表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死にたい僕ら  作者: うわの空
第2章 高宮瀝
9/34

 良哉が死んだ。その意味を理解するのに、どれくらいの時間がかかっただろうか。死んだということは、分かる。ただ、その意味が分からなかった。分からないまま、俺は良哉の通夜に参列した。その時、カナダに留学していた良哉の姉に、声をかけられた。

「あなたが高宮くん?」

「…そうです、けど」

 良哉の姉は、細い目を真っ赤にはらしていた。けれどもレキに向かって、なんとかほほ笑みながら言った。

「良哉とね、国際電話で何度か話してたんだけど、いつもあなたの名前が出てきたわ。良哉はずっとあなたに憧れてた。良哉とお友達でいてくれて…ありがとう」

 ありがとう、の声は大きく震えて、やがて嗚咽へと変わった。俺はそんな良哉の姉を見ながら、深い罪悪感に襲われていた。俺は最後に、あいつになんと言ったか。あれがあいつを追い詰めた、最後の引き金だったんじゃないのか。その考えはいつまでも、頭の隅にどす黒いシミを作った。

 美術室でそれを発見したのは、良哉が死んでから2週間後のことだった。美術部だった良哉の作品が残っていないかと、探しに行ったのだ。イーゼルに立てかけられていたはずの、描きかけの油絵はなくなっていた。俺は棚をあさって、良哉の過去の作品が一つでも残っていないかと探し続けた。すると、一つだけ出てきた。良哉のサイン入りの作品。それは、


 それはとにかく、モノクロだった。


 いつもはパステルカラーをふんだんに使って、淡いタッチの絵を描く良哉だが、この絵だけは違った。使われているのは黒と白と灰色。それだけだった。

 中央に大きな黒い穴が開いており、周りの景色はひび割れていた。それを見下すような格好で、人の足だけが書かれていた。それはまるで、首を吊った人が見ている景色のようだった。

 その絵を抱え込んだまま、俺は地面へとへたり込んだ。あいつは、あいつはいつから死ぬ気だったんだろうか。この絵を見る限り、少なくとも登校拒否になる前、美術部にはまだ通えていた頃から、そういうことを考え始めていたはずだ。俺は、あいつが学校に来れている間は大丈夫なんだと思っていた。いじめられていても、学校来てるあいつは大丈夫だと。いつものように絵を描いているあいつは大丈夫だと。俺に向かっていつものように微笑むあいつは大丈夫だと。

 大丈夫なんかじゃ、なかったんじゃないか。

「逃げたってよかったんだ…」

 もう一度、モノクロの絵を見ながら呟いた。届かないはずの相手に向かって。

「なあ、俺が間違えてた。逃げたってよかったよ。お前はよく頑張った。だから逃げたってよかったんだよ。だから、」

 モノクロの絵に、透明の雫が落ちる。自分の目から溢れ出ているそれを、レキは止められなかった。

「生きてて、ほしかった」

 なんであの時そう言えなかったのか。なんであの時ああ言ってしまったのか。伝えたい相手は、良哉は、帰ってこない。永遠に。

 美術室で、油絵を描いていた良哉の後ろ姿を思い出す。声をかける。振り返る。その顔は、笑っていて。

 いじめられているのを発見して、上級生を追っ払って、大丈夫かって声をかけた時。俺の方を見上げた顔は、やはり笑っていて。

 あいつはいつでも笑顔だったんだ。そう、


 俺が最後に会った、あの日以外は。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ