第四章3部〜レンボの猫
女は、ジャックスを人通りの少ない路地街へ連れ込んだ。
そして、首飾りに触れると、眩い光がさした。
「何・・・!?」
「初めまして、私はバイオレット。ブラック様に忠誠を誓うものよ。」
「まさか・・・刺客・・・!?」
「いいえ、私はあなたを殺せとも、連れてこいとも言われていないもの。」
「なら、なぜ?」
「私個人として、あなたを殺しに来たのよ、ジャックス。」
バイオレットは、ドレスをめくり、隠されていたナイフを取り出した。
そのナイフは小さかったが、何か、おかしかった。
「それは・・・?」
「これはロングナイフ。刀身は、見えないわよ?透明だから。」
ナイフをジャックスに向けると、距離はあるというのにジャックスの頬がぴりっと切れた。
そして、その血はつーっと透明な刀身を伝い、どれほどの長さかを示した。
「・・・・厄介だな。」
「ふふ。ここで、朽ち果てるがいいわ。」
ジャックスの服にびりっと裂け目が走り、腹部がのぞいた。
「なぜ・・・俺を狙う!?」
「あんた、ムカつくのよ。私はあんなに努力したのに報われず。あんたは何の苦労もせずあの方のお気に入りになってる・・・・。」
「んだよ、ただの僻みじゃねえか!」
ジルが叫んだ。
「ジル?」
「俺たちを出し抜けると思うなよ?ジャックス。」
「そうだよっ。」
リンもいる。巻き込みたくはないのに・・・どうして・・・?
「うるっさいわね、この珍獣!」
バイオレットは刀身を振るう。
「バカ!伏せろ!!」
ジャックスは声を荒げた。それに驚き、リンとジルはばさっと伏せた。
間一髪で、リンの髪が少し切れていた。
「お前には聞きたいことがたくさんある、すぐは殺さないさ。」
ジャックスはするりと剣を抜いた。
月明かりに反射して、ジャックスは輝き、とてもうつくしかった。
「はぁ・・・」
リンは、小さくため息をついた。頬を、少しだけ赤らめて。
「死ぬのは、あんたよっ。」
バイオレットは、刀を振りかざしてきた。
何度となく降りかかる刃を、ジャックスは軽く交わしていた。
それどころか、ジャックスの刃に斬られ、自分が傷だらけだ。
「俺を殺したいなら、もっと刀に好かれてからにするんだな。」
ばっとジャックスはバイオレットを押し倒し、腕を足で押さえつけた。
「な、何でジャックスは交わせるの?」
「んなこともわかんねぇのかよ。あの女は、刀を振る時に肩から動かしている。ゆえに、どんなに刀身長くても、簡単に交わせちまうってわけ。」
「へぇ〜すごいねぇ〜、ジャックス。」
「俺だってあのくらいはできるっ!」
・・・・・コツ、コツ、コツ・・・・・
「貴様ぁぁあああ!!死ねぇぇえええ!!」
バイオレットは白目をむき出して、ジャックスに切りかかってきた。
ジャックスは受け止めるが、重くて今にもはじかれそうだ。
「くっ・・・・」
「「ジャックス!!」」
・・・・・グサッ・・・・・
「え・・・・?」
バイオレットから、ぐたっと力が抜けていった。
ジャックスは、バイオレットの腹部を太い刃が貫いていることに気がついた。
「な、何・・・・?!」
「う・・・・・。」
呻き声に似たものとともに、バイオレットは崩れた。
ジャックスはその体を支えるも、バイオレットに追い払われ、地面に下ろした。
「ブラック・・・・様・・・・?」
「やぁ、ジャックス。また、会ったね。」
そこには、爽やかに微笑みながら歩いてくるブラックと、土気色のコートを着て、フードを深々と被っている男の姿があった。
そして、顔色一つ変えずに、バイオレットに突き刺さっている刃を引き抜いた。
「どう・・・・して・・・・・」
「どうして?決まっているだろう、ジャックスに勝手に飛び掛っていたからさ。私はそんなこと、許した覚えはないよ。」
「ブラッ・・・・ク・・・・さま・・・・・・」
バイオレットははたはたと涙を流しながら、瞳を閉じた。
「うるさいなぁ。」
ぐさっとバイオレットの喉を引き裂いた。
もちろん、意識の途絶えたバイオレットからは、悲鳴も上がらなかった。
「なんて・・・・なんてひどい事を・・・・」
リンが小さな声で、足を振るわせながら言った。
「迷惑をかけたね。」
ぱっと去っていこうとするブラック。
ジャックスは、ブラックのあまりの冷酷さに声も出せなかった。
恐怖・・・・兄以外に感じたことのない類の恐怖・・・・。
そして、コートをきた男が、振り返った時に、にやっと笑っているのに気付いた。
その男の口元だけがちらりと見え、少しだけ動いていた。
『逢いに来たよ。ジャックス・フォーネハルト。』
ジャックスは、一歩後ずさりそうになった。
その男には、ひどく見覚えがあったからだ。
「に・・・・兄ちゃん・・・・・」