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死にたい僕ら  作者: うわの空
第3章 相葉理奈
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 リナは、ポーチの中からシミのついたハンカチを取り出した。あの時のハンカチは、今でも剃刀と一緒に持ち歩いている。洗っても茶色いシミが残ってしまったハンカチは、あの日以来使っていない。

 伸びをしながら、ベッドの上に仰向けに寝転がった。見慣れた自分の部屋の天井。一番日当たりが良くて一番大きな部屋を、と与えられたリナの部屋は、確かに日当たりも良くて広かった。その分、孤独感が増す。家が広ければ広いほど、一人だという事実が浮きあがる。誰もいない家に入った瞬間の、暗くて冷たい空気。リナはこの家があまり好きではなかった。ため息をついて、そばにあったぬいぐるみを何となく触る。遊園地で取ったアルパカのぬいぐるみは、触り心地がとても良かった。


 さみしさは増す。切れば切るほど。いつまでたっても埋まらないその穴は、いつからか当たり前のように自分の中にあった。当たり前のように心の中にあるくせにその存在感は強烈で、毎日毎日叫ぶように啼く。さみしい。さみしい。埋めたい。


 ブブブブブブブ…。ベッドサイドに置いていた携帯が震えた。

 ディスプレイに表示された名前を確認してから、通話ボタンを押す。自分から声は出さない。出したくなかった。

「…あいてる?」

 若い男の声で、一言。

「うん」

 スケジュールも、心の中も。スカスカだよなあ、と思わず笑った。

「何笑ってんだよ。気持ち悪い」

「別に」

「今夜」

 それだけ言い残すと、相手は電話を切った。場所も時間も言わない。言わなくても分かるから。通話時間13秒と表示されたディスプレイを、リナは無言で見つめた。

 身体を切ることも、『これ』も。私はまだ続けている。いつまで続ける気なんだろう。

「…埋まるまで」

 声に出してみてから、わらった。ハンカチをポーチにしまって、代わりに剃刀を取り出し、キャップを外す。刃を腕に押し当てて、それからもう一度嗤った。


 こんな方法では埋まらないなんて、とっくの昔に知ってる癖に。



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