千一卜が異世界に来たんです(亀さんが投稿してます)
極が付くほどの遅筆です。
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ソリチュードを感じる夜。徐に吹く冷たい風に酔いが少し醒める。他の客でもはいってきたのだろう。言外にもう帰れと、この風が言っているような気がした。
明日も仕事があるし、いつまでも飲んでいる訳にはいかないのは、事実だ。リキュールグラスに残っているのを、粗暴に飲み干すことにした。
外に出ると、真冬へ向かう寒さが、体を凍えさせる。早めに帰ろう。最寄り駅で、電車に乗ると、遠慮の無い暖房が足元を暖める。頬を撫でる温かみに、意識が飛びそうになるのをなんとか堪えていた。
不意に、電車が揺れる。
――ガタンッ
その衝撃に、閉じていた目を咄嗟に開ける。
緑と茶が全体を描き、赤や白が飾らない様子で佇んでいた。一言で言えば、森・・・だろうか。そう認識した瞬間、聴覚は風で揺らされる葉の音を脳に伝え、嗅覚は草の独特な匂いを俺に知らせた。手を風が通り過ぎ、酔いの醒めを喚起する。
え?つまりどういうことだよ?
それに、違和感もあった。視界を遮る何か。
「ホロ画面・・・?」
その画面らしきものには、平仮名でも、アルファベットでも、俺の知る限りのどの言語のものでもない文字が、綴られていた。
名前 :千一卜(セン=カズウラ)
種族 :純人族
年齢 :17♂
称号 :なし
言語 :ホントル語
状態 :良好
レベル:0
特性 :なし
HP :約20万
MP :約50万
力 :2,000
防御 :3,000
賢さ :3,000
業力 :2,000
素早さ:120
命中 :66
SP:0
スキル枠 12/50
第一言語:ホントル語
SP自動振LvMax(0)
無詠唱化LvMax(0)
回想ログLvMax(0)
ステータス展開LvMax(1)
スキルチェンジLvMax(1)
一隻眼Lv2
天機掩蔽Lv2
スキルコピーLv0
経験値上昇Lv0
アイテムボックスLv10
火魔法Lv1
水魔法Lv1
控えスキル
なし
ただ、読める。いやいやいや、何だよソレ。なんだこのRPGが如きステータスは。
純人族とか知らねぇし、年齢17とか若返り過ぎだし。ホントル語も知らない。しかし、見た事も無い文字が読めるし、このステータス画面がホントル語とか言うやつで書かれているのか?
あほか?
よし、とりあえず落ち着こうじゃないか。
次に、何故スーツ姿でないのか。会社帰りに、バーに寄ったはずだから、もし、電車の中で寝たとして、スーツ姿のはずで、鞄は万が一落としたかもしれないが、百歩譲って、黒衣は羽織ったりしないはずだ。
そもそも、俺の持ってる衣服の中に、黒衣は無い。
更に、原点に帰すれば。
「此処は何処だよ。」
迷子だ。喉も渇いたしなあ。
エンカウントや、リポップという言葉を知ってる人も多いと思う。RPG通でなくても、攻略サイトを見ていれば、自然とその意味が分かるだろう。
予想はしていなかった。ホロ画面をウェアラブル端末か何かと勘違いしたためか、現実という可能性を加味しなかったためか。
どちらにせよ、俺には此処が、どこか都会の山荘とか、夢とか、そっちの意味で捉えていた。
甲高く、どこか不気味な音が響く。これが世紀末って奴か?なあ。
「世界最大の鳥類って、駝鳥ぐらいの大きさだよな・・・?」
俺はそんな分析をしていた。問題はそこではないのに。もっと大きな問題は、これが今、何かが集まって、できたという点だというのに。
おいおいおい、冗談だろ。
とりあえず、全力で逃げよう。それしか選択として、思い浮かばなかった。闘おうと思うほど、俺も馬鹿じゃねぇよ。
足はガクガクで、今にも転びそうだったが、なんとかその場から逃げ出す事ができた。というより、あっちが追ってこなかった。肉食じゃなかったのか?
本気で追いかけっこしたら、まず勝てないだろう。体長が10m以上あったから、足もその分だけ長い。歩幅的にも不利って訳だ。
「あれが、リポップって奴か?はっ。はざけんなってんだ。」
あんなのが何匹もいて堪るかよ。
喉がカラカラだ。本能のままに全力疾走したから、当たり前か。
馬鹿な考えだろうか。《水魔法》を本当に使えるか試すのは。
水魔法Lv1
水に関する魔法が使えるようになる。(ボール・アレイ・シールド)
レベルが上がると、使える魔法の数が増える。
ただの水(攻撃力0)を出す事もできる。
詠唱詳細▼
説明文はとても簡素だった。とりあえず、ウォーターボールとでも唱えてみますか。
「うお?!」
水の玉が出来た。マジか。顔を上げて、水の玉をその上に持ってくる。そして、玉が解けるように念じる。
「冷たっ。」
いや、中々美味いな。純水は不味いと聞いていたが、若しかしたら、水魔法が生成する水は純水じゃないのだろうか。・・・純水でやろうと思ったらできたよ。
使い道無さそうだけど。
要するに、夢か現か、ここは異世界な様だ。案外、誰かが遊びで作った完全ヴァーチャルリアリティーという可能性も捨て切れないが、現実逃避したいだけだろう。
さて、とりあえず、頼れるスキル達の紹介をして行こう。
無詠唱化LvMax(0)
スキルをノータイムで発動できる。詠唱、魔方陣、その他の発動術式に関らない。
回想ログLvMax(0)
自分の身の回りの事を自動で記録する。手動記録も可能。
スキルチェンジLvMax(1)
スキルや、ステータスにに振られているSPを自由に振り直す事ができる。スキルを控えスキルや使用スキルに移動する事ができる。言語や称号などの、ステータスにおけるオプション選択が可能。
ステータス展開LvMax(1)
ステータス及びその説明が表示される(説明については非表示可)。
一隻眼Lv2
ありとあらゆるもの全てを見通す知識の眼。レベルによって見えるものは異なる。有効範囲は視界内。要らんものまで見えるようになる。
敵と味方の大体の強さが分かる様に、総合評価を実装。
アイテムやものに関しては、レア度実装。
天機掩蔽Lv2
ありとあらゆるもの全てを隠し通す絶対のヴェール。
アイテムボックスLv10
スキルレベルに応じて、広がりが増す不思議な空間を出現させる。中では時間が経過しない。生物は入れられない。
こんな感じだった。一番重要なのは、やはり、《ステータス展開》だろう。これが無ければ、早々に死ぬ。いや、現状でも死ぬ寸前みたいなもんだけど。
《水魔法》と《火魔法》は、レベル1とは言え、有用だ。火の玉と水の玉しか結局撃てなかったが、試してみたところ、《無詠唱化》のお陰だろうが、二重、三重に念じることで、威力を2倍3倍にすることができるようだ。多重詠唱、多重展開とでも名付けよう。
まず何をすべきか。突如として湧く敵がいるんじゃ、安住の地なんて約束されない。そして、こんなところ人が居そうもない。詰んでる。夢なら醒めて。
ついでに《スキルコピー》は、消費魔力が多すぎて使い物にならないと分かった。
とりあえず、適当に、敵が来なそうな場所を探しつつ、魔法の扱いについて、考察していると。スライム的な何かが現れた。《一隻眼》。
スーパーゲルLv35
総合評価H+(Z、SSS、SS、S、AAA、、A、B、C、、、、K)(+-表記有)
地魔法Lv35
水魔法Lv35
火魔法Lv35
風魔法Lv35
お、見えた。総合評価とは、《一隻眼》が勝手に付けたランクだ。なんか俺よりレベル高いんだけど。ステータス的には、スーパーゲルの方が低いか。どうやら襲ってくる気配も無いし、倒してみるか?いや、実はこれが擬態で、攻撃された瞬間に、元の姿に戻ったり。無いか。
俺は《一隻眼》を信じるぜ。一応、どのくらい強いのか分からないし、ウォーターボールを多重展開。1,000個。MPは結構あるからな。
パシャリという効果音と共に、スーパーゲルが弾けた。《回想ログ》では。
《水魔法》を使用しました。
《水魔法》により、『スーパーゲルLv35』を討伐しました。
レベルが上昇しました。Lv1(SP1取得)
レベルが上昇しました。Lv2(SP2取得)
レベルが上昇しました。Lv3(SP3取得)
おう。良いじゃねぇか。ん?待て。ステータスがSP以外増えてないんだが。バグか?
・・・いや、SPしか貰えないシステムなのかもな。ステータスにもSPが振れるらしいし。
試しに、ステータスにSPを振ってみたが、1SPにつき、大体ステータスが0.1%UPするようだ。普通に、スキルに振ったほうが良いと言う結論が出た。
ドロップアイテムというか、死骸から見つけた『魔力核』なるものを、《アイテムボックス》にて回収する。
とりあえず、ノンアクティヴな魔物は、積極的に倒していくか。アクティヴな(自発的に襲ってくる)魔物は、見つけたら一目散で逃げるが。・・・まあ、基本逃げるけどな。
もうすぐ夜だ。魔物の尻ばかり追いかけているから、こうなるのだろう。言っておくが、卑猥な意味は一切無い。
一日や二日ぐらいの徹夜ならなんとかならんでも無いが、それ以上は危ない。何とか、休める場所か、休める方法を模索しないとな。
ノンアクティヴな魔物の近くで寝るとか?アクティヴな魔物が、それを獲物としてる場合があるか。却下。
洞窟を探す。そんな余裕は無いよな。時間が足りない。却下。
火の玉で照らしながら、人里を捜し歩く。二日でどれだけの距離が歩けるかによるよな。火の玉出してたら、夜行性に襲われるのは必須だし。却下だな。
やばい。何も意見が出ないんですが。でも、現実的なのは、最後の意見だよな。しかし、何の対策も無しに、無防備に歩くってのも気が引ける。
結局、色々試してみた結果、ファイアーシールドが使えることが分かったので、これを多重展開することで身を守りながら、明かりにもして、人里を探す事にした。
最悪なのは、この世界に人というものが居なかった場合だが、言語スキルがある以上、意思疎通の出来る相手はいるだろう。友好的だといいな。
夢なら醒めろとは言ったが、最早夢で無いだろうし、完全ヴァーチャルリアリティーな筈も無い。異世界か。行きたいと願ったことが、無いとは言わない。こんな形で実現するとはな。
全く、皮肉なものだ。願いに殺されそうになっているとは。
少し修正しました。(15/08/11)