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男二人でラブホテルに入ると、かなり勘違いされる気がする。という心配は必要なかった。レキが探していたのは、ラブホテルではなくてビジネスホテルだった。リナが歩いていった方向にはラブホテルが立ち並んでいたが、レキはそこをさっさと通過すると、ビジネスホテルを探せと言ってきた。
「…なんでビジネスホテルなんだ?」
思わず問いかける。ラブホテルだと決めつけていたのもどうかと思うが、男女で行くホテルと言えばやっぱりあちらだろう。
「1対3のあの組み合わせじゃ、ラブホには入りづらい。入店を断られる可能性も高い」
「そうなのか」
「知らなかったのか?」
春彦は黙り込む。知らなかった。
「だとすれば多分、ビジネスホテルの4人部屋だ。それならまだ不自然じゃない」
正直、それも希望的観測だ。何もホテルに入ったとは限らない。男の家に連れ込まれた可能性だってある。春彦はそう思ったが、声には出さなかった。
ホテル街を抜けてしばらくすると、少しさびれたビジネスホテルを見つけた。レキは迷わずそこに入ると、フロント係に笑顔で尋ねた。
「ついさっきここに、男女4人組が入りませんでしたか。多分、予約名は相葉」
フロント係が名簿を確認する。
「さっきチェックインされたところですが…」
ビンゴ。春彦は感心した。
「部屋番号、教えてもらえませんか」
さすがにフロントが不審に思ったらしく、「どういう御用件でしょうか」と訊いてきた。
「忘れ物をね、届けに来たんです」
レキはにやりと笑って言った。
上昇するエレベータの中で、レキは回数表示をにらみつけていた。しばらく無言だったが、
「…これがな、初めてじゃないんだ」
「え?」
「リナがホテルに入るのを、何回か見たことがる。だから分かった」
レキの顔は笑っていなかった。むしろその顔には、怒りの感情が浮かび上がっていた。
「出来るだけ穏便にするつもりだけど、万が一の時はお前がリナを連れて逃げろ。リナの家は、ここからそんなに遠くなかったはずだ」
「お前は?」
レキはふっと笑った。
「リナの代わりに、あいつらのお相手をしてさしあげるだけだ」
目的の階につき、ドアが開いた。
「行くぞ」