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死にたい僕ら  作者: うわの空
第4章 坂東優子
28/34

 ユウが見つかったという連絡が入ったのは、日が暮れてから大分たった後だった。春彦とレキは息を切らしながらその報告を聞いて、地面に座り込んだ。

「よかった…」

 どちらともなく呟く。そのあと二人同時に腹が鳴って、顔を見合せて笑った。

「腹減ったな、シオンもか」

「ああ。…ラーメンが食べたい」

「この前の店?」

「ああ」

 春彦はモヤシラーメンのことを思い出しながら笑った。

「リナ達も来るかな。訊いてみるか」

 レキがもう一度、携帯を取り出した。



「…レキが、ラーメン屋に行かないかって言ってるけど…どうする?」

 リナが鼻の詰まった声で訊いてきた。

「…行く」

「無理しなくてもいいわよ?食べられないなら…」

「いや、行く。行くだけでもいいから」

 わたしは鞄を持って、立ち上がった。リナも立ち上がると、強い風が吹き抜けた。

「…なんでここだって分かった?」

 ようやく、私は訊きたかったことを訊いた。

「風の音が強かったから、屋上かなって。今日は下の方はそんなに吹いてないから。後、飛び降りやすそうで誰でも出入りできる屋上って、この辺ではここくらいしかないから」

 リナがそう言うのを聞いて、思わず振り返った。リナは笑っていた。

「私もね、飛び降りる場所を探したことあるの」

 その笑顔は、とても綺麗だった。



 ラーメン屋に現れた二人は、目が真っ赤だった。

「…おいおい、大丈夫かよ」

 レキがわざと茶化しながら言うと、リナが笑いながら

「むしろ泣きすぎておなか減ってんのよ。私、モヤシラーメンね」

「え、リナ、モヤシラーメン完食できるのか?」

 春彦は焦った。

「もちろん。あんなのあっという間でしょ?」

 春彦がおかしいのか、2人がおかしいのか。春彦にはもはや分からなかった。

「ユウ、どうする?」

「…わたしはいい」

「んじゃ、モヤシラーメン3つ」

 と、レキが注文したあとで、

「あと、取り分ける皿とかあったら貸してください」

 と、春彦が付け加えた。

「お子様茶碗でよろしいですか」

「あ、それでいいです」

「なんなのシオン。猫舌なの?」

「いや」

 春彦は苦笑した。


 運ばれてきたモヤシラーメンは、相変わらずのボリュームだった。リナとレキが器用にそれを食べ始めたのを見ながら、春彦はモヤシの3分の1ほどをお子様茶碗に移した。そして、

「ユウ、よかったら食べないか」

 と声をかけた。ユウは眼丸くしている。

「モヤシくらいなら、食べても大丈夫かなって」

 春彦は少し声を小さくして言った。リナが心配そうにユウの方を見ている。ユウは少しだけ迷った後、

「…食べる」

 と言って、お子様茶碗を自分の元へ引き寄せた。それを見たリナがうれしそうに、ユウに割り箸を渡す。

「モヤシはねー、こう見えても栄養たっぷりなんだからね!!」

 ユウは頬を緩めて、おそるおそるモヤシを食べ始めた。

「…おいしい」

 それを聞いて、春彦も笑った。

「もしも足りなかったらいつでも言ってくれ。一緒に食べよう」

 その日、春彦は初めてモヤシラーメンを完食した。ただし、ユウと二人がかりだったが。


 皆と別れた後、ユウは駅のホームのベンチに座って、母の形見の手帳を開いていた。最後のページには、たった一言、「ごめんね」とだけ書かれていた。

 鞄の中からボールペンを取り出す。そして、母の文字の下に書き加えた。



「大丈夫。わたしは生きていく」


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