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せいふく

 引っ越しから1週間、今日は学校での制服の採寸の日だ。休日ではあるけれど母さんは今日も朝から仕事に出かけていった。さて、何時から出かけようか。1時から5時までに受付ってなってるけど時間にはば取らせ過ぎで逆に迷惑やわ。時計を見ると今は1時30分、学校は徒歩で20分やから今から行っても2時には着く。


 まあでも、はよ行っても人多いだけやろし、ちょい遅めに行こかな。こういうんて皆早めの時間に行くはずやし遅く行ったら待ち時間なしでいけるかもしれんし。人多いんややし。


 そうと決まればベットに俯けに倒れる。ここ1週間の私の定位置。忙ししてる人には羨ましがられるか怒られそうや。ザ、ニートライフ。


 両方の足を膝を曲げたりのばしたりしてパタパタとシーツを叩きながら時計を手にとる。学校行くんは4時でええかな。目覚ましを3時50分にセットして元の位置に戻した。


 さて、寝よ。なんや最近寝てばっかな気ぃするな。記憶が戻ったせいかな?知恵熱?なわけないか。





 

 〈ピピピ、ピピピ、〉


 目覚ましのアラームを止める。


 結局すぐに寝てしもたみたいやな。


 ベットから抜け出して伸びをする。


 そろそろ行かなあかんな。ややけど。財布と書類、鍵だけ入った小さめの手持ち鞄を持つ。


 部屋をでてトテトテと階段を降りて玄関へ。座ってから靴を履く。戸締まりをして家を出た。


 てくてくと学校への道を歩く。


 ここ1週間スーパーくらいしか行かへんかったからこの道も入試以来や。もちろん学校に行くのも入試以来。ふわっと風が吹いて髪が靡いた。まだ少し残っていた眠気が抜けていく。


 すこしの間歩くと校門が見えてきた。


 “府立宮北(みやきた)高校”


 来月から私が通う高校。校門を入ると受付場所の書いた看板が立てられていた。


 案内通りに行くと長机に受付と紙が張られている所に女の人が1人座っていた。期待通り他に人はいない。


 「採寸の方ですか?」


 私に気づいた女の人がたずねてきた。


 「はい」


 短く返事する。


 「こちらへどうぞ」


 言われるまま歩み寄る。


 「お名前を伺ってよろしいですか?」

 「夏芽(りん)です」


 「ぇっと・・・はい、確認できました。どうぞ、これを持ってこの通路奥の教室に行ってください」


 記入用紙らしいものを受け取る。


 「よかった〜。こんな遅なってもてウチだけやないかって心配しとったんやけど」


 急に後ろから声をかけられてビクってなる。


 ゆっくり振り返るとえらい美人さんが息を切らせて立っていた。スラッとした体、整った顔にはしてるか分からんくらいの化粧をしてあって、私より長い髪を1つにまとめて普通のポニーとサイドポニーの間くらいの位置でとめてある。おろしたら肩くらいかな。身長は私より5センチほど高いくらい。


 「ちょっと待っとって。すぐ受付済ますから」

 「お名前は?」


 静観していた受付の女の人がタイミングを合わせて女の子に声をかけた。


 「神宮紅羽(じんぐうくれは)です」


 「ありがとうございます。こちらをどうぞ」


 神宮さんは紙を受け取るとこっちに振り返った。


 「おまたせ。行こか」


 なんだか馴れ馴れしい。でも、なんでか嫌な感じはしない。逆に落ち着く感じ。なんや妙な気分。


 「うん」


 短く返す。


 どちらともなしに歩き出す。


 「名前なんて言うん?」

 「夏芽」

 「なつめちゃんかぁ。かわええ名前やね」


 かわいいって、いきなり何!?少し頬に熱がたまる。それに名前ちゃうわ。


 「名前やない。性や」

 「あちゃあ、ごめん、ごめん。名前はなんて言うん?」


 ぅぅ、言葉だけ見れば馴れ馴れしい嫌な奴やのに仕草のはしばしに気品あるし一々かわいいし。いったいなんなん?


 「稟」

 「へぇ、りんちゃんか。かっこええな。」

 「そうでもない。それやったら神宮さんの方がかっこええやん」

 「名前でええよ」


 いきなり名前とか。コミショウの私にはハードル高いわ。


 「ウチも稟ちゃんのこと名前で呼ばせてもらうし」

 「ちゃん付けはやめて。・・・恥ずかしいわ」

 「そか。ほな・・・稟、でええ?」


 かぁぁと顔が熱くなるのがわかる。こんな可愛い子に至近で呼び捨てにされるって。いきなりやし。いままで名前で呼ばれることなんて母さんからしかなかったし。上目遣いやし。


 「ぅん」


 頷くしかないやん。そうすると神宮さんは嬉しそうな笑顔を満面にした。


 「ありがとう。ほなウチのことも呼び捨てでお願い」

 「・・・紅羽、さん」


 なんとか名前を言葉に出す。


 「さんはいらへんよぉ」


 紅羽さんが拗ねたような顔する。もう、かんべんしてや。こっちは名前言うだけでもいっぱいいっぱいやのに。


 「稟」


 促される。ぅぅ。しかたない。


 「・・・紅羽」

 「うん、これから3年間よろしくな、稟」


 ちょうど指定された教室に着いたので2人連れて中に入る。中には4人の女の人がいた。採寸2人、記入2人みたい。


 「どうぞ、お2人なら同時にいけるので」


 片方の記入係の人に記入用紙を渡す。紅羽はカーテンの向こうのもう片方の人に渡した。


 「服とスカートを脱いでもらっていいですか?」


 言われるまま脱ぐ。


 「1度これを着てください」


 渡されたセーラー服を着る。


 すると採寸係の人が軽く確認してきた。


 「うん、1番小さいので大丈夫やね。てことは夏服の方もSでええな。もう大丈夫なんで脱いでもらっていい?」


 1番小さいサイズって。一応胸だけならCあるわ。ぎりぎりやけど。


 制服を脱いでかえす。


 「はい、次はこれ履いて」


 今度はスカートを渡されたので履いてみる。ストンと落ちた。


 「あれ、えらい細いんやね。1番ウエストが小さいのやのに。ちょっと計らせてな」


 そういうやいなやメジャーでウエストを計ってきた。


 「ほぉ、すごいね。こりゃ特注した方がええね。ベルトだけやとつらいわ。おっけ。採寸はこれで終わりやさかい服着て帰ってくれたら大丈夫やよ」

 「ありがとうございます。」


 お礼を言って自分のスカートを手に取った。さっと履いてベルトを閉める。つぎにセーターを着た。


 カーテンから出るとちょうど紅羽も採寸を終えて出てきたところだった。


 「稟も終わったんか。家ってどこら辺なん?途中まで一緒に帰らへん?」

 「ええよ。家は大学病院の方に歩いて20分くらい」


 断る理由もないし頷く。


 「へえ、じゃあご近所さんねんや。行こか」


 紅羽が歩き出した。それに私も続く。


 「あれ?中学どこやったん?」


 紅羽が首を捻る。


 「大阪の中学。先週引っ越してきてん」

 「そうなんや」

 「紅羽はここが地元?」

 「うん、そう。ただ親が引っ越すいうんでその手伝いしてたら今日遅なってもてん」

 「紅羽だけ残るの?」

 「うん、せっかくこの高校受かったしな。もう高校生やし親も一人暮らし認めてくれてん」

 「へぇ」


 




 そのあとも軽く話ながら歩いていたら家の前まできた。


 「ここがウチの家やから」

 「へえ、やっぱり近くやね。ウチの家はこのまま歩いてすぐや。じゃあまた、高校で」


 紅羽が軽く手を振ってくる。


 「うん」


 私も手を振りかえした。


 すると紅羽が嬉しそうに笑って

「じゃっ」

と言うと踵を返して歩いていった。



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