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死にたい僕ら  作者: うわの空
第3章 相葉理奈
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10

 どんな顔をすればいいんだろう。病室が近付くにつれ、不安になった。腕に抱えた花束を覆っているセロハンがカサカサと揺れる音を聞きながら、リナは自分の顔がどんどん暗くなっていることを自覚していた。

 レキが刺されて入院したという報告を受けたのは、翌日の朝だった。シオンから聞いた話によると、レキが倒れているのをホテルの係員が発見したらしい。他の男たちはすでに逃げていなかった。幸いにも内臓は傷ついておらず、全治3週間。警察に事情聴取されたレキは、知らない男に突然刺されたと言ったらしい。

「なんで…」

 その報告を受けた時、思わずリナは呟いた。なんで、の続きにはいろんな意味があった。

なんで刺されたのか。なんで嘘をついたのか。

「直接聞きなよ」

 シオンはそう言って、レキの入院した病院と、病室を教えてくれた。


 レキのいる大部屋が見えて来た。ネームプレートを確認すると、4人部屋のその部屋には現在レキしかいない。一瞬迷ってから、何も言わずにドアを開ける。

 パジャマ姿のレキは、窓側のベッドで頬杖をついていた。ドアの開く音を聞いて、こちらを振り向く。それから、笑った。

「よお」

 それはまるで、いつもの朝のあいさつのように。

「…よお」

 思わずオウム返しで返事をした後、顔をそむけた。

「大丈夫だったか」

 そう声をかけてきたのはレキの方だった。

「…私は。シオンも無事」

「よかった」

「よくないわよ」

 必要以上に大きな声で返してしまってから、また口ごもった。

「…お前いつまでそこに突っ立ってんの。こっちくれば」

 レキがいててと言いながら、ベッドのそばにあったパイプいすをベッドの方に寄せた。リナはゆっくりと椅子に近づき、座る。そのあと、見舞いの花を持ちっぱなしだったのを思い出した。

「…後で花瓶貸して」

「おお、サンキュ」

「…傷、大丈夫?」

 ようやく、訊きたいことの一つ目を訊けた。その質問に、レキは苦笑した。

「お前の腕よりマシ」

「私の傷なんか大したことないわよ」

「だけどお前の傷の方が痛そうだ」

 と言って笑った。リナはレキから目をそらす。どんな顔をすればいいのか、分からない。今自分が、どんな顔をしているのかも。

「なんでウソついたの」

「あ?」

「あの金髪の男。なんで知らない男だって言ったの。私があいつの連絡先を知ってるの、あんただって知ってるんでしょ」

「ああ」

 レキは花束を見ながら、少しだけ声を小さくして言った。

「それ言ったら、お前がやってたことも全部ばれるだろ」

「…。」

「おかげさまで、警察では不良同士のケンカって話になってるよ。中学の頃、俺も結構やんちゃしてたしなー」

 レキが笑おうとしてから、いてて…と小さくうめいた。

「やっぱり痛いんじゃない」

「そりゃな。身体切れてんだから」

 リナは自分の左腕に、右手をのせた。

「お前はさ、確かに一人だよ」

 レキがその様子を見ながら、真剣な口調で言った。

「だけど、独りじゃない。そばに誰かいなくても、お前のことを思ってるやつはいる。そういう意味で、お前は独りじゃない」

 リナは顔をあげた。レキと真正面から視線がぶつかる。レキはほほ笑んだ。

「俺たちじゃ、埋められないかもな。だけど何度でも言う」

 ぼやけた視界の中で、その声ははっきりと聞こえた。


「お前は独りじゃない」



 花瓶と花を持って、リナは部屋を出た。ふと横を見ると、廊下の向こうから小さな人影があるいてくるのが見えた。

「…ユウ!?」

 それは確かに、ユウだった。ユウはリナの方を見て、片手をあげた。

「シオンから、レキが入院したって聞いて」

 リンゴの入った袋をガサガサいわせながら、ユウがリナに近づいてくる。

「…シオンから、その話聞いた?」

「え?」

「なんで刺されたか、とか…」

「なんか、他校の不良と喧嘩したって聞いたけど」

 シオンもレキも、私のことは何も伝えていないらしい。ユウは警察と一緒で、レキが刺された原因をただの喧嘩だと思っている。リナは黙り込んだ。

 そんなリナの顔を見て、一瞬だけユウが目を見開いた。多分、私の目は充血してるんだと思う。あれだけ泣いたんだから。

 ユウはこちらを見ながら、小さな声で、けれどもはっきりと言った。

「…おかえり」

 リナは驚いて、ユウを見た。どこかに行っていた覚えはない。だけど、

「…ただいま」

 やっと帰ってこれた。そんな感じがした。



 携帯の電話帳から、あの男のアドレスを探す。そしてそのまま消去した。

 剃刀は相変わらずポーチの中に入ったままで、手放す気はない。リナはアドレスが消去されているのを確認すると、携帯を閉じた。せめてこれだけでも、もう辞めよう。

 穴は埋まっていない。だけど、


 私は、独りじゃないから。




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