第二章3部〜森のナカの猫
「んっ・・・・や、やめろ!!」
ジャックスはガセルを剥ぎ取って、投げ飛ばした。
森の中で暮らしてきただけあって、動きは俊敏だ。
ジャックスは、瞬時に状況を理解した。
自分とリンに薬がもられていたなら、ガセルにももられていてもおかしくはない。
むしろ、そのほうが自然だ。
「ガセル!目を覚ませっ!」
ジャックスの荒げた声で、リンは飛び起きた。
「何!?どういうこと!?」
「薬だ。誰かが薬を・・・」
『あっ、ペンダント落としちゃってたみたいです。ちょっと、探してきます。』
「あいつか・・・・」
「フリジアさん、いつになったら帰ってくるわけ!?」
「さぁな。ガセルが暴れている間は、帰ってこないだろうな。」
「何それ!?」
「あいつが薬をもった当人ってことだ。」
リンは、驚きを隠せないという表情をしたまま、バタフライナイフを取り出した。
そしてそれを構えて、ガセルを狙っているようだ。
「リン!お前は、ジルを叩き起こして来い。」
「え?で、でも・・・・・。」
「そのナイフで掠りでもしたら、ガセルは死ぬ。そんなこと、俺が許さない。」
「わかった。じゃ、ジル叩いてくる。」
正しくは、起してくるだ。
と、ジャックスがリンに突っ込んでいる余裕はなかった。
ガセルは、ジャックスよりも遥かにこの森を知り尽くしている。
場所だけ見ると、確実に勝ち目はない。
「じ・・・ジャックス・・・・・」
「ガセル!?お前、まだ話せるのか?」
「へへ・・・長くはもちそうにねぇ・・・・なぁ、俺を木に縛り付けてくれ。」
「は!?」
「放っておけば・・・効力も消えるだろ?・・・早くしないと・・・俺はお前を押し倒すぞ。」
「わ、わかった。」
とはいうものの、縄なんてもっているはずもない。
仕方なく、ジャックスは先ほどまで自分が被っていた上着で手を縛り付けた。
「ばっ、痛ぇんだよ!」
「だって、ジャックスが叩けって言うから。」
「言ってないぞ、リン。」
今度はまだ言う余裕があった。
ガセルはまだ足をばたつかせていたが、腕の結びは相当紐抜けが得意な奴でないと、解けない。
リンとジルが、ジャックスのほうへ歩いてきた。
そのとき・・・・
・・・・・バァァァァアン!!・・・・・
一瞬、空耳だと思った。
または、雷の類。いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。
「が、ガセル!?」
「ぐっ・・・・・」
銃声は、ガセルに突き刺さっていたかのように見えた。
ガセルは、木に縛り付けられたまま、腹部から出血している。
「ぎ・・・銀の弾・・・・!?」
リンが悲鳴にも似たような声で言う。
「ダメだ!!ガセル、目を覚ましてくれ!!」
「・・・っ・・・・・!!」
「おいおい、冗談だろ・・・?」
ジルは立ち尽くし、言葉も出ない。
ジャックスは、銃弾が飛んできた方を見やった。
・・・・ニィ・・・・
暗闇の中で、にやりと笑ったのが見えた。
木の枝に乗り、楽しそうにその光景を見ている。
「フリジア!・・・・お前!!」
ジルが先に言った。
「フリジア?誰のことだい?そんな猫、元からここにはいないよ。」
「・・・・お前・・・誰だ!」
「ジャックス君。君を心から愛する、同属だよ。」
フリジアは、木から飛び降りてゆっくりと近づいてくる。
そして、敵である紋章を、ジルが先に捉えた。
「『G』のペンダント・・・・しかも、黒っ!?」
「G・・・ってことは、グレイ!?」
「あぁ・・・しかも、黒・・・・・そうか、わかった。お前の正体が。」
「ふふ・・・君ならもう少し早く私に気付いてくれると思っていたよ。」
「Grayのボス・・・Black・・・・!」
「いかにも。」
ぱぁっと黒い光に包まれ、次の瞬間、フリジア・・・否、ブラックは黒猫になっていた。
「うぅ・・・・・・」
唸るような声が聞こえ、全員が振り返る。
ガセルは縄を千切り、もはや形を保ってはいなかった。
「私は、見学しているとしようか。」
「何!?」
「ジャックス君、私は、君が絶望で泣き崩れる姿を見たいのだよ。」
ガセルは、自我を喪失し、4本足で飛びかかって来た。