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柳谷へ訪問

 柳谷を初めて訪問した時の話をするよ。


 九兵衛さんからは何時でも良いとの知らせがきたので、さっそく訪問する事になった。

 初めは飛んで行こうかと思ったけど、五平さんに止められた。


「若、こちらの世界でも空を飛べる人などそうそういませんからね?九兵衛さんが腰を抜かしますぞ」


 そう言われて、歩いて行く事になったよ。

 幸い柳谷までは川沿いに行くので歩きやすい。何度か人が行き来しているので、踏み跡ができているしね。


 朝早く(日本の夕方)に出発したので、昼過ぎには着いたよ。でも日本では深夜2時なんだよね。コレなんとかならんかなぁ。


 今回、犬川一党から三人護衛としてついてきてくれた。シロくんもいるよ。

 柳谷が近づいた時にはシロくんが先ぶれとして走ってくれたので、オレがつく時には九兵衛さん達が出迎えてくれた。


「ようこそ、若様、こんな場所までご足労いただき、誠に恐縮でございます」

「いやいや、今日は九兵衛さんに教えを受ける身ですからね。こちらこそ、よろしくお願い致します」


 こちらに来る前に五平さんから、あんまり頭を下げないように言われたので、ちょっと御曹司っぽく振舞ってみた。


 柳谷の集落は二十人ほどの小さな村だ。主な建物は九兵衛さんの家ぐらいで、あとは木を組んだ小屋がいくつか建っている。九兵衛さんの家族が七人で、後は猟師の親方一家の五人と、炭焼きの一家が四人、後は若い猟師の夫婦が二組だった。


「先ずは、手土産に缶詰を持って参りました。お納め下さい」

「これはこれは!ありがとうございます。本当に助かります」


 そうそう、これも五平さんから教えて貰ったんだけど、日本の缶詰はこちらでは味が濃すぎるらしい。なので、お湯で何倍にも薄めて食べるんだって。


「いや、このおかげで獲物が捕れなかった時にも飢えを凌げるようになりました。本当にありがたいです」


 九兵衛さんの奥さんもニコニコしているよ。


「我々はこちらの事に疎くてね。これからも九兵衛さんを頼りにさせてもらうからね」

「へ!へへぇ!」


 ああ、またみんなで平伏されてしまった。これ、なるべくやめて欲しいんだけどなぁ。


 なんとかなだめて、顔を上げてもらった。奥さんには缶詰と別に手土産を渡し、さらにティーパックを渡して、お茶を入れてもらう。


「シロも付いて行って、手伝ってあげな」


 多分、奥さんには入れ方がわからないだろうと、シロくんを付けてあげる。


 奥さん達が土間に行き、やっと話ができる雰囲気になったよ。さっそく、ジンちゃんの質問リストから質問を始める。


「ええと、先ずは塩などはどうしているのか?」

「へい、塩は川下から行商人がやって来ますんで」


 どうやら、一月に一度ぐらい、青梅の方から入って来る行商人がいるらしい。

 その行商人は多摩川を遡上して小菅や丹波山を周り、大月に抜けて行く。九兵衛さんはその先は良く分からないと言っていたが、サイクルを考えると八王子に行っているんじゃ無いだろうか?


 その行商人以外には、ほとんど人が通らず、たまに集落同士の行き来がある程度なんだって。

 柳谷では動物の皮や骨などを加工して、それを塩と交換してる。ヒト一人がかつげる量で無いといけないし、奥の村の事もあるのでだいたいの取引量は決まっている。そんな感じの暮らしなので、外の事はほとんど分からないんだって。まぁ、そうだろうなぁ。


「川下の事なら、炭焼きの与吉よきちの方が詳しいでしょう。あれは川下まで炭を売りに行ってますから」


 オレが考え込んでいると、九兵衛さんがアドバイスしてくれ、与吉さんを呼んできてくれた。


「若様が川下の様子をお聞きになりたいそうだ。答えられる事だけでいいから答えてあげなさい」

「へい、よろしくお願いいたしやす」


 与吉さんは見た目が真っ黒で目だけが白い。目だけが目立つからキョロキョロしているのが良くわかる。


「与吉さん、分からない事は分からない、知らない事は知らない。それも含めて教えて欲しいんだ。分からない、知らないって答えてね」

「へ、へい!」


こんな聞き方をされた事が無いのだろう、与吉さんは口の中で、分からねえ、知らねえ、とつぶやいていた。


「さて与平さん。川下の村だけど、何日ぐらいで着くのかな?」

「いえ、何日もかかる訳じゃありやせん。一日歩けば付きやす。」


どうやら青梅の方までは行っていない様だ。日本の二俣尾駅や石神前駅の辺りまで持って行って帰って来ているようだね。


「その先の村の事は聞いている?」

「ええ、ずっと川沿いに行くと大きな村に出るってのは聞いておりやす」

「うん、ありがとうございます。また今度、お話しを聞かせて下さいね」


どうやらジンちゃんの質問リストで聞く事はこれぐらいだ。オレは九兵衛さんにお礼を言い、次に行商人が来た時は、教えてくれるように頼んだ。




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