けんがく
「稟、次体育やしちょっと早いけど更衣室に行こう。燈と晴ちゃんも」
「更衣室ってどこだっけ?」
「もう晴、入学式の時に説明されたやん」
「入学式の時の説明覚えてるとか姫くらいやって」
「そんなことないんじゃない?ねぇ、紅羽?」
「まぁ、ね。稟は仕方ないけど晴ちゃんは更衣室の場所くらい覚えとくべきかも」
「うわ、紅羽にまで言われるって」
「行かへんの?」
「あぁ、ごめんごめん。燈、晴ちゃん、一旦行こ?」
「そやね」
「あ、待ってよ。あたし場所知らないんだって」
更衣室に入るともうクラスの女の子の数と同じくらいの人数の娘が着替え始めていた。
「あれ?」
「どないしたん?」
クラスにいなかった顔ぶれを見回していると紅羽が不思議そうにたずねてきた。
「いや、なんや数多ない?」
「数?あぁ、入学式の日来てなかったし聞いてないんやったね。体育は2クラス合同でやるみたいやで。その分男女別みたいやけど」
「そうなんや」
幾つか空いているロッカーが固まっている所があったのでそこで着替えることにする。
体操服のズボンを袋から取り出しスカートの下に履く。上着を脱いでロッカーに入れる。そこでふと隣を見る・・・え?
上下下着姿の3人が目に入る。
「な、なんで全部脱いでんの!?」
「全部って、下着着てるやん」
当然とばかりの顔で返してくる紅羽。
「いや、ブラくらいやったらええけど・・・下は恥ずかしいやん」
「まぁウチも昔は気にしてたこともあったけどココちゃんとした更衣室やし」
「いや、でも皆に見られるんは変わらんやん」
「皆って、女の子しかおらんのに気にせんでもええやん」
サラッと返されて自分の価値観が少し崩れてしまった。
「それは紅羽が見られて恥ずかしない体してるからやん」
このまま話が終わるのも癪なので反撃を試みる。
「いやいや、ウチで恥ずかしないんやったら稟も恥ずかしいわけないやん。それに燈とかも普通に脱いでたやん。なぁ?燈」
「うん。と言うより稟の着替え方の方が変わってると思うけど。まぁ稟らしいと言えばそうかもだけど」
いやいやいや。
「晴はそんなことないよね?」
「え?あたしも別に恥ずかしいとかないけど?でもまぁ3人が注目を集めてるのは確かだと思うけどね〜。女のあたしでもやっぱり3人の体は気になるもん」
晴まで・・・。って注目?回りを見渡すと何人かと目が合ってしまった。
ぅぅ。やっぱり恥ずかしいやん。
「ほら、やっぱ見られてるやん」
「そらそうやけど女の子に見られても何もないやん?」
「でも稟って結構胸あるんやなぁってことはわかったけどね」
「もう、燈は変なこと言わない」
姫の言葉に上がブラだけだったのを思いだして急いで体操着の上を着る。
すると紅羽と姫に笑われてしまった。もう。
着替えて体育館に向かうともう先生が待っていた。
「はいはい来た娘から適当にこっち来て座って」
言われたように適当なところに4人で腰を下ろす。
暫くしてチャイムが鳴ると先生が再び口を開いた。
「私がこれから1年間この2クラスの体育と保険体育を担当する柴田です。羽を伸ばしたくなるのもわかりますが体育は危険も伴う教科なので気を抜きすぎないように1年間やっていきましょう。まず点呼をとります...」
「はい。全員出席ですね。来週からはスポーツテストを行っていきますが今日は交流も含めて多分皆がルールを知っているドッジボールをします。女の子だし嫌だって思う娘もいるとは思いますが授業なので真面目にやるように。真面目にやってみれば意外と面白く感じるものです。チーム分けですが一試合目はクラス対抗にします。それと夏目さんはこっちへ、他に体調の悪い娘も今のうちに言いに来てね」
「稟どっか体調悪いん?」
晴が心配して言葉をかけてきてくれる。
「まぁ悪いっていうか・・・」
「あぁ稟って重い方?」
ちょっと。晴、そういうのは少し気を遣おうよ。
「いや、そうやなくて。うちちょっと体弱いから」
「え、そうなん!?」
晴が驚きの声を上げた。姫も驚いた顔をしている。
「稟、うちが説明しとくからはよ行った方がええよ先生こっち見とるし」
「うん。お願い」
紅羽に説明は任せて先生の元へ向かう。
「夏目さん、運動ができないのは予め聞いてるんでこれからの説明をしますが、この見学者用のプリントを見学中に書いてもらうことになります。これには授業内容とその授業を自分が受けるなら気をつけること、気がついたことなどを書いてもらいます」
「はい」
頷いてプリントと鉛筆を受け取る。
「授業の始めに毎回渡すので授業終了の時に持って来てください」
「わかりました」
体育館の端に腰を下ろす。今日の見学は私だけみたいやな。
暫くすると試合が始まった。
徐々にうちのクラスのチームが優勢になっていく。紅羽も晴もすごいな。
そう、紅羽と晴がとんでもないのだ。運動部らしき娘などよりもダントツで目立っている。そうこういっているうちに晴が相手コートの最後に1人にボールを当てて試合終了。
次の試合はクラスごちゃ混ぜで行うらしい。多分先生が指示したのだろうけど紅羽と晴が別々のチームになっている。
今度の試合はいい勝負になった。たまに様子を見ながらプリントも埋める。
時間が無くなったようで先生が笛を吹き試合終了。どうやら僅差で晴び入ったチームが勝ったようだ。
先生が合図して皆が集合する。私も先生にプリントを渡してからその中に混ざる。
「うん、皆結構真剣に取り組めてたと思います。次は授業の始めにも言いましたがスポーツテストをします。体育館系のものを先にするので、また体育館に集まってください。では終わります」
前回の化学の授業の進行スピードの補足を。
どれくらいの速さかピンとこなかった方もいらしたと思うのですが、高校の化学の授業はこの作品の時代設定では化学1と化学2の教科書になっています。ものすごい進学校でも化学1は1年はかけるものです。センター試験の化学が化学1の内容だけと言えばどれくらいの容量かは分かっていただけると思います。そして化学1は大きく3章に分かれています。作中のスピードで進めれば1学期の中間テストまでで1章が終わってしまいます。ということは・・・はい、現実ではありえないくらいの授業スピードですね。やり過ぎたかもしれません。