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日記

…8月7日、今日も救いようの無い寒さだった。

8月8日、いつも道理、全く変わらない。もう俺に…いや、僅かに生き残った奴等に逃げ場なんて無いんだろうか?

8月9日、今日緊急警報が鳴った。どうやら後数日後にはこの都市を「浄化」するらしい。前々からいつかはと思っ てたが、遂にこの時が来た。いずれこの日記もただの遺書同然に成り下がるんだろう。

8月10日…

こんこん、ノックの音が聞こえ、俺はペンを持つ手を止める。

「どうしたんだ?」

持つ手は止めたがドアの方には振り向かず、俺は過去に書き留めた日記を眺めていた。

「もう、尽きそうだな」

ぺらぺらとページを捲ると、書き始めは去年の今頃…あの「凄惨」としか表現出来ない日から始まっている。そして終わりは…後ろの5、6ページを残して全てのページは今までの俺が書いた過去が綴られてあった。これを使い切った時が俺の死ぬ時期なんじゃないか…、そんな縁起でも無い事を考えると怖くて仕方が無い。でもまぁ…どちらにしろこの都市の人間は近いうちに殺される。俺にとってはどうしようもなく「理不尽」な理由でな。

きいぃ…ドアの開く音が聞こえ、いつもの気配を背中に感じた。

「レイラ…都市浄化って…」

「大丈夫だ、そんな事させない」

まだ実験段階なのに何自信満々に大丈夫だと言っているんだか。俺は心の中で軽く自嘲し、日記を閉じる。

「…?その日記は?」

「お前…1年一緒に住んでるのにこの日記の存在を知らなかったのか?」

椅子から立ち上がり、窓から見える「真白」な空に目をやる。網戸が邪魔だが、だからといって不用意に窓を開ける事は出来ない。もしそんな事したら外の殺人的な冷気が部屋に入り込み、下手をすると一瞬で凍死するかもしれないからな。

「…虚しいな」

空はあの日からいつまで経っても真白のままだ。この白は雲ではない。これは…化学物質で作られた恐ろしい殺人の元凶だ。この化学物質が空に覆いかぶさるように隙間なく張り付いている為気温は常に真冬並になり、空を見上げればあの惨劇のトラウマを否応無く思い出さされる。

「ねぇ、レイラ?」

いつの間にか椅子に座り、俺の日記を捲っている。

「なんだ?」

「私達が一緒に住むようになったの…って」

日記を一旦閉じ、最初の一ページ目を俺に見せた。

「去年の明日だったんだね?」

「…そうだな」

確かに日記は8月11日から始まっている。俺は日記を机から持ち上げると、最初の書き込みを読んでみた。

「…あぁ」

僅か数行で、あの頃の思い出が鮮明に記憶から蘇る…。

そう、俺はあの日を境に、両親も友達も、全部全部……

大切なものは全て消え失せたんだ。

ただ、ここに居る幼馴染、そいつだけを除いては。

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