また・・・遭遇したんです。(ヒロインが増え・・・ない)
イース視点
下らない話をした後、「それじゃあ、すまないが、朝まで警戒を頼む。危険だと思ったら、起こしてくれるか、まあ、逃げてくれても構わない。」と、彼は言った。
不思議な人族です。油断していたとは言え、私を『気絶』に追い込むほどのレッドドレークの頭を吹っ飛ばしたり、かと思えば迷子であったり。
実際に頭を吹っ飛ばしたところを見た訳ではありませんが、見かけ通りの強さじゃなさそうです。
加えて。
私は、少し罪悪感を抱きながら、彼に対して《人物鑑定》を使ってみたのですが。
名前 :???
種族 :???
年齢 :???
称号 :???
言語 :???
状態 :???
レベル:???
特性 :???
HP :???
MP :???
力 :???
防御 :???
賢さ :???
業力 ;???
素早さ:???
命中 :???
SP:???
スキル枠 ???
???
「これは、流石に異常すぎますね。」
縦、私の知っている中で最も強いであろうメリア様でさえ、名前、種族、年齢ぐらいは表示されるだろうというのに。
それだけではない。あのアレイの特殊な使い方。あんなものは今まで人族を見てきて、一度も無かったはずです。
「そもそも、アレイを使っている時点で色々と突っ込みたいのですが。」
ウォーターアレイは《水魔法》の初級魔法だと記憶している。素材を切るのには丁度良いのでしょうが、彼ほどの強さでそれを使うと言うのは疑問符が付かざるを得ません。
徐に、風が髪を揺らす。髪と言っても、基本全て水ですけど。
「夜叉又ですか。」
蛇の様な魔獣を見ながら、呟く。この程度なら、私一人でも問題ないでしょう。
「そう言えば、私の《水撃》でも、彼と同じようなことが出来ますかね?」
彼がどうやって黒ウルフを切ったのか、見ただけでは殆ど分からなかったが、水が見えないほど細かったのは覚えている。
《霊源陣》で《水撃》を発動する。細く。より細く。
「む。中々上手くいきませんね。」
彼は余程熟達しているんでしょう。一回で成功させていましたし。年齢は分かりませんが、見た目からかなり小さい頃から魔法の鍛錬をしてきたのでしょうか。
練習している間に夜叉又は倒せてしまいましたし、そう言えば死体どうしましょうか。放っておくと、朝には匂ってそうですし。既に匂ってますけどね。
ふと、先レッドドレークの死体を彼が出したときのことを思い出す。あれは、私の知る《アイテムボックス》とは別物なのか、それとも、彼が特殊な補助スキルを持っているのか。
「《精霊波動》と《水波》で放り投げますか。どこまで飛ぶか分かりませんけど。」
《精霊波動》。良く考えたら、普段は余り使わないスキルですね。主な用途は、普通は精霊が見えない人に姿を見せるためのスキルですが、使い方によっては物を動かしたりもできます。かなり弱いので、魔物との戦闘では全くの役立たずですが。
《水波》はかなり有用ですが、《水撃》の方を多用してしまうために結果的に影が薄くなってしまっているスキルですね。《水撃》より、《水波》の方が、広がりを持つというイメージしか持っていませんが。
《精霊波動》により、少し死体を浮かせてから、《水波》による衝撃を与えてみる。うん、上手くいきましたね。
「さて、暇ですね。」
せっかくだから、絶え間なく魔物が来てくれれば退屈しなくても良いのに。
隣で寝ている、千一卜と名乗った青年を見つめる。
「そう言えば、迷ったと言ってましたが・・・。」
何処でどう迷えば、こんな偏狭の何も無い尚且つ、危険な場所に来れるのだろうか。そして、仲間は居ないのだろうか。
「聞きたいことばかり増えてしまいますね。」
苦笑した。何よりも、人族なんかに興味を抱いている自分に。
「まあ、それもまた一興ということで、一つ。」
そう呟いて、私は私を納得させるのだった。
千一卜視点
陽が昇っていない程の朝、まあ感覚的には5時ぐらいだ。朝早いのは、会社通いのときの癖だ。
「お早う御座います。今日も早いですね。」
「ああ、お早う。」
陽が落ちてからすぐに寝るから、最近は調子が良い。
異世界であろうここに来て、早いことにもう半月程経ってしまった。色々苦労は多かったし、現在進行形で悩みもあるが、概ね良好と言って良いだろう。
「よし、朝飯だな。」
雑草を洗ったものや、魔獣の焼けたものしか食えないが、こう何日も食ってると、飽きというより先に、慣れがでてくる。不味いには不味いんだが、こう、癖になるというか。
「で、後半分ぐらい行けば着くのか?」
街まで一ヶ月以上掛かると言っていたが、今日で丁度半月である。
「そうですね、かなり良いペースですし、あと半月程ですかね。」
「そうか。ありがとう。」
調味料さえあれば違っただろうにと思いつつ、グレートディアという魔獣の肉を食う。最近段々野生的になってきた気がする・・・。とりあえず、シャワーぐらい浴びたいものだ。
一応、俺の名誉のために言っておくと、偶に見かける川で行水ぐらいはしているぞ。
そうそう。そう言えば、俺の出自は一応、偏狭の村ということになっており、掟に背いたために勘当されたという設定になっている。中々良い設定だと思うし、イースも納得していた。「だから妙に常識が欠けてるんですね」と。失礼な奴だ。
妙にじゃない。完全にだ。
「それにしても、流石にただ歩いてるのも飽きてきたな。」
「私も流石にこう、何日も魔物だけ狩っていると流石に飽きますね。」
「それは、なんというか、申し訳ない・・・。」
「あ、いえ、別にそういう意図ではありません。」
そういう意図が無かったとしても、こっちの問題でもある訳だ。自己満足みたいなもんだが。
「では、お詫びの代わりにという訳でもありませんが、またいくつか質問させて頂いても?」
「どんと来い。」
たまに、こうやって質問されたり、時には俺も質問したりする。互いが互いに珍しい話ばかりなので、暇つぶしぐらいにはなる。俺の村話は大体嘘だが。
「では、かなり前から気になっていたのですが、」
「お、おう。」
何だろうかと身構えてしまう。
「魔獣を切るときに使っているあのウォーターアレイの使い方、どこで覚えたのです?」
「覚えたも何も、あの時初めてやったんだが。」
どんな質問が飛び出てくるかと思えば、意外に当り障りの無い話題だった。そりゃまあ、攻撃手段としてもかなり使えるだろうから、聞くのは躊躇われるかと思うが、イース相手に慎重になっても最早仕方が無い。
いつも腹を見せて無防備に寝てしまっているのだから。
「は?・・・初めて使った?どこかで身に付けたとかではなく?」
「ああ、そうだが。どうかしたか?」
イースはなんとなく思案したような顔になり、それから意を決したようにこう言った。
「もし、差し支えなければ、コツなどを教えていただきたいのですが。」
なんでも、イースは俺がこちらで食う最初の夕食のときに、黒ウルフを切る芸当を自分も真似してみようと、しばしば戦闘で試していたらしい。ただ、試しても一向に成功しないと。
「細くすれば良いのかと思ったのですが、これが中々難しくて、ですね。」
細くすれば良い。それは合っている。しかし、実際にイースにやってもらうと、まだ全然太いのだ。
そもそも、ウォーターカッターはうる覚えでしかないが、0,1~1ミリ程度の直径で収めなければならない。俺が魔獣を切るときは結構近いから、多少太くても問題ないが、魔物相手に遠くから撃とうとするなら、かなりの細さと速度を持たせなければならない。
かなり良い規格のウォーターカッターなら、マッハ3程度の速さがある。それでもかなり速いと思うだろうが、それはあくまでも数センチという近距離で放った場合。
「音が鳴るぐらいに細くて、速くないと魔物相手には無理だぞ?」
「む、そうなのですか。では、早速試してみましょう。」
そう言って、まさに襲ってこようとしていた魔物に《水撃》を放つ。勿論、ウォーターカッター仕様である。
「む・・・駄目ですね。」
「細さは十分だと思うが、速さだな。メネスの調べに依りて穿つ、其の根源たるは水、ウォーターアレイ。」
――キィィィイイイイン
「な・・・。」
耳に障るような音と共に、魔物どころか周りの木々まで切ってしまった。とは言っても、所詮ウォーターアレイ一発なので、大した被害は無いが。ウォーターアレイにしては強いだけである。
「一回見ただけで解れとは良い難いが、何か掴めたか?」
「私には無理そうですね。」
「諦めんの早っ。」
「そもそも、木の精霊に怒られそうですし。」
「あー。」
精霊は別に自然の守護者ではないが、住み易い場所というのはやはりあるようで、木の精霊ならば、やっぱり森の中が落ち着くらしい。
「戦闘では極力使わないようにするわ。」
「それが良いでしょうね。勿論、形振り構ってられないときは別ですよ?」
そりゃそうだろうが、形振り構ってられないとかは構ってられないときで《無詠唱化》を使ってしまうつもりだ。まだ《アイテムボックス》以外を無詠唱で使ったことが無いから、《無詠唱化》の存在自体はバレていないはずだ。
ただ、イースのこの親しみ具合を考えると、異世界から来たという頓狂なことはまかり間違っても言わないとして、《無詠唱化》ぐらいならと思うときもある。ただ、イースの知らない様な魔法ということにして、適当な詠唱を取り繕っても問題ない気がしないでもない。出るのがウォーターボールだったり、アレイだったりするだけだ。それはそれでショボいな。
どこでフラグを立ててしまったのだろうか。
最初に目に留まったのは、やはり、その巨大な翼だろう。距離は十数キロ以上離れているかもしれないが、その翼の主、竜は鮮明にこの目に捉える事ができた。
竜と言えば、それだけで強い様なイメージがある。
レッド=コルソン=ドレーク?知らないな。あいつはただの雑魚だ。竜じゃない。
テラー=ケエル=ドラゴンLvMax(300)
竜族(黒竜)
黒雲の招来
HP:42,888,888/2億
総合評価:AAA+
ケエルLvMax(0)
魔王LvMax(1)
リミットクラッシュLvMax(1)
ダークボールLvMax(300)
テラーボールLv250
自然治癒Lv150
飛行Lv100
黒魔法Lv100
咆哮Lv100
極限咆哮Lv50
状態耐性Lv50
予想通りというか、予想以上と言うか。とんでもない能力だ。
こんな竜が居るところに、行きたいわけが無い。
「引き返して良いか?」
「ええ、私も同じ気持ちです。」
そう言う訳で、道を引き返そうとしたところだった。
――グルォオオオオオオオオオ
そんな音が聞こえた。とんでもない雄叫びを上げながら、こっちに向かってきているようだ。何かから逃亡中なのかもしれない。いや、あいつを相手取るってどんな化け物だよ。
もしも、これが万全の状態の「テラー=ケエル=ドラゴン」ならば、俺が危機に感じる必要など無かったのだ。と言うのも、「テラー=ケエル=ドラゴン」は、《飛行》スキルを持っている以上、飛べるのである。飛べるのなら、遥か上空から攻撃される事は万が一に有り得ても、その遥か上空から発見されることは先ず無い。ゲーム風に言うなら、タゲられないのだ。
だが、だがである。俺のHPを遥かに超えるとは言え、2割ほどにまで減ったHPにより、「テラー=ケエル=ドラゴン」は超低空飛行を行っている。その低空飛行さ足るや、翼による風が、木々を薙ぎ倒し、地面を抉るほどであった。
それでも、それだけならまだ良い。あろうことか、この「テラー=ケエル=ドラゴン」は、あらぬ方向に《テラーボール》だか《ダークボール》だかを撃ち散らしている。全く。
すぐに、危機が訪れる。黒ずんだ球状のものが、こちらへ一直線に向かってくる。やばい。防がないと。
「王者たる魔」
威勢の良い声が聞こえ、目の前が真っ黒になる。誰かが何かをしたのは間違いないだろう。防ぐ必要は無くなったが、警戒のレベルは一層上がる。
「これはっ・・・。」
さて、さっきのは偶々だろうから、そう何度も来ないだろうと思いつつ、イースに意見を仰ぐ。
「冷静になって、どうすれば良いと思う?」
「諦めるというのが一番無難ですね。これも人生です。何かがあの竜と戦っているのが間違い無い以上、このままこちらにやってくる竜との衝突を免れる方が奇跡でしょう。」
それでいいのか777歳。いや、777歳だからこそ良いのか。俺はこんな死に方は遠慮したい。せめて、現実世界で人身事故の方が、気分的に良い。人の不幸は蜜の味とも言うしな。
「つーか、レッドドレークもそうだったが、そんなにヤバい奴との遭遇ってあるもんか?」
「普通ありませんよ。よっぽど運が良いんでしょうね。」
皮肉にしか聞こえないな。実際皮肉なんだろう。
「がっ・・・ふ。」
そんな声が聞こえた。声の方を向くと、銀髪の女が妖しく笑っている。《一隻眼》で見ても、HPが3割を切っているのに、だ。
――魔王
まさしくその言葉が似合う。シィルス=ベレト=ランス。良く分からないが、強い奴は、ミドルネームがスキルになっているんだろうか。
レッド=コルソン=ドレークがスキル《コルソン》を持っていた様に。
テラー=ケエル=ドラゴンが《ケエル》を持っていた様に。
そして、こいつもまた、《ベレト》を持っているではないか。
まさしく巨乳と言えるその果実を両方揺らし、シィルスは言う。
「何故、こんなところにまだ生物が居るのかと思ったが、危険も察知できぬ間抜けか・・・がふっ・・・の。」
どうやら敵とすら認識されていそうにない。つーか。
「お前だって苦戦してるんじゃないか?」
シィルスの総合評価は「AAA-」だ。どこまで信用に値するかはともかく、俺の《一隻眼》ではそう答えが出ている。
更に、現状、どちらも瀕死にほぼ近い状態だ。戦意を喪失した方が負けるだろう。何でこっちに飛んできたんだよ。
そう言えば、若干既視感の様な・・・。
「くくっ。確かにの。そういう意味では・・・妾も間抜けじゃの」
そう言いながらも、再び「テラー=ケエル=ドラゴン」の攻撃を弾く。魔力の残りも少なそうだ。
これ、俺達ここにいるの頗る不味いだろ。
「真面目に聞くが、倒せるのか?」
「五分五分じゃのう。・・・我が意志に答え、我が手に顕現せよ、創世之槍」
無数の槍が出現し、「テラー=ケエル=ドラゴン」へと向かうが、HPが殆ど減らない。
さて、MPならまだ、十全にある。
彼我との距離も、短くなってきている。ちょいと厨ニ病全開で行かせて頂きますか。
「俺が倒しても文句言うなよ?」
「本当に出来たら、感謝したい気分じゃの。」
「た、倒せるのですか?」
「・・・。」
「天の足り夜、今宵知者となりて、風月無辺に惑わず、明けて仁者となりて、有為転変に憂えず、天に陽昇りて勇者となろうとも、空御出来を懼れず。千慮の一失が如く燃え、千慮の一得が如く煤となる。さてこそ、其の心双璧なる富饒の火の穂足れ、血滴る運命の炎。」
イースとシィルスのカモフラージュ用に、100個ほどファイアーボールやファイアーアレイを混在させてみたが、本命は2発だけ。正直、2発に分けるのも、賭け要素的なところがあったが、当らないよりは、一発でも当った方が良いだろうという判断だ。
――ズドォォオオオオオオオオン
鼓膜が破れそうな音がした。直前に見た光景は、俺の腕よりも短く、細いアレイが、「テラー=ケエル=ドラゴン」に触れた瞬間、膨れ上がるようなものだった。なんだろう、もっとこう美しいならば、天まで貫く柱が出来たんだろうが、単に爆発物が爆発したときの球状の形にしかなってなかった。
「テラー=ケエル=ドラゴン」に、ファイアーアレイで攻撃。(21,213,341ダメ)
「テラー=ケエル=ドラゴン」を討伐しました。
「スーパーゲル」にファイアアレイで攻撃。(70,000ダメ)
「スーパーゲル」を討伐しました。
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「グレートディア」を討伐しました。
レベルが上昇しました。Lv61(SP61取得)
レベルが上昇しました。Lv62(SP62取得)
レベルが上昇しました。Lv63(SP63取得)
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レベルが上昇しました。Lv89(SP89取得)
レベルが上昇しました。Lv90(SP90取得)
レベルが上昇しました。Lv91(SP91取得)
千一卜、つまり俺は、《回想ログ》の存在自体忘れていたり、ステータスを見るのすら忘れていたりした。なまじイースといるせいで、暇だと言いつつ話題に事欠かないことも原因であっただろう。