2
午前中で入学式は終わり、みんな笑顔で下校していく。そんな中、春彦は会議室Cの前まで来ていた。
会議室Cは、一階の一番端に位置していた。周囲に人通りもなく、孤立したような1角に、その教室はあった。春彦は地図を使って会議室Cの場所を調べ、そしてやってきた。しかし、と思う。彼は会議室のドアの前で一人で苦笑した。自分の長所は真面目なところで、短所は真面目すぎるところだと思う。なんであの男子の言うとおり、のこのことここまでやって来たのか。春彦は自分に呆れた。…帰ろう。
ところが踵を返したとたんに背後から、つまり会議室Cからドアの開く音がした。
「あー!!ちょっと待って!!」
高い、しかし聞き取りやすい女の声が響いた。その声に反応して、思わず立ち止まってしまう。そして、後ろを振り返った。
会議室から顔を出していたのは、新1年生らしい女生徒だった。新一年生らしいというのは、彼女の胸にピンク色の造花が付いているから分かったことだ。あの造花は、入学式のときに新入生に配られたものだ。もちろん春彦も持っている。さすがに、今はもう付けていないが。
しかし、その造花を除けば、彼女は1年生には見えなかった。
赤茶色で長い髪の毛、綺麗に施された化粧、それから、すでにこの学校に打ち解けているような彼女の空気。どこからどう見ても、上級生に見えた。先ほどのチャラい男といい、入学式の日から校則違反をしているなんていい度胸だと思う。
「ねえ、レキ!あんたが言ってたシオンって、あの人?」
人違いだ。春彦は少しだけ安堵した。自分は遠野春彦であり、シオンではない。
そう思っていたのに、会議室からもう一つ覗いた顔は、…高宮瀝ははっきりと
「あ、そうそう。あれがシオン!」
そう言った。
「…はあ?」
「おーい!とりあえずこっち来いよ!せっかく来たんだから」
と高宮が叫んでいる間に、赤茶色の髪をした女がこちらへ走ってきていた。捕獲!と言わんばかりにがっしりと腕を掴まれる。
「ね、ね!とりあえず中、入りなよ!!」
困惑している春彦を、女は腕を掴んだままずるずると引っ張っていく。半ば…というかほぼ強制的に、会議室の中に引きずり込まれた。
「よお、シオン!」
回転椅子にどっかりと座った高宮が、春彦を見て嬉しそうな声を出す。そしてとびっきりの笑顔で、こう続けた。
「ようこそ、自殺部へ!!」