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死にたい僕ら  作者: うわの空
第3章 相葉理奈
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 どんぶりの上のあふれんばかりのモヤシに、春彦は辟易していた。あふれんばかりというか、あふれていた。大量のモヤシの所為で、肝心の麺が見えない。

 レキが安くてうまくてオススメだから行こうと誘ったラーメン屋は、確かに安かった。モヤシラーメン1杯400円。学生としては嬉しい値段だ。ただしその値段に反して、量がえげつなかった。確かに自分はモヤシラーメンを頼んだが、そこまでモヤシ好きだった覚えはない。目の前に置かれたどんぶり、その上に山のように積まれたモヤシを見て目を見開く春彦に、レキはニヤニヤしながら言った。

「おもしれえだろ」

「面白いとかいう問題か…?」

「大丈夫ダイジョーブ!意外とあっさり食べられるんだって!」

 レキは春彦に割り箸を手渡してから自分の割り箸を割ると、モヤシを落とさないように慎重に、かつ器用に食べ始めた。春彦もそれに倣う。モヤシにはピリ辛のタレがかかっていて、確かにうまかった。しかしこれでは、麺にたどりつく頃にはすっかり伸びているだろうと思う。春彦はモヤシをひたすら咀嚼しながら言った。

「…次にこの店に来た時は、俺はモヤシの量を半分にしてもらえるように頼もう」

「マジで?じゃ、その分俺に乗っけてもらおうかな」

「…男子学生二人が真剣にモヤシを食べてるこの光景は、結構シュールだと思うぞ」

 このラーメン店はガラス張りで、外の風景がよく見えた。逆に言うと、外から店内の風景もよく見えるということだ。

「だけど安いし美味いだろ?」

「まあな…」

 春彦はレンゲで、スープを掬おうとした。しかし、モヤシが邪魔で掬えない。春彦はスープを諦めて、モヤシに専念した。


 モヤシを半分以上食べ終わった頃、春彦は食べ疲れて一服していた。レキはというとその勢いを止めることなく、既に麺に取り掛かっている。ピリ辛のモヤシは確かにうまいが、続けて食べると辛い。春彦は水を飲みながら、何気なく外の通りを見た。入店した頃は薄暗かった空は、すっかり暗くなっている。駅から近いせいか、店の外を通る人はそこそこ多かった。その中に、見知った顔がいた。気がする。

「あれ…?」

 思わず声に出して呟いた。

「どうした」

 レキが麺をすすりながら、春彦の方を見上げる。

「あれ、リナじゃないのか」

 春彦が見ている方へ、レキも視線を移す。

 ワンピースに薄い長袖カーディガンを羽織っているリナらしき人物と、若い男が何人か連れ添って歩いているのが見える。若い男たちは正直言って、素行の悪そうな連中だった。そして、その顔はいかにも下心丸出しだった。

「ガラの悪い連中だな、人違いか?」

 と言いながらもその後ろ姿を目で追っていると、レキが残っている麺をすすりあげる音が聞こえた。

「行くぞ」

「え?」

 窓の外から視線を戻すと、レキは既に立ち上がっていた。声が明らかに苛立っている。

「あれはリナだ。追うぞ」

「追うぞって、ちょっと待てよ…」

 春彦が抗議の声をあげている間に、レキが会計を済ませている。

「なんでだよ、どういうことだ」

「おまえあれが、普通の楽しいデートに見えたか」

 見えなかった。第一、デートにしては人数がおかしい。リナ1人に対して、男は3人もいた。しかも、ガラの悪い奴らばっかり。

「あんまり介入するつもりはなかったんだけどな…」

 レキが呟くのを聞いて、春彦は勘付いた。

「何か知ってるのか?」

 レキがこちらを見る。その眼に宿っているのは怒りと、

「まあな。後で説明する」

 悲しみ。

 その眼を見た春彦は諦めて、鞄を掴んで立ち上がった。結局、肝心の麺は1本も食べられなかった。ああ、次にこの店に来た時は絶対に、モヤシの量は減らしてくださいと言おうと思いながら春彦は店の外に出た。

「どこに行ったのか分かるのか?」

 前を早歩きするレキに、息を切らしながら問う。

「大体。でもどれに入ったかは分からない」


 レキが向かったのは…ホテル街だった。


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