矜持
「ジイちゃんの勇者は置いておくとして、ジンちゃんの能吏ってどういう事なんだろう?」
「うん。日本での活動も反映されているって事なんだろうね」
「鑑定魔法は、人に向けて使っていなかっただけで、日本でも使っていたんだしな」
「うーん。なんか、プライバシーを覗くみたいで、いやだったんだよね」
「でも、正直、今の鑑定結果じゃあ秘密って程でもないぞ」
「今は大した事無くても、そのうちもっと細かい情報が見えるようになると思うんだよ!」
思えば少しづつ心の中に不安が溜まっていたのかも知れない。なぜか、その時、オレは急に感情を抑えきれ無くなり、みんなに訴えた。
「みんな、優しく接してくれているけど、こんな、魔法だの何だの、おかしいよ!カッちやんだって、ケンじーちゃんだって、そんな力、普通じゃないでしょ!」
だんだんと色んな魔法が使えてくるのにつれて、何だか自分が自分では無くなって行くみたいに感じていたんだと思う。
「レビテーションからフライが使えるようになったみたいに、きっと鑑定もすごい魔法につながっていると思う。でも、でもね。そういった魔法が使えるようになった時に、人の秘密を平気で見るような。そ、そんな化け物には、なりたくないんだ!」
そう、叫んだんだけど、カッちゃんやタッちゃんは、何でもないような顔をしていた。
「それは、職業倫理だなぁ」
「え?」
「なるほどね。タッちゃんは無職だったな」
オレとしては、一大決心で告白した積りなのに、みんなにスルッとかわされた気がした。
「なんじゃ、不満そうだのう、たっくん」
感情が顔に出ていたらしい。ジイちゃんが、顔を覗き込んでニヤニヤしている。
「達夫ちゃん、例えば、医者や弁護士は人の恥ずかしい情報を知る事もある。でも、人に話したりしないだろう?」
横からケンじーちゃんが、ゆっくり話しかけてくれる。
「そんな立派な職業じゃ無くったって、俺みたいに人の庭に入りゃ、秘密の一つや二つ知る事もある。そんなの仕事してりゃいくらでもあるんだよ」
「そうそう、魔法使え無くったって人様の秘密なんて見聞きしちゃうものなのさ」
「でも、人様の秘密は誰にも話さん。知っているって事も教えない。それは、人と人の信義であり、職業人の矜持じゃ」
オレは、ジイちゃんの顔を見た。
「当たり前の事じゃ」
オレは、ケンじーちゃんの顔を見た。
「当たり前なんだよ」
オレは、カッちやんの顔を見た。
「当たり前だよ?」
オレは、ハナを垂らしていた。
「オレ、バカじゃない?」
ジンちゃんが頷いた。
「うん、昔からだね」
オレは、3日ほど引きこもった。




