悪夢
目が覚めたら自室のベッドの上にいた。
薄暗く、壁に幾つもの穴が開いている、陰気な自室。
カーテンの隙間から僅かに部屋に差し込む太陽光が、大まかな時刻を知らせていた。
朝か。
この部屋でまた目が覚めてしまったと、うんざりした視線を横に向けると、すぐ傍にはなぜか付き合って三年になる彼女の姿があった。
どうしてこんなところに……。
訊ねる前にあることに気付いた。
彼女の吹き出物一つない綺麗で安らかな顔は、頭から流れる赤黒い血で汚されていた。
何があったんだ。
慌てて向けた僕の双眸が捉えたのは ぱっくりと割れた彼女の頭。
写真でしか見たことのない脳髄が、彼女の脳髄が、僕の目の前に置かれてあった。
なんなんだこれは。
馬鹿になった頭で必死に状況を整理しようとしていると、父親が部屋に入ってきた。
『てめぇは欠陥品だ。てめぇの彼女も欠陥品だ。欠陥品をどう扱おうと俺の勝手だ』
父親は金属バットを片手に、訳のわからない言葉を頻りにぶつぶつ洩らしていた。
僕はすぐに理解した。
こいつが彼女を殺したのだと。
『ふざけんな』
『あぁ?何だって?』
『ふざけんな』
高校の制服姿の彼女から手を離すと、僕はズボンのポケットの中に忍ばせてある、ダガーナイフに手を伸ばし、激昂することもできない空虚な気持のまま、父親へと突進した。
ナイフの刃は面白いくらい簡単に父親の腹に飲みこまれた。
『貴様……欠陥品の分際で……』
父親は何か戯言を抜かしていたが、僕は下卑たおくびと共に吐き出される奴の穢れた血しか見ていなかった。
それから何度も何度も父親をナイフで刺している内に、いつまでたっても父親が死なないので、今見ているものが夢であることに僕は気付いた。
彼女は現実で死んだわけじゃない。
良かった。本当に良かった。
でも……。
夢であることには気付いたが、僕は父親を滅多刺しにする両の手の動きを止めることはできなかった。