り出してくれた。
篤弘はガラスに顔をつけて外を見ている。
「篤弘、なんかみえるのか?」
「うーん。あ!アイス!タツ兄、オレはらへった!」
「腹減ったんじゃなくて、アイス喰いたいだけだろ。飴やるから、舐めてな」
「えー?アイスがいい」
「ホテル着いたら、ハンバーグ食べるんじゃなかったのか?」
「あ!おれ、ハンバーグ食べる!」
そこからホテルまで、滔々とハンバーグトークをする篤弘。すっかり、アイスの事を忘れている。チョロい。




