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死にたい僕ら  作者: うわの空
第4章 坂東優子
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 会議室に充満している甘ったるいにおいに、春彦は驚いた。そこにいたのはユウ一人だけ。チョコレート菓子を食べていたユウは、ノックもせずにドアを開けた春彦に驚き、それから一瞬だけしまったという顔をした。春彦は唖然とした。机の上にあったお菓子の空袋は、尋常な量ではなかった。

 ユウはごみをかき集めて立ち上がると、ドアの前で立ち尽くしている春彦の横をすり抜けて走って行った。ちょうど後ろから来ていたリナにぶつかったらしく、「わ!」と言うリナの声が廊下に響いた。

「…食欲の秋、か?」

 後からやってきたリナは春彦のそのひとりごとを聞いて、顔が曇った。

「あの子、何してた?」

「なんかお菓子食べてたけど」

「…。」

 リナの様子がおかしい。自分が何かまずい物を見てしまったような気がして、春彦は押し黙った。何となく気まずいので、窓を開けようと部屋の奥へと歩いていく。開けた窓からは、少しひんやりした秋の風と、部屋のそばにあるイチョウの木の葉が舞い込んできた。

「最近、ユウの様子おかしいよな」

 気になっていたことを、声に出してリナに尋ねた。本人には尋ね辛かった。

「…そう?」

「ああ、なんかいつもフラフラしてるっていうか。顔色悪いし」

「…かなあ」

 その時ちょうど、春彦の携帯が鳴った。初期設定のままの呼び出し音は、部屋の中で必要以上にうるさく響いた。

「おう、レキ?…ああ、分かった」

 必要最小限の会話をして、電話を切る。

「今日レキ、バイトがあるから来ないって」

「…そう」

 大きな風が入りこみ、カーテンがバサッという音を立てた。以前自分たちが崩してしまったプリントの束は、リナがきっちり棚の中に整理していたので、少々の風では崩れない。

「今日はもう帰ろうか」

 言いだしたのは、リナの方だった。

「え?」

「ユウもなんか体調悪そうだし。私も今日は用事があるから」

 リナはユウが放りっぱなしにしていた鞄を持ち上げると、ドアに向かって歩き出した。

「…じゃあね」

「ああ。…ユウによろしく」

 リナが出て行き、一人きりになった春彦は窓をそっと閉めた。暴れていたカーテンが、途端に大人しくなる。

 部屋の中にはまだ、甘ったるいチョコレートの匂いがかすかに残っていた。



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