またよる
ふと窓の外を見るともう暗くなっていた。
制服の採寸から帰ってきてからずっとベットでゴロゴロとしながら悶々としていた。何故か胸が高鳴っている。帰ってきたばかりの時よりは落ち着いたけど。
あの娘のせいや。
ズンズンと私の中に踏み込んできたあの娘。こんなん初めてやわ。もう、なんなん。どないしたんや私。
仰向けになる。
「紅羽、か」
あの娘の名前が口から零れた。それに気づいて恥ずかしくなる。
ホンマないわ。
「ただいま~」
下から母さんの声が届く。どうやら帰ってきたらしい。
「よいしょ」
小さなかけ声とともにベットからでる。そして部屋を出て1階に降りた。
「おかえり」
玄関で母さんを出迎える。
「あら、起きてたんやね」
「うん」
「着替えたらすぐ夕飯の用意するからもうちょっと待っとって」
そう言うや母さんは自分の部屋に入っていった。その背中に
「別に急がんでええよ。そんなお腹空いてないし」
声をかける。
ご飯ができるまでテレビでも見て時間をつぶすことにした。
リビングに行きソファーに座ってテレビをつけた。最近のベットに次ぐ私の定位置だ。
いつも通りチャンネルを回しながらボーっと見ていると母さんがリビングにやってきた。
「できたで」
「ほい」
テレビの電源を消して立ち上がる。もう台所に戻った母さんを追ってリビングをでて台所に入る。
机には親子丼がのせられていた。
麦茶の入ったコップを置いて母さんが席に座ったのでわたしも続いて座った。
「ちょっと手抜きさせてもろたわ」
母さんの言葉に首を横に振って答える。
「十分やわ。むしろ量多すぎて食べられへんかも」
「何言うてん。丼やなくてお茶碗に入れとるのに。ほんとはもっと食べなあかんのやで?」
「かんにんして。これでいっぱいいっぱいや」
「まあアホなこと言ってる間に冷めてまうし食べよか」
「そやね」
『いただきます』
「そういや稟、今日の制服の採寸ちゃんと行った?」
「行ったよ」
「よかった。どうやった?」
「どうってなにが?」
「気ぃ合いそうな子おった?」
「時間遅めに行ったし人おらんかった」
「1人も?」
「いや、・・・1人おったけど」
「なんや、おったんやん。何?男の子やったんか?」
「ちゃう。女の子」
「なら何か話せたやろ」
「まあ」
「どんな娘やったん?」
どんな娘?う〜ん。難しいな。
「よう分からん娘やった」
「なんやそれ。じゃあ気は合いそうやった?」
気が合いそうかどうかやと、別に嫌な気はせんかったかな。
「多分」
「へ〜!あんたが初対面の人と気合うのなんか初めてやないか?」
なんだか勝手に母さんが盛り上がり始めた。
「よっぽどその娘のこと気に入ったんやね」
「別に気に入ってなんかないし」
ムキになって否定してしまった。
「ほうほう。本格的に気になってるみたいやん?その娘のこと何か聞かんかったん?」
「家がこの近所みたい。あとこの春から1人暮らしやて」
「ご近所さんか。下宿かなんか?」
「ううん。親が仕事の都合で引っ越すことになったけど高校決まってたさかい残ることにしたんやて」
「へー。そうか。なるほどな」
母さんが何か考え込む。
「ごちそうさま、部屋行っとる」
先に食べ終わったのでそんな母さんを放っておいて食器をシンクに持って行ってから自分の部屋に戻った。
もう聞かれるんややしな。