第一章〜ネコガリの猫
「1億ギルーか・・・・」
一人の男が、賞金首のビラを見て、呟いた。
1億ギルーもあれば、世界一周してもまだあまりがでる。
「仕方ない、やるか・・・・」
「でもよ、でもよ、ジャックス。こりゃあ、ちょっと安すぎねえか?」
ポケットから小さな動物が顔出した。リスとイタチが混ざったような感じだ。
「まあ、食いつなぐくらいはできるだろう。」
ジャックスと呼ばれた男は、ただ町中でビラを見ているだけだったが、道行く猫たちの目を引いた。
「黒猫だ・・・・」「俺、初めて見たよ・・・・」「まぁ、おぞましい。」
シャーっと小動物が威嚇したように、毛を振るわせた。
「いいんだ、ジル。」
小動物の名は、ジル。動物名は、スクウェイトフェレット。絶滅されたといわれている動物だ。
「依頼人は・・・・リフ・ガーネット・・・・この近くだな。」
「ちょ、ジャックス、これから行くのか?」
「別に、ここにいたって目立つだけだしな。」
ジャックスとジルは、小高い丘を越えた先にあるというガーネット家に向かった。
「大金をかけたかいがありましたね。こんな大物が来て下さるなんて。」
ガーネット家は、大きな豪邸だった。
真っ白な壁、周囲に咲く大量の花。ジャックスは鼻を押さえた。きつい、といって。
「どうぞ、お入りください。黒猫・ジャックス。」
「依頼主は、お前か?」
「ええ、リフ・ガーネットといいます。」
「ずいぶんと子供だなぁ。」
ジルが漏らした。依頼をするのは大抵、国の重鎮や、もしくはやくざ。
いずれにしても、こんな子供だとは思わなかった。
見た感じ、20前後。おちついた赤毛に、茶色っぽい耳、ふさふさの尻尾。
金持ちにはよくみる毛並みのよさだ。
そして、リフは笑顔のまま言った。
「僕は、こうみえて今年で25です。よく、子供っぽいとは言われるのですが。」
25・・・・ジャックスは23歳だから、年上だ。
それにしても、若すぎる。
「そろそろ、本題に入りましょうか?」
「ああ。」
リフはまだ、笑顔だ。ジルは「筋肉痛になるぜ、絶対。」とか囁いていたが、
ジャックスは大して気にも留めていなかった。
「依頼した男は、僕の父です。」
「父?」
「はい。」
「どういうことだ?」
ジルの質問に、少々表情を曇らせたリフ。
「父は、数日前から森に入ったまま、帰ってこないのです。それで、探しにいって見つけたと思ったら、狂ってたんです。ただ、闇雲に斧で木を殴っていた。」
「うぇ。」
気持ち悪い、と言わんばかりの声を出すジル。確かに、その通りだった。
狂っている猫は、異様に奇妙な物だ。
「後悔、しないか?」
「しませんよ。もともと、そんなに好きな父ではなかったので。」
「失って気付くこともあるということだ。まぁ、いいだろう。」
交渉成立だ。