変わらない夏休み
ベッドの上で布団を被りながら、机に放置された大量の紙束に目をやる。が、その視線は一瞬で手元のゲーム機に移し替えられた。
(ま、夏休みはまだまだあるし、な)
俺はそう言いつつ、昔から何も変わってない自分に少しだけ苛立つ。俺は夏休みの宿題は最終日に慌ててやるパターンの人であり、その癖を治したいとも思ってはいる。…そう、思っては……だけど今から宿題をやる気?
「…全く起きんな」
俺はゲーム機ごとごろりと宿題が見えない向きへと寝返りを打つ。こんな暑さじゃあ何をするのにも面倒が付いて回ってしまう。顔に全力でぶつかる扇風機の風を浴びながら、ただひたすらに手を動かす。しかし今やってるゲームは大分前に全てクリア済の奴だ。飽きるのにそう時間はかからなかった。
「なんか良い事起きないかな」
ゲーム機をしまうと同時に、あの二つの物体が目に飛び込んでくる。父さんから押し付けられるような形で貰った用途不明の機械だ。手に取り、その感触を確かめる。
「こんな物どうしろと…」
軽く兵器と呼んでも問題無いその機械の使い方に困る俺。もしなんかの弾みで床に落として起動してしまったら…そうろくでもない考えが浮かんだ俺は即座に机の上に置き直した。
「やる事無いな…」
やる事が無い。とはいえ宿題はやる気が無い。心ではやろうと思っているが、体が動こうとしないんだ。だから出来ない。そう誰も聞いていないのに心の中で言い訳をする。今はただベッドに寝転がっているだけの状態だ。静まり返った部屋の窓から必要以上に蝉の声が喧しく降り注ぐ。こいつらの声を聞いてしまえば嫌でも暑さを認識してしまう。
「…そうだ」
俺はふと上半身を起こすと、床に置いてあったスマホを手に持つ。沢山のアプリの中で、検索をタップする。
「何か出てないかな…」
アイスビズ、何か出るだろうか?興味本位でそう打ち込んだ。
「…え?」
予想もしなかった結果に思わず声が出る。検索したは良いが、画面に表示されたのはどこもかしこも「クールビズ」についてばかりだ。俺の求めているアイスビズについての結果は画面のどこを見ても載っていない。
(まぁ、いいか)
きっとさっきみた話だからまだその記事について誰も書いていないだけだろう。そう思う事にして再びベットへ横になり、薄い毛布を掛ける。この毛布ですら暑苦しく感じてしまう。
「寝よ」
そう呟いた時、不意に風涼祭りの事が頭に浮かんだ。横目で用意の完了した鞄に目をやる。他に入れ忘れた物は無いか?とか、出来るだけ人来て欲しくない、とか。そんな事を中心に考えている内に、俺の意識は夢へと薄れていった。