ジイちゃんに相談
変な時間に寝たので、すっかり寝過ごした。
既に陽が高い時間だ。
「おーい、たっくん。そろそろ起きろー!」
ジイちゃんが声をかけてくる。
「あー。今、起きたよー。」
そう返事をしつつ布団から抜け出す。
グッスリ寝たので、気分がいい。
どうやらジイちゃんは畑の見回りから帰って来たトコらしい。90を過ぎているがしっかりしたものだ。
ジイちゃんが縁側でお茶を飲んでいるので、オレも縁側のある居間で食べる事にした。簡単に揃えた朝飯をお盆に載せて居間に向かう。
「そろそろ、婦人会がやって来る時間だぞ」
「ちょっと寝過ごしちゃったか」
「まー、今日は誕生会だし、少しくらいはええじゃろ」
家の家事は近所のおばちゃん達が交代でやってくれている。お昼過ぎに2〜3人でやって来て家事をこなし、そのまま食堂でダベって夕方に帰って行く。
庄屋だった頃の名残りで、作業場の隣に炊事場付きの小屋がある。改装を重ねた小屋は、今では地域の談話室と化している。この小屋の使用料と茶菓子代とバーターで、町内会の婦人部に家事をしてもらっている訳。
100年を越す母屋を見物に来るお客さん向けお土産なども売っている。加工したジャムやジュースとか自分たちの畑で採れた野菜も売っていて、小さな直売所になっている。
加工品は月に一度ウチの敷地でみんなで集まってまとめて作るし、あまった野菜はおばちゃん同士が交換するのでうまく回っているようだ。
おばちゃん達は、家事番ではない日でもダベりしに来るので、午後は10人以上のおばちゃん達で賑わっている。地域のコミュニティハウスとやらになっているらしい。
「あつひろは?」
「もう学校に行っているわい」
甥っ子の篤弘は、既に出掛けている様だ。
「今日は土蔵に客があるんじゃ無いのか?」
「あー、彼女達は午後からだよ。夕べ、支度しといたから、大丈夫」
「ふむ、ずいぶんと遅くまでやっていたようじゃな」
「うるさかった?」
「いや、一度、トイレに起きたんじゃ」
俺はゲートの事をジイちゃんに相談する事にした。
「ジイちゃん。チョット一緒に来てもらえる?確認したい事があるんだ」
「お?なんじゃ?雨漏りでもしてたか?」
「ちょっと、口では説明が難しいからさ、まずは見てみて」
「まぁ、ええじゃろ。時間もあるし付き合ってやるとするか」
朝食を片付けてから、一緒に土蔵スタジオに入る。
「ゲート」
そっと、つぶやいただけだが、すぐさま鏡は反応して、ゲートが開いた。
外は薄暗いが、部屋の明かりである程度見渡せる。
「な、なんじゃ?」
「どうやら、俺、魔法使いになったらしいんだ」
さすがのジイちゃんも、言葉を失い固まっていた。だが、目をキョロキョロさせ、俺とゲートを見比べるとヒョイとゲートの外に降り立った。
「ほー。本当にたっくんの言う通り、魔法の門みたいじゃな」
ジイちゃんが周りを見回しつつ、つぶやく。
「ふむ。」
何を納得したのか、深くうなずきつつ振り向くと、小屋の横手に向かって行く。
「ちょ!ちょっとジイちゃん!」
いつゲートが閉じるのかわからないのだ。
慌てて声をかけるが、ジイちゃんからはのんびりした声が帰ってきた。
「ウラを見てくるだけじゃ。すぐ済むわ」
ガサガサと音をさせて小屋の周りを回っているらしい。しばらくしたら、先ほどとは反対側から帰ってきた。ジイちゃん、順応するのが早すぎるよ。
「他に入口はないようじゃ」
「びっくりさせないでよ!」
「まあまあ。これでここを閉じれば、まずは安心じゃな」
ジイちゃんは、腕時計を外して立木にかけた。ジイちゃんの時計は農作業でも壊れないようにゴツいソーラー電池式のダイバーウオッチにしている。年月日もわかるヤツだ。
「次にゲートをつなげた時に、この時計を見れば、時間のズレがあるかどうかも分かるじゃろ」
そんな発想は無かった。
「浦島太郎には、なりたくないからの」
ああ、そうか。異郷へ行くおとぎ話からの発想か。さすが、年の功。
「さて、今日はこの蔵はお客が来るし、夜には誕生会じゃ」
「あ、そうか。ダンスの子たち、そろそろ来ちゃうかもね」
「今日は色んなトコからたっくんに挨拶に来るからの。失礼の無いようにせんといかんぞ」
地元の有力者の一族はこういう時に面倒くさいんだよなぁ。
向井 篤弘 むかい あつひろ
あつひろくんは小学生です。まだ低学年。
両親はニュージーランドにいます。
次も明日の0時投稿です。