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柳谷でのお食事会

 弥助さんには、日本から持ってきた材料を使って、お昼をご馳走してあげた。調理は九兵衛さんの奥さんにしてもらったよ。


 オレとジンちゃん、九兵衛さんと弥助さんでお昼にした。

 オレとジンちゃんは机と椅子で、九兵衛さんと弥助さんはレジャーシートを敷いているけど地面に座っている。こうしないと弥助さんが安心して食べられないっていうんでね。


「いや、旨い!昨日、奥方に出してもらったご飯も別世界の食べ物かと思ったけど、こりゃあ、もっと旨い!」

「フフフ、あんまり慌てて食べると、喉に詰まりますよ」


 手放しの賞賛に奥さんも嬉しそうだ。でも、これで終わりじゃないよ。

 目玉は、ジャーン!カレイだ。


「この季節、鮎もイイけど、カレイもね!」


 元ネタを知っていたのが、ジンちゃんだけだったのでスルーされた。悲しい。


「いやいや、お待ちください。カレイと言ったら海の魚じゃございませんか!」

「あ、弥助さんは知っているんだ」

「いや、昔話に聞いただけで、実際に食べた事はありませんで」

「そうか、だったら丁度いい。食べてごらん」


 そう言っても箸が動かない様子。


「ん?どうしたの?」

「ハハハ……。この、刺身をですかい?……ハハハハ。とんだご冗談を……」

「弥助さん、顔色が悪くなっているよ?大丈夫?」

「いえ、大丈夫で。いや、大丈夫で。」

「???」


 生魚が嫌いだったかな?と思ったら、九兵衛さんが助け舟を出してくれた。


「アハハハ。弥助さん。大丈夫ですよ。向井の若殿は仙術が使えてね。海の魚も手に入れられるんだよ」


 そう言って自分の皿の刺身を食べて見せた。

 九兵衛さん、ナイスフォロー!


「若殿様、ここいらじゃぁ、海の魚といえば干物しか手に入りません。生魚となれば、腐っているのが当たり前なんですよ」

「あぁ、そうか!それは悪い事したね」

「わたくしも、いつの間にか向井様の恩恵が当たり前になっていた様で、すっかり失念しておりました」


 う、すいません。当たり前になる程は持ってきてないよね。また、差し入れいたします。


 オレと九兵衛さんのやり取りを見て覚悟を決めたのか、弥助さんは一切れ、箸でつまみ上げた。


「ああ、弥助さん。この汁にちょっと浸けて食べてごらんなさいな。こんな感じで」


 九兵衛さんが、お醤油の使い方も教えて上げる。それを横目で見て真似をしながら、恐る恐る口にいれる弥助さん。口を閉じた途端に目が丸くなる。


「旨い!この魚も旨いがこの黒い汁も旨い!こりゃなんですか?」


 こっちの世界は調味料がほとんどないんだよね。まだ味噌もないんだよ。ヒシオっていうお醤油のご先祖様みたいなのがあるかもってぐらい。


 基本的にお塩なんだ。ただ、海のお塩なので、コクがあって、うす味の料理にはよく合っているんだよね。


「これは、お醤油って言うんだよ」

「へぇ、お塩湯ですか、随分とショッパイですからねえ。でも、こりゃお塩だけじゃあないね。何かわからないが色々と混じってやがる」


 弥助さん、小皿に指をつけては醤油を舐めてブツブツ呟いている。


「弥助さん、随分と気に入ったみたいだね」

「へぇ、蜂蜜も凄い量でしたが、量は別として、ここだけでしか取れないって訳じゃありやせん。だが、このお塩湯は別だ。ちょっと舐めたぐらいじゃあ、何を混ぜてるのかさえわからねえしろもんです。こりゃあ、高値がつきますぜ」


 弥助さんはこれは売れると思ったのだろう。全身をギラギラさせている。

 ところがジンちゃんが断った。


「あいにく、醤油は九兵衛さんのところで使う分しか無くてね。売るほどはないんだよ。まあ、また来た時には、味わえるから楽しみにしていなさい」

「はぁ、やっぱり貴重な物なんですな。まあ、それでは次に味わうのを商いの励みとしますわ」


 弥助さんは未練を残しつつ、諦めていた。


 さて、食事が終わり、お茶代わりの白湯を飲んだら、食事会はお終いだ。


「数々の珍味、ご馳走様でございました。向井様のお眼鏡に叶うものってのは、あっしじゃあ思い付きもしませんが、きっと甲斐お頭なら何かご存知でございやしょう。必ずや、良いお返事をお持ちいたしやす」


 弥助さんは背負子の一番奥に蜂蜜の壺を大事そうに入れると、元気よく川上へ旅立って行った。


「ねえジンちゃん。ここは道の治安どうなってるの?」

「ん?」

「弥助さんに何かあったら、ここ、流通が止まるよね」

「そうだな。九兵衛さん。行商人に何かあった場合、今まではどうしていたんですか?」

「へえ、多分ですが、行商人の待合わせで連絡を取っているんでしょうな。随分と遅れるなと思った月は新しい人に変わっていた。なんて事がありました。他の場所に移った場合もある様で、その後、又こちらを回る様になったお人もおりますが」

「なるほど、そこらへんは甲斐にいるという親方が差配しているんだろうな」

「それと、村と村の間は行き来がありますから、その時に、遭難しているのを見つける場合も」


 九兵衛さんによると人が変わる事が度々あった様で、それが遭難なのか配置換えかまではわからない様子だった。


 遭難だった場合は待合わせ場所に来ないか、たまたま村同士の連絡で人が動いた時にみつかった時しか分からない。往来が増えれば、その分発見が早くなる訳か。


 少しでも安全にできる様になにか考えよう。





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