死神という名
僕のあだ名は死神である。長くて湿っぽい髪、暗く沈んだ瞳、青白い肌、痩せた腕。どの見た目をとっても、死神という名にぴったりだ。
これでも顔立ちが良ければ「薄幸の美少年」と称されたのかもしれないが、残念なことに、うっかり微笑むことが許されないほど僕は美しさというものを持ち合わせていない。歯並びも悪い。
教室で寝ていても不気味だといわれ、太陽の下運動場でさわやかに遊んでいても不気味だといわれ、しかたなく図書室にでも入り浸る日々。「図書室の死神」などと要らぬオプションがついてくるが、ここには似たようなのが何人もいて僕もその中に紛れ込める。
こうして、ただ無抵抗に死神という名を受け入れているようだが、実はそうではない。僕にはこの名は絶対にそぐわないと思っている。僕は実際の死神がどういう奴かを知っているのだ。
死神は、僕の席の隣に座っている。
もともと明るい色の髪、きれいに澄んだ瞳、程よく焼けた肌、細マッチョな体格。
これで終わりではない。
成績は学年13位な上、体育大会ではリレーの選手、チャラくないのに女子に受けが良い。歌も絵も上手い。もちろん歯並びも実によろしい。
こんな奴がこの世の人間だとは思いたくない。男子にとってこいつはすでに死神みたいなものだが、まぁ、当然そういう意味ではなく。
死神は、授業中に黒いノートを広げている。授業そっちのけで(それでも当てられれば答えるのだが)、ずっと何かを書き込んだり手帳と見比べたりしている。まるで重要な仕事のようだ。そっと盗み見てみると、人の名前がびっしりと書かれていた。いわゆるデス・ノートだったのだ。
いくつか読み取れたものをメモして、家で死亡記事を探すと、あった。
まだ報道されていなかったのも、2日するとニュースで発表されていた。それは間違いなく書かれていた名前だと確認した次の日、僕は死神に話しかけていた。しかも妙な感じだが体育館裏に呼び出して。
死神は一人でやってきた。いつも昼休みにやるサッカーを断ってきたのだろうが、そんな様子は顔にみじんも出していなかった。
「話って何? 告白じゃないだろうな、まさか足立区の死神が」
また要らぬオプションが。
いや今はどうでもいい。告白するのはお前のほうなんだ。
僕は口を開いた。
「城田ってさ……死神みたいだよな」
言い忘れていたが、死神の名は城田である。
「え? いや、それはそっちが呼ばれてるのに」
きょとんとした表情で城田は否定した。何かを隠しているようには全く見えない。
「授業中ずっと、デス・ノートみたいな真っ黒いノート広げて人の名前書いていってるじゃん。書かれた人、どんどん死んでいってるし」
「ええー? 俺そんなことしたことないよ」
じゃあ次の授業も隣見といてみれば、と城田は言った。
そんなの、今のやり取りがあった後で広げるわけがない。馬鹿かこいつは。
あぁ追及に失敗したなと思いながら、二人で教室に帰った。
そして僕は目を疑った。いつもと同じように、城田は一心にデス・ノートに名前を書き込んでいる。馬鹿か、こいつは。
「嘘だろ、おい」
悪ふざけなんだろ。こそっと城田に声をかけた。振り向かない。恐ろしくなって、先生が黒板を向いた隙に揺さぶった。
ちらりと見えた瞳は、疲れたときの僕なんかよりもずっと黒くうつろだった。
「――――」
その時、城田と一番仲の良い女、野崎がこっちを向いてきた。 頼むよ、こいつを助けてやってくれよ。何の関係もないけど、僕は視線を合わせて祈った。野崎は――城田に微笑んだ。
もっと頑張ってね、とでも言うように。
死神は城田なのか?
「野崎……お前が何か――」
城田がシャーペンを油性ペンに持ち替えた。野崎は前を向いた。
-終-