第四章〜レンボの猫
・・・・ドカッ・・・・
ここは、廃墟のビル。グレイの本拠地である。
「あぁ・・・ジャックス・・・君は罪に溺れた猫だろう?なぜ・・・そんな白猫を置いておく・・・?君は・・・憎しみの黒と、血の赤がよく似合うというのに・・・白?」
ブラックは荒れ狂っていた。
自分が座っていた椅子を蹴飛ばし、壁に命中させる。
「ブラック様・・・・」
「ブラック様・・・・」
「何?」
「「あの白猫・・・・楽しいよ。僕ら、もらってもいい?」」
「構わない・・・いや、そのほうがいいかもしれないな。あの白猫は、生け捕りして・・・・ジャックスの目の前で、犯し、引き裂き、見てもいられない姿にしてあげたほうが良さそうだ。」
ジャックスに対するブラックの異常なまでの執着心は、どんどん進行していた。
「ブラック様も・・・本当に哀れだ。あの子の過去を、知らないのだから。」
影から見ていた男は、ふふっと笑みを浮べながら、そう口にした。
そして、さっと暗い部屋に戻っていく。
「俺、あの黒猫を、傷つけテェ。はぁ・・・きっと、いい顔してくれんだろうなぁ。」
シルバーが小さく呟く、すぐにブラックの鋭い視線に気付き、ぱっと姿を消した。
「黒猫・・・?ブラック様・・・そんなものにあんなに・・・・・胸糞悪いわ。殺してしまおうかしら。」
女は呟いた。
自分の持っていたナイフを、ダーツ板に投げつけながら。
「ブラック様には、いつでも笑っていてほしいもの。」
***
「行くのか?」
ジャックス一行は、荷物をまとめていた。
ゲーテは、起きたばかりなのか、ぼさぼさの髪のまま、大きな欠伸をしている。
「あぁ、そろそろ、な。」
「こんなむっさい町に、いつまでもいられるかっ!」
「ゲーテ、1人で大丈夫?」
「ジルッ・・・ったく、可愛げのねぇ・・・それに比べて、リンはいい子だなぁ。オイちゃんと一緒に、働かない?」
「あ、ははは。」
「うわぁ・・・なんか悲しくなってきた。」
リンは、ゲーテの言葉をただ作り笑いして聞き流していた。
そんなリンをみて、はぁっとため息をつくゲーテ。
「もう少しいてもよかったんじゃないのか?」
「いや、一刻も早くグレイを潰さないと、俺たちが逆に危ない。」
「それだけじゃ・・・ねぇんだろ?」
「・・・・・・まぁな。」
ゲーテから聞いた『未確認情報』。この情報の、真偽を確かめなければならない。
『お前の兄貴は・・・・生きているかも知れない』
もしも、本当なら・・・・ジャックスの脳裏には、嫌な記憶が過ぎる。
「ねぇ、ジャックス。」
「何だ、リン。」
「何があったのかは知らないけど、今度ちゃんと教えてね。」
「同感だっ。」
ジルとリンは笑いかける。ジャックスは、ふっと小さく笑みを浮べてから、二人(1人と一匹)の頭をぽんぽんと叩く
「話すさ。いつかな。」
「よし、いってこい!」
ゲーテにばしっと背中を押されて、ジャックス一行は、ガリラスの町を出た。
「次は、どこに向かうの?」
リンが不意に口にした。
「とりあえず、でかい町だな。金ないし。」
ジルがしみじみとした表情で言った。
一行は、森の中を歩いていた。
暖かい日差しが木々の間から、差し込んでくる。
鳥のさえずりが、子守唄のようで、歩いているというのに、何だか眠くなってくる。
「ジャックス?」
「ん・・・・なんだ?」
「眠そうだね。」
くすっと笑いながら、リンがいう。
「確かに、すこし・・・・眠い。」
「じゃあ、寝る?」
「は?」
「この辺なら、大丈夫だと思うよ。ジルが見張ってくれてるし。」
「俺かよ!?」
「だって、僕はジャックスと寝ないといけないから。」
そして、おおきな菩提樹によっかかりながら、リンとジャックスは眠りに落ちた。
・・・・ジャックス・・・・
また・・・またこの夢か。お前は、誰なんだ?
ジャックスは、夢と会話するようにして、問いていた。
・・・・お前の、一番大切なものは何だ?・・・・
「た・・・いせつ・・・?」
「ん・・・ジャックス?」
ジャックスの寝言でリンは目覚めた。
きっと、何かがあった時のために、気を研ぎ澄まさせていたに違いない。
俺の大切なモノ・・・・わからない・・・・。
「・・・・・んん?」
ジャックスは、目覚めた。
「随分、魘されていたぞ。」
「何か、変な夢でも見た?」
「いや・・・・別に・・・・」
これは、嵐の前のほんのひとときの静寂だった。