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ひとり

 「だるい・・・」


 朝、目覚ましの音で起きたは良いが頭が鉛のように重い。

 最近体の調子が良かったから油断していた。三日前の遊園地に行った疲れがでたのかもしれないが。


 この感じやと今日は学校に行くんは無理そうやな。


 とは言っても朝ご飯が無いのは2人に悪い。そう思ってベッドから出て立ち上がったところで目眩がして膝をついてしまう。


 あぁ・・・これは無理やな。


 しかたがないので母さんを起こして朝ご飯は任せることにする。気をつけて階段を下りてから母さんの部屋へ行き起こす。


 「母さん・・・」


 呼びかけるだけで起きてこちらを見る。


 「今日は寝とき。ご飯は私が用意するから」

 

 何も言ってないのに言いたいことを理解してくれたみたい。流石や。


 「ありがと」

 「ええから部屋へ戻り」


 頷いて部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。





 少しの間ベッドで横になっているとノックも無しにドアが開いた。


 「稟っ、大丈夫!?」


 ベッドまで駆け寄ってきた紅羽に少し呆れながら

 「大丈夫」

 と答える。


 「ほんま?」

 「ほんまほんま。嘘言うてもしゃあないやろ?」

 「稟やったら言いそう」

 「もう・・・、ほんまに良くあることやから。それより紅羽も学校あるんやから早くご飯たべやな」

 「・・・わかった」


 予想通りご飯も食べずに私のとこ来たんやな。なんというか・・・もぅ。


 それだけ心配されてるということなので嬉しい反面、心配をかけてしまっていることに申し訳なく感じる。


 「時間ないで?」

 「・・・食べてくるけど・・・何かやってほしいことない?」


 この感じやと学校行かんとか言い出しそうやな。


 そう思って先に釘を刺しておく。


 「ほな、宿題うちの代わりに出しといてくれへん?」

 「宿題?」

 「うん」


 この残念そうな感じ見るに正解やったみたいやな。


 「じゃぁ、食べて学校行くけど・・・何かあったらメールしてな」


 頷きで答えると渋々といった感じで私の宿題やらをやったノートやプリントを持って部屋を出て行った。


 ふぅ。


 本格的にしんどくなってきたので寝るために目を瞑った。








 目が覚めたので窓を見るとカーテンの隙間から太陽の光が強く差し込んでいた。光量から見て今は昼すぎくらいだろう。


 「・・・・・・静かやな」


 そう言えば1日1人で過ごすのは久しぶりやな。紅羽と暮らすようになってからずっと一緒やったしな。家でも学校でも・・・お風呂でも。


 いいかげんお風呂は1人でも良いだろうとは思うが、体調を崩したこともあり許してはくれないだろう。


 「なんや寂しいな・・・っ」


 言って気づく。紅羽と暮らし始めるまでは1人で居るのが普通だったのに今や何処か胸に空白ができたようにかんじてしまう。


 その空白を埋めるように熊のぬいぐるみを持って抱きしめる。


 「・・・精神年齢も体に引きずられてるみたいや」


 自嘲ぎみにそう呟く。


 調子は朝よりは少しましになったみたいだ。ただ、まだまだ良いとは言えないため、寂しさを紛らわすようにぬいぐるみを抱きながら再び眠りについた。







 『カシャ』


 なにかのシャッター音で目が覚めた。


 音の発生源を見るとカメラを構えた紅羽が居た。


 「何?」

 「いやぁ、ベストショットは頂かなあかんやん?」

 「・・・寝てるとこがベストショットなん?」


 恥ずかしさをごまかすように不機嫌なふうで答える。


 「いやいや、寝顔だけでもたしかにあれやけど縫いぐるみ抱いて寝てるとこってキュンってなるやん?」


 言われて縫いぐるみを抱いたまま眠ってしまっていたことに思い至る。余りの恥ずかしさで顔が熱くなる。多分、今自分の顔は真っ赤に違いない。


 その顔を抱いていた縫いぐるみで隠す。


 すると、

 『カシャ』

 とまたシャッター音がした。


 「やばい、稟可愛すぎ」

 「・・・・・・もぅ、そんなことしに来たん?」

 「ちゃうちゃう、お粥持ってきたんやって。うちが作れたらよかったんやけど、残念ながら料理はからっきしやから稟のお母さんが作ってくれたやつ」


 勉強机を見ると湯気をたてている器が置かれていた。


 「わかった。わかったから関係ないその写真は消して」


 ムスッとした表情で言う。縫いぐるみはもう枕の側に置いた。


 「それは稟の頼みでも聞かれへんなぁ」


 ニヤニヤした表情でそう答える紅羽に何を言っても無駄だと思い諦めることにした。


 「はぁ、ほな頂くわ」


 お粥を食べようとベッドから出ようとすると紅羽に止められた。


 「稟、ストップ。食べさせてあげるからそのまま」

 「いや、ええって」

 「うちが食べさせてあげたいんやって」


 そう言って紅羽はお粥の入った器を持つとスプーンで一掬いして「ふーふー」と息を吹きかけて冷まし始めた。


 あれ?これってまさか・・・。


 「はい、稟。あーん」


 はい、きました。ベタなやつ。


 ただベタな分ものすごく恥ずかしい。


 「自分で食べられるから」

 「病人の言うことは聞きません」

 「横暴や」

 「横暴で結構」


 こうなった紅羽には何言うても無駄やな。


 でもなぁ・・・。


 スプーンを見て・・・紅羽を見て・・・スプーンを見る。


 も〜やけや。


 目を閉じて口を開ける。すると直ぐに口の中にスプーンが入ってきた気配がしたので口を閉じた。


 完全に自分の顔は真っ赤に違いない。


 絶対熱上がってる。紅羽のせいや。


 目を開けると紅羽がすでに二掬い目を用意していた。


 これは・・・はぁ・・・。


 もう全てを諦めた。

 



 ただ、恥ずかしい思いはしたが、気づかないうちに寂しさはどこかに行ってしまっていた。



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