いいんのしごと
「もう一昨日は大変だったよ」
月曜の朝、ホームルームが始まる少し前に教室に入ってきて荷物を机に置くや否や晴が口を開いた。
「どう言うこと?」
紅羽が先を促す。一昨日っていうと服買いに行った日か。
「服買って帰ったらさ、母さんに袋の中見られたんだけど、急に喜び始めちゃってさ」
「ん?別にええんやないの?」
紅羽が首を捻る。
「まぁ確かにそこまではよかったんだけど・・・」
「よかったんだけど?」
続きが気になって私も先を促してしまう。
「着てみてって五月蠅くて着たのはいいんだけど、そしたらどうしてそんなセンスの良い服選べたんだって聞かれて、そのまま根掘り葉掘りショッピングの一部始終聞き出されたあげく紅羽や稟を一度家に遊びに来るように誘わなあかんようになってもて」
「うちも晴ちゃんの家1回行ってみたいし別にかまへんよ?」
「まぁ紅羽ならそう言ってくれると思ってたしここまではよかったんやけど」
紅羽と目を合わし今度は二人して首を捻る。
そこからなんかあるん?
「そうこうしてるうちにお父さん帰ってきてからが本番やったんよ。抱きついてきたかと思ったらカメラなんか持ち出してあたしの写真撮りだしてさ。他に服は無いのか、とか次はいつ服を買いに行くのかとか五月蠅くて五月蠅くて。まぁお小遣い貰えたのは良かったんだけど」
「それはまぁ」
「ご愁傷様やな」
紅羽とともに何とも言えない気持ちでそれだけ口にした。
オシャレっ気の無かった娘が急に可愛い服着だしたらやっぱり親も嬉しいもんなんやろな。うちの母さんも私が制服着ただけで嬉しそうやったし。まぁあれは違った意味もあったと思うけど。
「稟の方は何とも無かったの?」
「うち?あぁ、だって母さん帰ってくる前に着替えたもん」
「そうなんよ、ちょっと部屋に戻ったすきに元の服に着替えちゃっててさ」
紅羽が思い出したように不満を口にした。
「せっかくの目の保養やったのにもったいないわ」
「そうね、確かに買ってあげた服をそうそう直ぐに着替えられたらショックよね」
姫がニヤニヤしながら紅羽に加勢する。
「それはそうやけど・・・恥ずかしし」
「でもそれじゃあ紅羽が可愛そうじゃない?」
姫がなおも追い打ちをかけてくる。紅羽まで期待した目で見てくるし。
「・・・・・・ぅ〜。ほなこの日曜はあの服で食べに行くよ」
「ほんま!?」
2人からのプレッシャーに折れてしまった。まぁ紅羽にこんなキラキラした目向けられたんやしそんなに悪い気はせんけど、なんかこの頃流されてばっかな気がする。
「約束やで」
うん、覚悟を決めるしかなさそうや。
はぁ・・・。
5限目の体育が終わって6限目の道徳は委員会の時間になるみたいなので姫と晴と分かれて紅羽と図書室に向かう。
「図書委員の仕事って何があるんかな?」
「受付とか返ってきた本を棚に戻すくらいやない?」
中学の委員の活動を思い出して言う。
「それだけかな?」
「本の管理とか追加はクラブの子がやるんやないかな、多分やけど」
「なるほどな〜。でもなんでそんな詳しいん?」
「中学では2年間図書委員やったからな」
「へ〜そうなんや?ほな残りの1年は?」
「ぇと・・・」
答えにくい。
なんて言お。
チラッと紅羽を見ると此方の言葉を待っている。
う〜ん・・・・・・。
うん、正直に言うんが一番かな。
「1年の時は委員やってなかってん」
「どういうこと?」
「1年の頃結構体調悪かってな、あんま学校行かれへんかったから委員にはならんで良かってん」
「っ。・・・・・・そか。・・・」
ギュッと手を握られる。
「高校では3年間一緒に委員しよな」
ほんま・・・。
ほんま紅羽は優しいな。
でも大丈夫やで?ほんまは私、中高を倍経験できてるんやし。言われへんのが申し訳ないなぁ。
でも、紅羽と3年間も同じ委員できるんは嬉しいな。
お礼を言うかわりに握られた手で握り返す。
すると紅羽は嬉しそうな笑顔で返してくれた。
委員の仕事は概ね予想通りのものだった。今日は役割と当番決めをして活動は終わった。部活などで放課後が空いていない子はイベントなどでの雑用などの役割になり、残った子で放課後の受付などの当番を割り振った。私と紅羽は月曜の当番になった。
そして今日は仕事は免除で来週から放課後5時まで受付の仕事をすることになった。