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いえ

一人称が言葉と心の中で変わってるのはあえてそうしています。また、言葉遣いも時代背景に合わせてすこし古くさくしています。

 病院を出るとちょうどお昼前で日はほとんど真上まで昇っていた。まだまだ春先で冷たい風が頬をなでる。でも日が照っているから少し肌寒いくらいで気持ちよくも感じる。


 「う~ん」


 両手の指を絡めて伸びをする。


 「風、気持ちええなぁ」

 「若さやね。私は寒いわ」

 「たしかに寒いのは寒いけどな」


 頬を少し緩める。


 「家すぐやし行こか」


 母さんも微笑み返してくる。


 「ウチあんま道覚えてへんし道案内お願い」

 「はいはい、わかってますよぉ」


 母さんがゆっくり歩き出した。その何気ない気遣いが嬉しくもあり申し訳ない。生まれたときから私は原因不明の病気で体が弱かった。少し激しい運動をすれば息切れと目眩を起こすし、度々倒れる。そんな私のために母さんは私と歩くときはいつも亀並みにゆっくり歩いてくれる。多分、もう無意識なんやろうけど。


 10数分程歩くとベッドの上で目覚める前の記憶の最後に見たドアの前に到着した。


 「そういやなんで一軒家にしたん?お金あんま余裕ないのに」

 「あんたはお金のことなんか気にせんでええから。それに少しくらい余裕あるわ。あの人も結構な額残してくれてるしな」


 私に父さんはいない。私が物心つく前に病気でなくなったらしい。つまり私は母さん1人に育てられたわけ。病気持ちの私を1人で働きながら育ててくれた。両親とも親はもうおらんらしいからほんまの意味での1人で。ほんま感謝してもしきれへん。


 「そか。なら気にせんとく」


 ちらっと玄関の表札を見ると“夏芽(なつめ)”となってある。私たちの家名。鍵をもらいドアを開けて中に入る。


 「おかえり」


 後ろから母さんが私に言う。振り返ると優しく微笑んでいた。


 「・・・ただいま」

 「うん」


 返事をすると母さんは頷いた。なんだか胸が暖かくなる。でもちょっと恥ずかしい。恥ずかしさをごまかすように玄関に腰掛けて靴を脱いでそろえると家に上がった。


 「えらい立派やな」

 「これからずっと暮らす家やさかいな。1階に台所とリビングと私の部屋、それにお風呂と洗面所とトイレ、2階にあんたの部屋と荷物ようの小部屋と空き部屋や」

 「なるほど。了解や。ほな自分の部屋に先に荷物置いてくるわ」


 階段を上がって手前のドアを開ける。空室、てことは奥が私の部屋やんな。奥のドアを開けると見覚えのある机、ベット、棚などがすでに配置されている。母さんが気を使って荷下ろしを一部済ませてくれたらしい。手荷物を敷かれたカーペットの上におろす。間取りも引っ越す前の自分の部屋と同じやしあんま変わらん感じ。でも、少し違和感。なぜか戸惑いは少ないけどやっぱりおかしな感じがする。記憶のせいかな?自分では性格は変わってないとは思うけど言葉遣いは今の体の方に引っ張られてる感じ。普通に15年間暮らした体に転生前の記憶が蘇ったてのが近いかな。


 部屋の隅に立てかけられた立て鏡の前に立つ。鏡には立った私の姿が映る。肩にかかるかかからないかで切りそろえられた黒髪、平均より少し低めの身長、痩せた体、病的に白い肌。顔の見てくれはまあ、そんなに悪くないと思うんやけど色恋沙汰はなし。生まれ変わる前の自分の顔はなぜか思い出せない。まあ、覚えてた所で意味ないし逆に混乱しそうやしええやろ。


 着ていた中学の制服を脱いでクローゼットに仕舞う。今度母さんにわたさなな。クリーニングにだして置いときたいみたいやし。仕舞った制服のかわりに長めのスカートとセーターをハンガーから外して取る。セーターはベットに置いといてスカートをまず履いた、と思たらストンと地面に落ちた。また痩せたらしい。


 一応ちゃんと食べてんのになんで?はあ、しゃあない。


5段の衣装タンスからベルトを取ってスカートを腰まで上げる。落ちないようにベルトを巻いた。最後にセーターを着て鏡を見る。


 うん、まあええやろ。


 「はよ降りてきぃ!」


 下から母さんに呼ばれた。


 「すぐ行くぅ!」


 返事を返して部屋を出て1階に降りる。


 「こっちこっち」


 声のほうに行くと台所だった。そこに結構大きめの机が置いてあってお粥が置いてあった。


 「はよ座って食べ。腹減ってるやろ?」

 「うん、ちょっとな」


 4つある椅子のうちお粥が置いてある前の椅子に座った。


 「机えらい大きいなぁ」

 「前と違って一軒家やし、あんま小さいよりこれくらいの方が見栄えええやろ?」


 母さんがにかっと笑う。


 「まあ、そうやな」

 「やろ?ま、そんなことよりさっさと食べ。冷めてまうわ」

 「うん。ほな、いただきます」


 手を合わせてから目を瞑って言う。目を閉じるのはもう癖になってしまった。箸とお茶碗を持ってお粥を啜る。私はお粥はスプーンより啜りたい派だ。


 「どうや?」

 「美味しい」 

 「そか」


 母さんが嬉しそうに頬を緩める。もう何回やったかわからんやり取り。私が体調崩したときにいつもお粥を出してくれるけど、そのとき決まって味を聞く。お粥は私が一番食べることが多いから気になるんやろか?


 「このあとどうする?」

 「さすがにちょっと疲れてるし家でダラダラするわ」

 「了解。ほな私は買いもん行ってくるさかい留守番お願い」

 「わかった」

 「ほないってきます」


 母さんは鞄をもつと早速玄関に歩いていく。


 「いってらっしゃい」


 返事をしてからすぐに玄関のドアの開閉音が聞こえた。


 さて、・・・なんや頭が混乱しとるし夜まで寝よかな。


 自分の部屋まで上がるとベットに倒れ込んだ。いつも私が留守番をするときは母さんは戸締まりをするのでそこらへんは気にしない。目を瞑ると予想以上に疲れていたのかすぐに意識は薄れていった。

 


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