3
遊園地に入場してから本領を発揮したのはリナとユウだった。彼女たちは次々と自分たちの乗りたい乗り物を指名し、乗っていった。特に絶叫マシンが好きらしい。春彦は好きでも嫌いでもなかったが、次第にレキの顔が曇り始めた。
「…レキ、大丈夫か」
春彦は思わず、隣を歩くレキに声をかけた。
「ちょっと酔った…」
と、気持ち悪そうにレキは答える。
「俺も疲れた。ちょっと休もう」
まだまだ元気なリナとユウに、「俺たちちょっと休憩するから」と声をかける。さすがに心配そうにした彼女たちに、しばらく休めば大丈夫だから2人で適当に園内を回ってきてくれと言ったのはレキの方だった。
近くに売店があったので、そこで飲み物を買って、近くのベンチに腰掛けた。仲良く歩く女子二人を見ながら、春彦は呟いた。
「仲いいな、あの二人…。しかもなんか姉妹みたいだ」
リナとユウの身長差を見ていると、本当の姉妹のようにも見える。それを聞いたレキは笑った。
「だとしたら、ユウの方が姉だな」
「え?」
どう見たって、背の高いリナの方が姉だろう。活発な姉と、大人しい妹。という構図の方があっている気がする。
「分かんねえ?ああ見えて、頼ってるのはリナの方だ。リナがユウに頼ってる」
「そうか…?」
「まあパッと見じゃわかんねえよな。…死にたがりも、見ただけじゃ分かんねえし」
レキは、はしゃいでいるリナを見ながら言った。
「…お前も、死にたがりには見えない」
春彦はレキの方を見ながら声のトーンを落としていった。死にたがりと言う言葉は、遊園地では必要以上に浮いているように聞こえる。目の前を笑いながら走りぬけていく子供を見ながら、レキは笑って言った。
「死にたいんですーって名札を付けてる奴なんていないからな」
そう言い終わると黙りこんだ。長いような短いような沈黙。春彦は遠くの方を走っているジェットコースターを見ながらコーラを飲んだ。笑い声と、明るいBGMの響く園内。それはまるで非現実だった。本来なら、「死にたがり」と言う単語の方が現実的なはずなのに、それすら浮いて聞こえるくらい、この場所では非現実の空気が普通の空気だった。
「お前さ、本当に人を殺したのか」
レキの声に、春彦は思わず睨み返した。しかし予想とは違い、レキは笑っていなかった。真剣で、どこか悲しそうな顔。レキの目は、目の前ではしゃぐ子供たちを見ていた。しかし見ていなかった。レキの目は、なにも映していなかった。いや、
「俺は友達を殺した」
レキの目は過去を見ていた。もう2度と戻れない、過去を。
「俺があいつを殺したんだよ」
レキの声が、春彦をその過去と連れて行った。