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死にたい僕ら  作者: うわの空
第3章 相葉理奈
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「あっちい~…!!」

 レキがさも暑そうな声を出した。会議室Cには、冷房がない。ドアを開けた瞬間こちらにやって来るむせ返るような空気を、春彦はもろに浴びた。一気に汗が噴き出たような気がする。

「とりあえず窓開けようぜ、窓!」

 と叫びながら、レキが窓へと駆け寄る。錆びたカギに少々手こずってから、窓を全開にした。近くなる蝉の声と、室内に勢いよく入り込む生ぬるい風。その風は乱雑に積み上げられていたプリントに直撃し、プリントの束が床へと崩れ落ちた。何枚かはしばらくひらひらと空中を舞った後、春彦の足もとにまで落ちてきた。

「うっわー!すっげーメンドイことになった!」

 レキが面倒くささ丸出しの声で叫んだ。

「…いいんじゃないのか、このまま放っておいて。どうせこのプリント、使わないんだろ」

「…なにお前、会議室が汚いままでもいいのかよ」

「そりゃ嫌だが、拾うのはもっと面倒くさいね。気になるならお前一人で掃除しろよ、レキ。窓を開けたのもお前だろ」

「…。」

 レキはしばらく、春彦の方を睨んでいた。


「うっわなにこれ!!泥棒でも入ったの!?」

 会議室に入ってくるやいなや、リナが叫んだ。床一面に散乱した、黄ばんだプリント。窓から入ってくる風がカーテンをバタバタと揺らしていて、「犯人はここから逃げました」と言わんばかりの演出になっていた。

「風の仕業だっつうの。俺の所為じゃねえし」

「あんたたち、よくこんなきったない部屋にいられるわね!!ほら、片づけなよ」

「俺は別にこのままでもいい」

 と開き直るレキ。

「まあ、気になったやつが片づければいいんじゃないのか」

 と春彦。

「信じらんない!」

 リナは机の上にドカッと自分のカバンを置くと、しゃがみこんでプリントを拾い始めた。

 春彦はドアの方を見た。ユウの姿が見えない。

「ユウは?」

「あれ、言ってなかった?」

 リナがせっせとプリントを集めながら言う。

「ユウは今日、学校に来てないわよ」

「へえ…。珍しいな」

 自殺部は春以降、結局毎日のように放課後に集まっていた。バイトをしているレキは休むことも多かったが、ユウと春彦は皆勤だった。リナはたまに「用事があるから」とユウに伝言して、休むことがあった。

 リナとレキならともかく、ユウがいないとは珍しい。

「ユウのお母さんの命日か」

レキが思い出したように言った。春彦は驚いて、レキの方を見る。

「ユウの母親、亡くなってんだよ。今は母方のおばあちゃんと一緒に住んでんの」

「そうなのか…」

 そのまま、沈黙。リナがプリントを拾い上げる音が、やたらと大きく聞こえる。せっせと集めるリナの後ろ姿を見ていたら、さすがに不憫になってきた。

「手伝うよ」と言って、春彦はしゃがんだ。

「シオンお前!!裏切ったな!!」

「別に。拾いたくなっただけー」

 春彦は笑いながら、足元にあるプリントを集めていった。額から汗が落ちて、プリントに染みを作った。今日は本当に暑い。

 集め終わったプリントを、リナに手渡した。

「はいはい、残りは私が綺麗に積み直しとくから。どうもありがと」

 と言いながら手を伸ばすリナ。手を伸ばしたせいで、長袖ブラウスの袖が少し下に落ちた。


 そこから覗いたのは、何本もの茶色い線だった。


「…!」

 春彦はその線に見覚えがあった。そうか、リナは…。

「リナ、見えてんぞ」

 指摘したのはレキだった。リナは自分の腕を見て、ああ、と苦笑した。

「増えてんじゃねえのか、傷」

「そんなことないわよ」

「嘘つけ。この前までそんなとこに縦線なんてなかっただろうが」

 レキとのやりとりを、春彦は無言で見守りづける。どこで突っ込めばいいのか分からない。そんな春彦の様子を見て、レキは苦笑した。

「シオンのリストバンドの中身と、同じようなもんだ」

 言われて春彦は、自分の左手首のリストバンドを握った。その下にあるのは、ナイフでえぐるように切った傷跡。

 春彦はリナと同じような傷跡を、自分の手首に見たことがあった。茶色く色素沈着した傷。時間がたてば白くなるだろうその傷を。春彦の方を見たリナは、少しだけばつの悪そうな顔をしてから笑った。

「私もね、自分の身体切るの。それだけ」

 淡々としているのに、深く感情のこもった声だった。




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