キュウリの選別
山井くんは、国家の存亡を揺るがす秘密を自分のモノに出来ると聞いて、張り切って帰って行った。
「それで?ジン、山井くんの件だけで来たわけじゃ無いだろう?」
山井くんを送り出した後、居間に戻ってお茶を飲みながらジイちゃんがジンちゃんに訊いた。
「ええ、ゲートの向こうを本格的に調査したいと思いまして」
「いろいろ調べたいのはわかるが、調べるにも人出がかかるとなると、なかなか難しいの」
「ええ、ですので、まずは人を極力使わない方針でいきたいと思います」
「ふー、爺さん使いの荒いやつじゃの」
「恐れ入ります」
ジンちゃんが言っているのは、結界の外の世界なども調べたいって事だった。
以前、遠くに集落を見つけたけよね?
そこの住人は人間なのか。交渉が出来るのかが知りたいらしい。
「向井の庄に知的生物が認められないのは、親方の調査で分かっています」
あ、ゲートの向こうを指すのに面倒なので、蔵の周りの結界内の事を「向井の庄」と呼ぶ事にしたんだよ。
「ですが、庄の外にはすでに先住民がいるので、既得権益の確認などもしておきたいですし」
「それだけじゃ無かろうが、今はそれでええじゃろ」
「まずは接触せず、遠くからの観察に留めて欲しいのですが」
「ケンジが偵察。ワシがケンジの護衛って事じゃろう?分かっておるわ」
「よろしくお願い致します」
おお!なんだか出来る大人の会話っぽい!
アレ?でもオレは?オレの出番が無いみたいだけど。
「あ!タッちゃんは、キュウリの選抜の手伝いをお願いね。そろそろみんなが作業所に来る頃だから」
む?それは急いで行かないと!
ジイちゃんとジンちゃんの話し合いにも未練があったけど、オレは作業所へ急ぐ事にした。
ジンちゃんに丸め込まれた訳じゃ無いよ?
野菜の選別は急いで終わらせないと出荷が延びてしまうので、鮮度に関わる。日の出ないうちから収穫を始め、うちの作業場で計測と選別をして規格別に梱包、出荷する。スーパーやレストランなどの直納品はトラックの便を逃すと納期に間に合わなくなるので本当に時間との勝負なのだ。
魔法関係も面白いけど、日々のお勤めも大切なのです。
オレが作業所に行くともう収穫されたキュウリが集まり始めていた。
「お!来たね、タッちゃん。今日は撥ね物やってね!」
キュウリの選別は大きさ、曲がり具合などによって分けられる。曲がりの少ない方が高級品として扱われるし、どれぐらいの曲がりで分けるのか厳格に決まっている。
昔は手作業で婦人部のおばちゃん達による精鋭部隊が等級別にサイズ別により分けていたけど、今は大きさや曲がりなどは機械が選別してくれる。ただ、キズや虫食いなどで出荷できない物があって、それは目で見てより分けないといけない。その作業をウチでは「撥ね物」と呼んでいるんだ。
ベテランになると鬆が入った物や、腐りかけている物を見つける。先端の膨らみとか、表面の色つやで分かるんだそうだ。鑑定魔法を使えばわかるんだけどね。ベルトコンベアで次々に流れて来るキュウリに一本一本魔法かけてはいられない。普通に見た目で選別します。
オレもベルトコンベアの横に入り、流れてくるキュウリの中から失格品を見つけては撥ねる作業を始める。
折れたり割れたりして商品にならないヤツはこっちのカゴ。明らかに曲がり過ぎだけど、食べるのは問題無いヤツはそっちのカゴ。なんとなくだけど、鑑定魔法が助けてくれているのを感じる。少しずつだけど、駄目なキュウリが見分けられるようになってきたぞ。ん?これはたぶん鬆が入っているな。
「タッちゃん、ずいぶんと腕をあげたじゃない!」
「さすが、達造さんの孫ねぇ」
キュウリの出荷が終わってから、一息入れているとみんなに褒められた。なんとなく後ろめたいな。
あ、達造ってジイちゃんの名前ね。
鑑定のスキルが利用できそうな場合は鑑定魔法が働くらしいな。どうやら一旦ゲートをくぐるとゲームで言う「スキル」が使えるようになるらしい。いったんスキルが使えるようになると、こっちでも経験値が貯まるようだ。これは、ジンちゃんに検証してもらおうかな。
規格外品で品質に問題無いヤツは漬け物にするんで、加工場へと運ばれていく。折れていたヤツは豚肉と一緒に炒めて、みんなでいただきました!




