風涼祭り
ーー
「今日も38度を記録しており…」
「はぁ…?何でこの街だけ異常に暑いんだよ…」
これは去年の夏休み。俺はテレビからの情報に溜息をつく。この街はどういう訳か気温が高く、周りが33度だってのにこの街では38度を記録していた。それも今日だけでは無い。俺はここ1週間天気予報を見る度に38の数字を目にしていた。お陰でニュースにも取り上げられ、世界一暑い都市?だとか熱中症発症日本一?だとかどうでも良い称号を付けられた…って、暑い都市なのは間違っていないし妥当な称号かもな。
ピンポーン
…不意に鳴らされたインターホン。暑くて動く気の無い体をなんとか立たせ、呼び出した奴を確認する。
「…んだよ…」
外で日傘を差して佇んでいるのは昔からの幼馴染み、シルハだ。俺は咥えていたソーダアイスの棒をゴミ箱へ投げ捨てると、玄関を開けた。
「あっ、レイラ…って、寝癖凄いよ!?」
「…開口一番それかよ…って、何の用だ?」
指摘された寝癖を気にしながら、俺は尋ねる。
「何の用って…ほら、明日の風涼祭りの事だよ!」
「あぁ…」
風涼祭りってのは、日付は当日雨天なら多少変わるが毎年8月11日に開催されるこの街独自のお祭りの事だ。祭りといっても半端なイベント等ではなく、この風涼祭りには街を上げて殆どの住民が参加する。だがこの街以外の人間には参加資格が無いという、良く分からんしきたりみたいなのがあったり、このクソ暑いので正直今年は行きたくは無いが。
「んで…いや、玄関で立たせんのも悪ぃし、中入れよ」
「本当?ありがと!」
俺がそういうや否や俺の家へ上がり込んで来る。気づかなかったがその様子を見れば相当暑かったに違いないな。
ー家の中。
俺は二階の自室へシルハを誘導し、髪を水で洗った後、ついで程度に冷凍庫からアイスを取り出した。
「あっ…くれるの?ありがと…っ」
二階へ上がり、俺の差し出したアイスを無我夢中で頬張るシルハ。
「んで、明日の風涼祭りがどうしたんだ?」
俺がそう聞くと、シルハはびくっと体を震わせる。
「え、えっと…それ何だけどね?いつも使ってた水筒…弟に貸したら無くされちゃって…」
「あぁ…それは災難だな」
年下に自分の物を無くされる怒りは良く分かる。俺も妹に貸したPS2を無くされた時は本気で怒ったな…。まぁ、今は別に良いんだけど。
「ほら…風涼祭り…沢山人居るよね?それに予報では明日も38度…水筒無いと熱中症必須だし…」
うん、確かに無いと熱中症は確実だな。俺は初めて風涼祭りに行った時から、その祭りを熱中祭りと呼んでいる。風涼なのは名前だけで、実際は街の人口の殆どが行う巨大な祭りだけあって、とても風涼とは呼べやしない。
「それでね…独りで買うのってなんか嫌だし…いや、出来たらで良いんだよ?」
シルハは言葉を選んでいるような話し方だ。俺はシルハが何を求めているのかが分かってきた。
「買い物に付き合って欲しい、か?」
「っ!」
シルハは驚いた表情で俺の顔を覗き込む。
「え…違うか?」
暫くして、ううん、と首を横に振る。
「おう、んじゃあ明日のこの時間、俺の家へ来てくれ」
俺は時計を見る。まだ朝の9時半だ。休みだから早起きをした訳じゃない。暑すぎて寝るに耐えないから目が覚めただけだ。そのお陰でさっきは寝癖付いてた…って訳だな。
「うん…ありがと」
シルハはそう呟くと、俺の家から二軒挟んだ自宅へと帰っていった。