ソロ活動中(ぼっちって言うな!)
ぼっちのハカタです(ぁ
17/09/17に改稿
暇な時間ができてしまい、だからと言って暇を潰す金も無いので、また街に繰り出す。情報はいくらあっても足りない。
「十分な情報」という言葉を使いたいなら、必ず過去形でなければならない。つまり、十分な情報かどうかは、結果論的に逆算してしか見出せないということだ。
そう論理的でなくても、石鹸の値段一つに驚いていたのだから。
『メモ帳』に、チェックを付ける。この宿のさっきの評価は偏見的だったと理解した。こういう、ちょっと情報戦チックなのって楽しいかもしれない。
はたと『メモ帳』を記入していた手が止まる。
「いやー、そん時の勇者が一番格好良かったね!特に《刀王》の迫力なんて尋常じゃなかった。」
「いいなー、お前だけそんな場面に出くわせてよぉ。しかし、流石は勇者様達だな。そんないとも簡単に竜を屠るなんて。」
「やっぱり、召喚は必要だったんだよ。周辺でもきな臭い噂も飛び交ってるし。」
勇者・・・?召喚・・・?深く聞きたいところだが、すれ違い様の会話だったので、それは叶わない。
その後も、度々「勇者」という言葉を耳にする。皆等しく好印象というわけでは無さそうだが、少なくとも、「勇者」に対して悪い印象を持っている趣旨の発言はされていなかった。
そんなに理想的な奴なのか、それとも雰囲気がそれを許さないのか。
そうこうしている内に、1時間ぐらいは経ったであろう。街の中心部に位置する時計塔が、今午後3時を指しているが、どの時点で冒険者ギルドで素材買取を頼んだかは気にしていなかった。
ちなみに、時計塔を見る限りでは、一日24時間であり、時計の時針は1日で一回転するようになっているようだ。
素材の代金として受け取ったのは、10万2千Gだった。流石の俺も、これには慌てた。目立ちたくないとか言いながら、完全に目立ちそうな状況になってしまったのだから。
しかし、幸いなことに、代金を素材買取所の人が読み上げる様なことも無く、明細書と代金の入った袋を渡されただけであったため、目立つような事は避けられた。
ギルドにバレているのは仕方ないということにして、今後は少し自重できるように頑張ろう。今回は運が無かっただけだという事にして。
「明細書に書かれてる通り、袋の分は引いてありますから」という言葉を添えられ、俺はギルドハウスを後にする。受け取った袋はその場で懐に入れるフリをして、《アイテムボックス》にしまったので、スられる心配はない。他人の《アイテムボックス》から勝手にものを取り出せるようなスキルでもあれば別だが。
「きまぐれパスタを。」
「あいよ。」
金も入ったので、漸くまともな飯が食える。宿に関しては、事前に情報収集していたお陰で、迷わずに決める事が出来た。過疎ながらに、美味いし安い。しかも、寝心地もそこそこ。騒々しくないところが、やはり一番だろう。宿では普通一回を酒場にしていることが多く、夜通し開いていると、五月蝿くて眠れないらしい。段々慣れていくものだとも言われたが、静かなところがあるなら、わざわざ五月蝿いところに赴くのはなんぞやと。
「お待ちどう。」
「よっし。食うぜ。」
誰に宣言しているのか、全く持って意味不明だが、俺は食うのを止められない。美味い。美味いぞ。地球だったらなんて不味いんだと一笑に付す様な味が、あの焼いただけの魔獣を食った経験のせいで・・・あ、泣けてきた。
「おかわりだ。」
「あいよ。」
結局3杯おかわりして満足した。そして、1ヶ月振りの、家と同じふかふかとは言えない薄っぺらい、それでも庶民には天国のベッドを堪能した。
「こんなにベッドが素晴らしい発明だったとは。」
俺は、終始泣いていた。
結構密な一日だった昨日から一夜明け、朝食をとってからギルドハウスに向かう。とりあえず、髪が洗いたいという思考は隅に追いやり、ギルドにて、ギルドカードを渡される。登録料と引き換えに。
掲載されている情報は、名前、所属ギルド、そしてランクの3つのみだ。実は磁気IDのようになっているらしい。
これでやっと依頼が受けられるわけだが、G~Sまでランクがある中、勿論、一番低いのがGで、それが今の俺のランクな訳で、受けられる依頼は絞られてくる。
採取、討伐、犬の散歩・・・。犬の散歩って何やねん。放っておいて、討伐依頼を中心に見ていく。
「黒ウルフか、グレートディアか・・・スタータートルか。」
黒ウルフと、グレートディアは見た事がある。雑魚だ。しかし、スタータートルは見た事がない。ここは、見た事ある方を優先させるのが、良い。
ちなみに、昨日見ていた、「黒ウルフ40体討伐」という奴も、Gランク依頼に含まれるが、Fランクが推奨されているようだ。討伐する数が多いというのが一つだろう。
しかし、計算してみれば分かるが、年中無休で「黒ウルフ40体討伐」を受けたとしても、年収にして300万弱である。ただ、これに素材の買取料金も発生するから、本当はもっといくのであろう。
物価が意外と低かったり高かったりするから、円と同一とは言えないまでも、大体の物価が同じ世界で、ずっとこの依頼しかできない実力では生き残れないだろう。
勿論、複数人で依頼をこなす場合が殆どであることは、屯している奴を見れば、言うまでも無く、その場合など言うは更なることだろう。
無難そうな依頼をピックアップし、『メモ帳』に記録する。特に、魔物の過密を防ぐような場合や、量産目的で出される依頼の場合、ギルドに受注の報告をする必要は無い。
今、再びの壁外へ。
何かのキャッチフレーズを思い起こさせる台詞を頭に浮かべながら、昨日と同じ検問に向かった。
身分証を提示し、仮身分証を返還してから、昨日の分も合わせて2,000Gを渡す。
検問の人が偶々持っていたであろう《探知》を、《スキルコピー》で手に入れ、満足して外へ出た。
地球の都会と自然公園ほどではないにしても、やはり外と中では空気の違いを感じる。大きく息を吸い、吐く。
「それじゃ、行きますか。」
早速、手に入れた《探知》を発動すると、不思議な感覚に襲われた。自分が立つ位置から、全てのものが一瞬消え、そして、魔物や人間だけが再構成されるような感覚だった。
《探知》は魔物の輪郭をも捉えており、俺がイメージしていた、漠然と生物の位置が分かるといったことでは無かった。第六感を身に付けた気分だ。
範囲は1kmだ。流石に壁外へ出てすぐで使ったので、今回の目標である黒ウルフを含め、全体的な魔物の数は少ない。
《誘引》などと言う怪しげなスキルがあるかはともかく、そんなスキルは持っていないのだが、20分程検問所から歩いたところで、魔物に取り囲まれていた。
「想像は付くよ。弱いって言いたいんだろ?」
弱いものイジメという言葉が昨今の地球では流行っているように思われるが、一種当然のことだと、この光景を見れば誰もが納得するだろう。
今回の場合、本当の弱いものイジメにならないというところが問題だろう。
一応、《魔源陣》の使い心地を試してみたりしながら、魔物達を蹂躙する。
「こりゃあ、《火魔法》使いは敬遠されそうだな。魔物が煤になってる。」
素材として機能を果たさなくなっているだろうから、売る訳にもいかないとは。
そう言えば気になったこととして、《霊源陣》もそうだが、《魔源陣》も無詠唱で発動できる。これまでそういう、神とのやり取り的な何かを排して発動するスキルは、ほぼ常に発動しているスキル以外知らなかったため、驚きと言えば驚きだ。パッシブスキルと言えば、レッドドレークの、体に火を纏う《紅蓮纏》とか、一番身近なところで言えば、俺の《SP自動振》、《無限創造》、《天機掩蔽》などがある。《一隻眼》も当てはまらない事もないだろうが、微妙なラインだ。
こういうことが考えられる様になった辺り、俺にも余裕が生まれたという事か。いつもイースと一緒だったから、スキルの検証もあまり出来ていないしな。いや、イースには感謝しているが、それとこれとは別という事で、ひとつ。
魔物を蹂躙しながら、スキルの検証をしていると、あっという間に目標を達してしまった。
「それ以前に、《アイテムボックス》に依頼分の黒ウルフが入ってたわけだが。」
気付いたのが半分程狩ったところであったのと、イース無しでも十全に戦えるかどうかの確認もあって、依頼分は狩っておいた。
一ヶ月も魔物と隣り合わせの生活を送れば慣れるもので、魔物に対する恐怖は無かったし、そもそも張っておいたシールドが破られる様な敵には遭遇しないだろうという楽観的な考えもあった。楽観的というより、テラー=ケエル=ドラゴンの一撃すら耐えたのだから、当然の思考とも言えるかも知れないが。
《探知》を怠ることは無かったが、何事も無く、外壁まで辿り着いた。
「うーん。流石に簡単過ぎるな。しかし、目立たないようにコツコツやっていくしかないか。暇なのは良いことだし。」
昼までもうすぐというところだが、検問所から出てくる冒険者達と思わしき人の影は案外多かった。早めの昼を食ってから行くのかも知れないし、一日で帰ってくるとも限らないか。
俺の受けた依頼と違い、もっと強い魔物なのだろう。そんな奴が、外壁の近くに居ると言うのであれば、人間にとって不都合が過ぎると言うものだ。
今度は流石に身分証を提示し、街中に入る。人ごみに紛れ、昼飯を取りつつ、毒にも薬にもならない様な話を、盗み聞く。俺にとっては、宝の山の様な情報だがな。
そして、ふと耳に届いた言葉に流石の俺も、自分を殴りたくなるような衝動を覚えた。
――装備何も考えてなかった。
万が一があるとは思えないが、無いとも言えない訳で、この黒衣はともかく、それ以外の回復薬みたいなものすら揃えていないのは何たる失態だろうか。
ゲームの中でしか無いとは思うが、魔法しか効かない魔物が居ないとも限らない。そのためには、剣なども装備しなければならないし、どうするにしろ、色々必要なものが出てきた。
後、髪の毛洗いたい。体は《水魔法》で流して誤魔化しているが、髪の毛までいくと、流石に誤魔化しは効かない。汚い話だが、痒い。痒いっす。
良く考えたら、日用品やらなにやらの物価は調べたが、装備品については、呼び掛けをしているのを見かけなかったためか、地球から来ていたためか、思考から完全に抜け落ちていた。反省反省。
武具店へ行くと、呼び掛けの代わりと言っては何なのだろうが、執拗に買え買えと言われた。客足が少ない分、来たときは思いっきりぶんどってやろうという魂胆なのか、今の俺の姿が17歳だから舐められているのかは知らないが。
結局、HP回復薬と、数個のアクセサリー系の装備アイテム、そして剣を一本買う羽目になった。3万Gほど飛んでいったが、剣は安くて、使いやすそうなものを選んだ。
ちなみに、魔術でコーティングがされているらしく、ちょっとやそっとじゃ、刃が駄目になったりはしない。
そう言えば、HP回復系の、例えば《回復魔法》みたいなスキルも入手したいな。明日辺り探してみるか。えーっと、一応『メモ帳』に記録してっと。
日用品として、必要そうなものも吟味して買っていたら、いつの間にかそれなりの時間になっており、冒険者ギルドに向かう事にした。
3人の男女とすれ違う。そのどれも、日本人の様な顔立ちだった。つい、反射的に《一隻眼》を発動する。
「なるほど。なるほどね・・・。なるほど。勇者・・・ね。」
十分に距離も離れてからだったので、声は聞こえていなかっただろう。
「こりゃあ、ちっとヤバいな。」
勇者が居れば、その対極も居ると思うのが、普通の思考だと思う。
「シィルスがあの場に居た理由は・・・。」
当然のことながら、昨日会った魔王シィルスを思い出す。彼女には兄がいるような発言をしていたし、《魔王》と名の付くスキルを持った魔物にも2体遭遇している。
何故あの場で、竜などと戦っていたのか?この世界での、「魔王」と「勇者」とはどういうものなのか?
「考えても仕方ないな。」
宿で過ごす夜も決して安全では無さそうだなと、勝手に結論付けて、再び歩き出す。
魔物の解体なんて、例の如くやっていないので、依頼完了の承認も時間が掛かると言われた。時間も時間だし、「明日また来ます」と伝え、宿に向かうことにする。
昨日ほどではないが、今日も今日とて夕食を楽しみ、ベッドのふかふか具合に幸福を感じる。何故だろう。何処かからか、哀れなものを見るような視線を感じる気がする。
ファイアーボールを「待機状態」の様な感じにして、空中に浮かせる。シールドでもそうだが、維持魔力というのが微々たるものだが消費される。無限にあるので関係ないが。
明かりを頼りに、少しだけ『メモ帳』を整理して寝た。