第三章〜ネラワレル猫
「う、うわぁ・・・・嫌って言うほど想像どおり・・・」
ジャックス一行は、森を抜けて、ガリラスの町に辿り着いた。
荒れた道。そして、その道に転がっている生きているのか死んでいるのかわからない男達。
当時は美しかったろうレンガも、がたがたの道に変わっている。
一言で言うと、捨てられた町。
「俺には、こういう場所の方があってると思わないか?」
「俺たちは賞金稼ぎだからな。」
「ジャックスには白い薔薇の花畑が似合うとおもうよ!綺麗だけど、近づいたら棘で傷つけられる。ジャックスそっくりじゃん。」
「それ、褒めてる?」
「うん。」
リンの言葉に半ば疑問を覚えながらも、全てが路地のような道を行った。
そして辿り着いたのは小さな店。
店内はぼろい布で隠されていて、よく見えない。
・・・・カランカラン・・・・
「いらっしゃ〜い。」
間延びした声。声とともに出てきたのは、灰色の猫。
それも、右耳に銃弾で打ち抜かれた跡がくっきりと残っている。
「おぉ、ジャックス。もう立ち直ったのか?」
「どうでもいいだろ。」
「うわ・・・・」
リンは驚いて声を漏らしていた。
いつもはクールで、ほとんど口を開かないジャックスが、この男の前では子供のようだ。
それにその男は、ジャックスの頭を、にたにたと笑いながら撫でていた。
「お?何?またなんか増えたわけ?」
「ああ、こいつはリン。」
「よ、よろしくお願いします。」
「はっはは。どこかの誰かさんを思い出すねぇ。俺は、ゲーテ。このダルクの店長様だ。ついでに言うと、ジャックスのお友達。」
「誰かさん?」
「あれ?聞いてねぇの?ジャックスは、昔は・・・」
「余計な事は言わなくて言い。」
その後、聞きたい聞きたいとリンとジルが駄々をこねていた。
だけど、ジャックスは絶対に口を開かなかった。
(そんなに嫌なことなのかなぁ・・・・)
「それで?リンの武器が欲しいってか。」
ゲーテにおおよその経緯を話すと、すぐに理解してくれた。
リンには、ジャックスからもらった頼りなさげなバタフライナイフくらいしかない。
身を守るには、少々少なすぎる。
「いいだろう、ツケにしてやるよ。リン、ちょっときな。」
「じゃ、俺は用事があるから。」
「え!?ジャックス、行っちゃうの?」
「安心しろ、戻ってくる。」
「へっへ〜ん。」
「ジルも残れ。俺は、1人で行く。」
「な、何でだよ!」
ジャックスはそれだけいうと、ダルクを出た。
向かうは、まともに起動しているかも分からない図書館。
ジャックスには、知らなければならないことがあった。
***
「ジャックスは、どんな子だった?」
ブラックが、暗闇に向かって話しかける。
「いい子でしたよ。従順で。見ていると、壊したくなりました。」
「ふっ・・・もしジャックスが来ても、君にはあげないからね。」
「あの子が自分で来ない限りは、でしょう?」
「来ないよ。絶対。」
暗闇から風が吹きぬけて、カーテンがひらっとまう。
ブラックは妖しげな笑みを口元に浮べて、言った。
「ジャックスが1番嫌いなのは・・・他でもない君なんだからね。」
***
「ジル、お前はどれがいいとおもう?」
「俺は、こいつには武器って言うよりドレスが似合うと思うぜ。」
「るっさいな。僕は、ちょっとでもジャックスの役に立ちたいんだ。」
リン・ジル・ゲーテは、リンに見合う武器を必死に選んでいた。
立ち並んでいる武器は、剣や銃のように直接相手に攻撃するものから、
爆弾、睡眠薬と間接的なものまで、ほとんど全てがそろっていた。
「まぁ、銅の剣でも持ってみるか。」
「うん・・・じゃなかった、はい。」
「はは。いいっていいって。」
そして、勇者が持っていそうな剣を持ってみる。
「ありえねぇ〜。」
「お前には、レイピアが似合うかも知れないな。」
レイピアとは、フェンシングの時に用いられるものである。
「でも、僕やったことないし・・・」
「大丈夫だ。ほれみろ、1番しっくり来る。」
「三銃士みてぇ。」
一番似合う、ということで、(ジャックスのツケにより)購入したのは、金のダガーと、銅のレイピア。
3人はおとなしく、ジャックスの帰りを待っていた。
そのころ、ジャックスは・・・
「・・・・・これか。」
手に取った本は、ギリシャ神話。
「『子に殺されるという予言を受けたため、自らの子供を食っていた。そして、最後の子供・ゼウスに殺される』・・・・・か。」
ジャックスが調べていたのは、クロノスについての文献だった。
本物のクロノスでなかったとしても、何か共通点はあるはず。
そう思って図書館にきたが、ほぼ無駄足であった。
・・・カランカラン・・・
「おかえり!ジャックス・・・・・?」
「情報をもらいに来たが、まさかここにいるとはな。」
リンは、ジャックスだと思って玄関に向かったが、男は違った。
銀色の髪、銀色の耳、そして銀色の尻尾・・・・。
「『Gray』のメンバーか。」
「俺はシルバー。さぁて、黒猫を出してもらおうか?」